case study

事例紹介

「全員にとって、良い選択」。担当者と走り抜いた7カ月間

株式会社ピックアップジャパン   × 株式会社トレジャー・ファクトリー

譲渡企業

企業名:
株式会社ピックアップジャパン
所在地:
静岡県磐田市
業務内容:
総合リサイクルショップ、工具専門店、ブランド・貴金属専門店

譲受企業

企業名:
株式会社トレジャー・ファクトリー
所在地:
東京都千代田区
業務内容:
リユースショップの運営、リユース品のネット販売・買取 ほか

 

総合リサイクルショップ「ピックアップ」を中心に静岡県下12店舗で買取・販売事業を展開する株式会社ピックアップジャパンは2020年10月19日、同業大手である株式会社トレジャー・ファクトリーへの株式譲渡により同社の完全子会社となった。2003年に自ら立ち上げた事業のさらなる展開を見据えてバトンタッチを決断された、ピックアップジャパン前社長である青島克樹様に、事業承継を検討したきっかけや完了までのプロセス、現在の心境などをうかがった。

「まだまだ元気だけど…」。メインバンクとの会話を機に情報収集を開始

「まだまだ元気だけど…」。メインバンクとの会話を機に情報収集を開始

写真)左から 株式会社トレジャー・ファクトリー 代表取締役社長 野坂英吾様、株式会社ピックアップジャパン 代表取締役社長 青島克樹様

 

-このたび譲渡した会社の概要を、まずうかがえますか。

終戦直後の1946年に父が始めたラジオ組み立て修理業からの流れで、もともとは電器店を営んでいた会社です。その後2003年に、仕入先だったチェーン本部が経営破綻したこと、また当時、大型の家電量販店が勢力を伸ばしていたことから「思いきって業種を変えたほうが良い」と判断し、主要3店舗をリサイクルショップに転換しました。

買い取った商品をただ並べるのではなく、老若男女が気兼ねなくお店に入れるきれいで楽しい雰囲気の店をつくり、接客にも力を入れました。また売上や在庫の数字をしっかり把握し、経営指標を計数管理する、そうした家電販売のノウハウをリユース業にも応用したのが功を奏し、開店後1年で利益が出始め、新品にこだわらず良いものを選ぶという時流にうまく乗ることができました。POSの導入も、業界では早いほうだったと思います。

直近では総合リサイクルショップのほか、ブランド品・貴金属に特化したカウンター接客の業態など、静岡県内に合計12店舗を展開していました。幸いコロナ禍においても業績は堅調に推移しており、いい状態でバトンをつなぐことができました。

 

-事業承継を考えだしたきっかけをお聞かせください。

娘二人は結婚して遠方で暮らしており、「いつか社内から後継者を」と期待する一方、私が元気なうちは当面頑張るつもりでいました。ただそうこうするうちに、メインバンクからM&Aの専任担当者が何度か来社し、今後の具体的なプランを聞かれるようになりました。

「あと5年、10年は私がやるから」と答えはしたものの「周りが心配しだしたならば、そろそろか」と感じだしたのが2020年の3月ごろ。当時たまたま、フォーバルからのダイレクトメールが手元に届いており、メインバンクからも同社への相談を勧められました。とりあえず説明を聞くつもりで電話したところから、担当者と意見交換を重ねた結果、会社を譲渡する方向で検討することとしました。

経営を「将来性ある同業大手」に譲り、従業員全員の雇用を継続した

経営を「将来性ある同業大手」に譲り、従業員全員の雇用を継続した

写真)2020年10月19日、調印式の様子。青島様と監査役として経営に伴奏し続けてきた青島様の奥様

 

-会社の譲渡にあたり、どのようなご希望がありましたか。

何といっても「約200人いる従業員が、できるだけ同じ仕事内容のまま継続雇用されること」が第一でした。さらにそのためにも「できれば事業を理解している同業者と良い縁があれば」と願っていました。

また社名や店名は、M&Aに伴って変わるのが普通と理解していましたが「できれば地元のお客様に、引き続き慣れ親しんだ名前で呼んでいただけたら」との思いもありました。

 

-実際に、同業種の企業に譲渡が決まりましたね。

はい。フォーバルを通じて、異業種を含む相手先企業の候補をいくつかいただきましたが、やはり同業はお互いのことがよく分かっているので、終始スムーズに物事を進めやすいと感じました。

今回の譲渡先であるトレジャー・ファクトリーは、われわれにとって業界の“先輩”であり、都内にあった第1号店や、その後オープンした新業態店の見学に伺うなど、私が絶えず注目してきた企業です。

