事業譲渡の契約書作成時の注意点は?必須の条項や役立つテンプレートをご紹介!

事業承継の方法としては、株式譲渡と事業譲渡の2種類がありますが、今回はそのうちでも事業譲渡における契約書の作成について解説させていただきます。事業譲渡は、株式譲渡と比較しても法的にも考慮するポイントが多い方法です。したがって、契約作成にあたっても様々な注意点がありますので、その点について解説させていただきます。

1 事業譲渡のメリットとデメリットは?

それでは、まず事業承継において、事業譲渡を行う場合のメリットとデメリットを見ていきましょう。

事業譲渡のメリット

  • 譲渡する対象とする資産や債務を自由に決めることができるため、特定の金銭債務だけ譲り受けないといったことや、自社にとって不要な事業は除外することが可能
  • 合併や会社分割などと異なり、契約書の備置や債権者異議手続などが不要となる。

事業譲渡のデメリット

  • 財産関係の資産が包括的に移転しないため、1つずつ対抗要件を持てるよう登記等の手続きをする必要がある。
  • 従業員や取引先との契約上の地位を引き継ぐためには、相手方の承諾が原則必要となる。
  • 許認可の必要な事業を引き継ぐ場合には、譲受企業が事業における許認可を持っていない場合には、改めて許認可を取得する必要がある。

 

2 事業譲渡契約書とは?

事業譲渡契約書とは、事業の一部や、全部を譲渡する際の譲渡側と譲受側企業との間で作成される契約書です。事業譲渡契約書がなぜ必要かというと、事業譲渡をした後のトラブルを未然に予防するためと、会社法21条の認知をはかるためという理由があります。

それでは、事業譲渡契約書の目的について詳細にみていきましょう。

事業譲渡後のトラブルの防止

事業譲渡が完了した後でお互いの認識の違いなどが判明し、トラブルになってしまうことがよくあります。したがって、ここでは事業譲渡後のよく起こりがちなトラブルをご紹介いたします。

①未払い債務に関する支払い

事業譲渡では、事業の譲受側に対して譲渡されない債務もあります。このような債務は事業譲渡をした後も、譲渡側の企業に未払いの債務が残ることとなります。未払い債務がある場合、譲渡側が債務負担しなければならず、事業譲渡後も債権者に対して継続的に支払いを行う必要があります。

このような未払い債務があった場合に、譲受側、譲渡側のいずれの企業が負担するかについて明確に定められていないと後で問題となることが多いため、この点は譲渡契約書に記載するようにしましょう。

②著作人格権に対する予防

ウェブサイト等の著作物においては、著作権に加え、著作者人格権が含まれていることがあります。著作者人格権は、著作物を作成した人の人格を守るための権利であり、著作物のように譲渡ができないものとなっています。

したがって、事業譲渡契約書においても、この著作人格権を譲渡することができず、著作者が権利を主張すると、譲り受けた側が著作物の使用や改変を行うことができないケースが発生します。こうしたトラブルを防ぐために、事業譲渡契約書に著作者人格権を行使しない旨の条項をいれるようにするべきです。

③損害賠償責任請求の発生について

事業譲渡後に買い手側から損害賠償の請求を受けるケースがあります。例えば、承継した資産などに瑕疵が認められる場合等には、売り手側の企業は瑕疵担保の責任を負わないといけなくなる場合があります。こういった事態を回避するためには、譲渡側は事業譲渡契約書に、表明保証や補償事項を盛り込むようにしましょう。

また、譲受側の企業は、最終的に契約を締結する前のデューデリジェンスで、瑕疵の可能性を見極め、可能性がある資産等については、事業譲渡契約書に表明保証・補償事項を具体的に記載するとよいでしょう。

会社法21条の認知や了承を得るため

事業譲渡契約書が必要な理由としては、取引相手に会社法21条の認知や、了承を得なければならない場合があるからです。会社法の21条は、競業避止義務を定めたものであり、事業譲渡後、売り手側は同じ市町村・近隣の市町村で、20年の間同じ事業を行うことができないとされています。

この規定は原則であるため、買い手側、売り手側双方の同意によって地域や期間の変更も可能です。したがって、買い手側は、競業避止の範囲を市町村から都道府県へと広げたり、最長30年のより長い競業避止期間を定めたりもします。

3 事業譲渡契約書の作成のポイント

それでは、具体的な事業譲渡契約書の作成のポイントを見ていきましょう。以下で上げる項目は、事業譲渡契約書でよく争点になる部分であり、注意点が必要です。

(1)事業譲渡の対象となる資産と負債

事業譲渡契約書で最も重要なのが、譲渡対象とする資産と負債に関する記載です。承継する資産等を明確に記入しておかないと、事業譲渡後に損害賠償請求などのトラブルの原因となってしまうこともあります。

一般的に譲渡財産の記載は、譲渡する資産や負債、事業に関する契約、従業員の雇用などについてであり、これらを項目別に契約書とは別紙の目録としてまとめることが一般的です。

事業譲渡では、会社が保有するすべての資産を承継するわけではなく、譲渡される事業に関連した資産が選択されるのが通常です。

例えば、承継の対象となる資産には、売り手所有の事業用の不動産や、店舗で使われている備品や什器、事業に必要な機械類などが挙げられます。この際、記載の項目としては、承継する資産の内容に加え、不動産の移転登記や、登録免許税などの費用負担や手続きをどちらが負担するかなどについても記載しておくようにしましょう。また、著作物を譲り受ける場合には、承継後のトラブル回避のために、売り手側が著作人格権を行使しない旨を明記する必要があります。

なお、目録に記載しないといけない対象の資産が多い場合には、「○○に関するすべての資産」と記載し、承継しない資産については、「ただし、○○は除く」と注釈を記載します。

また事業承継の対象とする債務としては、流動負債と固定負債があります。流動負債とは、短い期間のうちに返済する負債のことであり、未払金や買掛金、リースなどが該当します。

固定債務は、1年以上の長期に渡って返済する債務であり、社債や長期借入金などがあります。

債務を承継する場合には、債権者への通知や承認が必要な場合もあります。また、譲渡の制限がある債務もあるため、売り手企業と債権者の間で結ばれている契約の内容も確認しておくほうがよいでしょう。

また、売り手側のオーナー経営者に借入金への連帯保証がある場合、契約後に連帯保証を買い手側に引き継いでもらうための条項を盛り込むことも検討しましょう。

また、契約においても債務や債券と同様に目録へと記載するべき事項となります。承継の対象となる契約としては、事務所や店舗などの賃貸借契約や、取引先との取引契約、従業員との雇用契約などがあります。

事業譲渡契約書を締結したとしても、こうした契約はそのままでは承継されず、相手と再締結を行う必要があります。したがって、売り手側は事業譲渡について契約先の承認を得る旨を、買い手側からは契約書要求しましょう。

(2)公租公課の負担

公租公課とは、国に納める事業税・固定資産税・自動車税といった税金や雇用・社会保険等の保険料のことです。これらの負担の方法としてよくとられるのが、クロージング日を境にして、公租公課の負担をわけるやり方です。

契約書において記述した譲渡日前は売り手側の負担とし、譲渡日後に発生する公租公課については、買い手の負担とします。月の途中の場合においては、負担額を日割りで計算するなどの計算方法についても記述し、買い手側、売り手側それぞれの支払額を明確にするようにしましょう。

また、誤って相手側が負担するべき公租公課について支払ってしまう可能性もあるため、こうしたケースに備え、誤って支払いをした場合には後程相手側に対してその分に対する清算をもとめることができる旨も記載しておくほうがよいでしょう。

(3)従業員の継続的な雇用について

買い手側が従業員の雇用の継続を希望する場合には、従業員と新たな雇用契約の再締結が必要です。したがって、事業譲渡契約書には、譲渡日において継続して雇用する従業員、解雇する従業員について目録を作成し、継続する従業員については再契約を行う旨を事業譲渡契約書に記載するようにしましょう。

また、この際、従業員本人の意思についても確認が必要であり、買い手が雇用を希望する従業員については、売り手側が再雇用の承認を得るようにすることも忘れず記載するようにします。なお、買い手側は、未払いの退職金や給料、残業代などの債務や、消化していない有給休暇、勤続年数を承継時に引き継ぐかも契約書には加えておくほうがよいでしょう。

雇用を継続する従業員については、以下のような目録を作成し、契約書に添付します。

買手が売手から承継する従業員は、本件事業に関する以下の従業員とする。

      山田 太郎

      山田 次郎

(4)競業禁止についての記載

事業譲渡契約書には、競業避止業務についての記載も必要な場合にはしておくとよいでしょう。競業禁止について特別に規定を設けない場合は、競業禁止期間は20年とされており、事業活動を禁止する地域は同じ市町村と隣の市町村になります。この期間や地域について、事業譲渡後の経営に影響が出ないよう、設定をする必要があります。例えば、インターネットを通じたビジネスを行っている場合においては、少なくとも対象地域として日本全国を設定しておくべきです。