検討が大詰めに入った7月には、フォーバルの担当者であった山田さんを介してトレジャー・ファクトリーの本社をご案内いただき、われわれが課題としてきたシステム化・デジタル化が圧倒的に進んでいる社内の様子を目の当たりにしました。同社のさらなる発展を確信し「これなら引き継いでもらった後も安心」と思えたことから、譲渡の最終的な決心がつきました。

これまで私も、手書きの値札を印字に変えるなどの効率化、あるいは在庫状況を反映した売価変更の仕組みづくりなど、できる限りの業務改革に努めてきました。とはいえ今後、小売の現場では商品に付けた電子タグを利用し、棚卸しの手間と有人レジを一挙に減らすなど、従来と比較にならない水準のデジタル活用を迫られます。ですから今回、同業でも先進的な大手企業グループに加われたことは、会社にとって必ずプラスになると信じています。

また今回は、従業員全員の雇用と待遇、さらに社名・店名なども当面現状を維持していただく形となり、当社に関わる全員にとって良い選択ができたように思います。

 

-譲渡の方針を決めてから調印まで、どのような準備をされましたか。

会社の財務に関するさまざまな資料を求められ、私一人ではとても追いつかない量の書類を用意しなくてはなりませんでした。同時に、いくら将来性ある上場企業に加わるための譲渡だといっても、もし不完全な情報が漏れれば信用問題につながりかねず、最後まで内密に進める必要がありました。

そのため、通常と明らかに異なる作業を理由も言わず番頭に依頼する状況が続き、これが本件を通じて最も苦労した点でした。

社内では以前より権限委譲を進めていたため、私が直接関知しない事項の照会も少なくなく、結局途中で営業と経理の責任者を呼び出して事情を伝え、極秘で準備に加わってもらいました。この二人には、トレジャー・ファクトリー本社の見学にも同行してもらい、会社が良い方向に変化するチャンスであることを実感していたようでした。

脇目も振らない日々から一転、夫妻で「時間を楽しむ」暮らしへ

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写真)調印式後の記念撮影では安堵したような清々しい笑顔に。

 

-検討開始から7カ月後の2020年10月19日に無事調印の運びとなりましたが、それ以降の出来事についてもお聞かせください。

東京で調印式に臨んだその足で静岡に戻り、夕方には幹部と店長を集めた場で、トレジャー・ファクトリーに経営を引き継ぐことを発表しました。

翌朝、トレジャー・ファクトリー社長で当社の会長となった野坂(英吾)さんと、後継の社長に就いた鶴田(敦)さんには、各店舗とビデオで行う全体朝礼に参加いただいた後、さっそく対面の会議で幹部からの報告を受けていただきました。

この日に文字通り「社長の席を譲った」こともあり、私は翌21日以降出社しておらず、鶴田社長からの問い合わせに自宅で応じています。対外折衝など、もう少し段階的に引き継ぐ例もあるようですが、指揮系統を明確にする上でも、すっぱり退くのが良いと判断しました。

 

-多忙な社長業から一気に解放された現在の生活はいかがですか。

もちろん会社のことは気になりますが、今はあくまでも野坂会長と鶴田社長がトップの組織。ですから社員との間でも、あえて連絡は控えるようにしています。

プライベートでは、今まで手に入らなかった自由時間を満喫しています。脇目も振らず仕事に打ち込んできたせいで、家の近くのことも案外知らないことに気づき、最後まで監査担当として出社していた妻と二人、毎日コースを変えながら、健康維持を兼ねた1万歩の散歩を楽しんでいるところです。

引退できたことについては、やはり妻のほうが喜んでいますね(笑)。あとは少しずつ、今後の生活を充実させるための勉強をしていくつもりです。

 

-事業承継を検討している経営者の方々へ、最後にアドバイスをお願いします。

私自身もそうでしたが、中小企業経営者の多くはM&Aについて、経験も専門知識も持たない状態から検討を始めます。

いくらトップといえども、会社を一歩出れば、広い世界には知らないことばかり。事業承継についても、的確な判断ができるのは専門家です。信頼できる企業の良い担当者を見つけ、しっかり相談しながら進めていくことが大切です。

とはいえ、良い担当者と出会うには、こちらが「選ぶ」と同時に、魅力的な対象として自社が「選ばれる」必要もあります。早くから“引退後”を見据えておくのも一案ですが、心構えとしては「トップである間は業績の向上に集中し、周りが声をかけてくれたら考える」くらいがちょうどいいのかもしれませんね。

 

とても示唆の多い、生のお話をうかがえました。今回はありがとうございました。


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