(5)商号続用時の免責登記の記載

商号の続用とは、買い手側が売り手の譲渡された事業の商号を引き継ぐことを言い、この場合、通常は売り手の債務を引き継ぐことになります。

しかしながら、買い手側の企業が、事業譲渡後に残った債務の弁済を希望しない場合、債務の弁済を避けられる免責登記という仕組みがあります。

免責登記を行う場合、買い手企業が事業譲渡後すぐに債務を弁済しない旨を本店の所在地の法務局で、登記しなければいけません。買い手が免責登記を希望する場合は、事業譲渡契約書に免責登記の条項を加えておきます。

また、免責登記以外にも債権者に対して債務を弁済しない旨を通知することによっても、免責が認められます。事業譲渡契約書には、次のような条項を記載します。

第10条 (名称の使用継続)

 1.       売主は、買主が、本件事業の名称として、名称「______」(以下「本名称」という)を使用することに同意し、これに異議を述べない。

 2.       買主は、クロージング日以降、遅滞なく、会社法第22条2項の定めに従い、買主が売主の債務を弁済する責任を負わない旨の登記を行うものとする。

 3.       売主は、クロージング日以降、本名称を使用しないものとする。

(6)表明保証の条項について

表明保証とは、売り手と買い手側が、事業譲渡にあたって開示した情報などについて偽りがない旨を保証し、もしここに虚偽等があった場合に損害賠償や契約の解除が可能となるための条項です。

表明保証の条項は、買い手側、売り手側それぞれごとに項目を作成し、どちらも事業譲渡契約書の締結日と、譲渡日における事項が真実で正しいことを表明保証すること旨を明記します。

例えば、売り手側、買い手側とで以下のような事項を記載します。ています。

売り手側の表明保証

  • 売り手側は、事業譲渡契約書の締結に関する手続きを、すべて終えている。
  • 事業譲渡契約は、法や社内の規定、第三者と交わした契約に反していない。
  • 現在、契約に影響を及ぼす司法・行政手続きがなく、今後も発生する見込みはない。

また、デューデリジェンスの際に、懸念点が出た場合などについては、個別で項目だけして、その点も明確に記載しておくとよいでしょう。数が多くなる場合は、別紙の目録として記載します。

買い手側の表明保証

  • 買い手側は、日本の法律に則り、今も尚事業を続けている。
  • 事業に必要な権利と働きを備えている。
  • 契約に見合った権利・機能を備え、自社が果たす手続きを終えている。
  • 契約には法的拘束力があり、強制執行が行える。
  • 契約は買い手側の定款・法律、売り手側と取引先との契約に反しない。
  • 買い手側は倒産の手続きを踏んでいない。手続きを始める要因も存在しない。
  • 買い手側の財務状況は安定し、債務超過や不払いの恐れもない。
  • 契約は債権者に対し、嘘をついたり、財産を隠したりすることが目的ではない。
  • 買い手は反社会的な勢力に属さず、関わりも持っていない。

5 事業譲渡の契約書の印紙代は?

事業譲渡契約書には、収入印紙の添付が義務づけられています。

収入印紙とは、国が発行する証明書のことであり、収入印紙を購入し、契約書に貼ることで、印紙税を収めた証明となります。

また、収入印紙には消印が必要です。消印としては収入印紙に印章を押すか、署名を行います。

消印に使う印章は、その種類を問わず、契約書で使用した法人印や、契約書を作成した人物や代理人、従業員の個人の印鑑でも可能です。また、署名をする人物にも、特別の定めを設けられておらず、同様に誰の署名でも問題ありません。契約書に署名する人物は、一人でよく、契約の双方の署名は必要ではありません。

なお、 次のような場合には消印が認められないため注意しましょう。

  • 署名を鉛筆で書いた場合
  • 「印」の字を書いたり、斜線だけを引いたりした場合
  • 印章・署名が、文書と彩紋にかかっていない場合

なお、事業譲渡契約書に印紙が張られていない場合、収める額面の3倍の追徴課税が課せられます。

【印紙税の価格】

1号文書

契約金額 印紙税額
契約金額の記載なし 200円
1万以上10万円以下 200円
10万超え~50万円以下 400円
50万超え~100万円以下 1,000円
100万超え~500万円以下 2,000円
500万超え~1,000万円以下 1万円
1,000万超え~5,000万円以下 2万円
5,000万超え~1億円以下 6万円
1億超え~5億円以下 10万円
5億超え~10億円以下 20万円
10億超え~50億円以下 40万円
50億円を超える額 60万円

 

なお、1万円以下の契約については、収入印紙は不要となっています。

 

6 事業譲渡契約書の雛形

事業譲渡契約書のひな形としては、次のようなものが公開されています。

ひな形を利用する際は、そのままのものでは利用せずに契約内容に合わせて追加・削除する事項を決めるようしましょう。


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