会社を従業員に事業承継する場合のポイントは?一番の課題はやはり〇〇にあり!?

中小企業においては「親族に会社を承継したい」という意向が大部分のオーナー経営者にあるようですが、実際には親族内に適切な後継者がいない場合がほとんど。そういう時に、選択肢として出てくるのが役員や従業員などに事業を引き継いでもらう従業員承継です。本記事では、従業員承継のポイントやその際に最もつまずきがちな課題などについてご説明させていただきます。

役員や従業員に事業承継する際のポイントは?

近年は、子供などの親族内で後継者を見つけることが困難になってきているため、役員や従業員の中から後継者を選定することも増加してきています。

しかしながら、こうした従業員への事業承継においては、様々な課題があり、早い段階から入念な準備を行う必要があります。従業員を後継者として育成することが必要なことに加え、従業員への事業承継の場合、後継者のための社内体制もオーナー経営者自らが主導をして整備する必要があります。

また、後継者となる役員や従業員を育成するだけではなく、会社の他の従業員との連携をとれるようにしたり、取引先との間でも後継者として周知を図り、賛同を得られるようにしたりしなければなりません。

これらの関係者の協力がなければ、円滑な事業承継は困難になってしまうので注意が必要です。

役員や従業員に事業承継する手順は?

役員や従業員に事業承継で会社の経営を引き継ぐ場合、重要な手順は以下の3つとなっています。

①関係者に対する周知徹底

②経営状況や財務状況の見える化

③資金面での従業員のサポート

では、詳細な流れを見ていきましょう。

①関係者に対する周知徹底

従業員や役員に会社を承継する場合、親族に承継する場合と比較しても中小企業であればより一層の周知徹底を図る必要があります。

例えば、他の従業員から「同僚が後継者候補になるのは、彼を贔屓してるのではないか」と反発されるケースがあります。また、取引先などの社外からも、その従業員や役員の存在があまり知られていないと予想外の反発を招くケースがあります。したがって、従業員への承継の場合は、親族内承継の場合より、社内や社外に丁寧に説明をしていく必要があります。

また、取引金融機関への説明にあたってはもう一つ別の問題もありえます。それは、中小企業の場合は特になのですが、オーナー経営者が会社の借入金について連帯保証をしていたり、個人の資産を担保として入れていたりする場合があるためです。この場合、連帯保証の解除や、後継者への引継ぎなどをする必要があるため、金融機関にはその点を了承してもらえるように、後継者を前もって紹介し定期的に金融機関との交渉を行っていくなど、丁寧に理解をしてもらう必要があります。

②経営状況や財務状況の見える化

中小企業の場合、経理が税務会計基準になっており、財務会計にしたがった会計基準になっていない場合があり、この場合企業の収益力などが正確に財務諸表に表せられていないケースがあります。また、帳簿上に表れていない偶発債務などが存在する可能性もあるため、こうした経営上のリスクなども見える化する必要があります。

また、中小企業では経営者の個人資産と会社の財産が明確に線引きされていないケースがよくあり、経営者個人が利用している車が、会社名義だったり、ゴルフ会員権などが所有されていたりといった例はよくあります。

従業員に事業を承継する場合は、このような公私の区別があいまいな財産についても、後継者との間で意思疎通を図り、所有について明確にしておく必要があります。具体的には、会社経営に直接関与しない資産の整理など行い、経営や財務を見える化しておくことが従業員承継の場合には必要となります。

③資金面での従業員のサポート

従業員承継の場合、後継者はオーナー経営者が所有する株式を買取るか、贈与されるかのいずれかの方法で経営権を取得します。

いずれのケースでも問題になるのが、資金面であり、前者の場合は買い取り費用が、後者の場合贈与税の支払いが必要となります。従業員は通常これらの費用を賄うための資金力に乏しいことがほとんどです。

この状態に対応するためによく行われるのが、株式取得資金を役員給与に増額して支給し、取得に備えるといった方策ですが、こうしたやり方にも様々な問題点があり、後述させていただきます。

また、中小企業では、会社の借入金をオーナーが個人保証している場合が多く、後継者に負担なく引き継いでもらうためには、後継者が債務保証可能な額まで借入金を減らすといった対策を行う必要があります。

役員や従業員に株式譲渡する方法とは?

上述のとおり従業員に経営権を引き継いでもらう際には、株式の取り扱いが問題となります。ここでは、具体的な株式の取り扱い方法についてご紹介させていただきます。

具体的な方法は次の3つです。

①株式を従業員に売却する

②株式を従業員に贈与する

③株式は譲渡せずに、経営権のみを譲渡する

①株式を従業員に売却する

一番一般的な方法が、経営者が株式を後継者の従業員に対して売却する方法です。

ここで一番の問題は、中小企業でも会社の時価総額は数千万から数億円を上回ることも多々あり、これらの費用をサラリーマンである役員や従業員が用意することが困難な場合が多いということです。そこで、その対策としては以下のような方法が取られています。

・経営者が退職金を多くもらうなどを行って資産を減らし、株価を意図的に下げる

・給与に株式取得のための費用を分割して上乗せし、多めに支給する

・銀行やファンドを活用し、借入金を利用したMBOで資金を調達する

②株式を従業員に贈与する

上記のような対策を行っても、従業員の株式取得のための準備時間が確保できないケースなどもありえます。そこで、別の方法としては株式を売却するのではなく、贈与する方法があります。贈与であれば、株の取得費用は従業員の方は原則不要となりますが、一方で贈与税は発生します。

株式の贈与によって発生する贈与税も、他の通常の贈与税で使われるものと同じ税率が適用されます。

ただし、事業承継の一環で株式を贈与する場合、贈与税の評価額当たりの税率が高いため、贈与する株式が多いと、税金の負担がかなり大きくなってしまう点に注意が必要です。

また贈与者が亡くなった場合、亡くなる3年前までの間に行われた贈与は、相続扱いになり、相続税に加算されてしまいます。

また、贈与する株式は、贈与税の控除が発生する110万円以下分であれば非課税となるので、贈与税を払わずに事業承継分の株式を後継者に引き継ぐことができます。ただし、少額ずつしか贈与できないため、必要な株式を譲渡するまでにかかる期間が長くなります。

③株式は譲渡せずに、経営権のみを譲渡する

他の方法としては、後継者の従業員には株式を売却せず、経営権のみを引き継ぐ方法です。

この場合は、特に費用は発生しませんが、会社経営が不安定になってしまう可能性があります。

なぜなら、株主総会での普通決議において株主の2分の1以上の賛成が必要ですし、特別決議にあっては過半数の株主が出席した上で、出席者の3分の2以上の賛成が必要という要件が必要となるためです。したがって、引退したオーナー経営者や、相続した親族などが株式を所有している場合、経営上の大きな決断をする際にいちいちお伺いを立てる必要がでてきてしまいます。

このような所有と経営が分離した状態においては、後継者が会社を運営するために、旧経営者の了承を得ながら進める必要があり、経営スピードが確保できなかったり、適切な議決がとれなかったりといったことが考えられます。

この問題の解決策の一つとして、無議決権株式(種類株式)を大量発行するといった方法もあります。

役員や従業員を後継者とする場合のメリットとデメリット

それでは、従業員などに事業を承継する場合のメリットやデメリットをまとめさせていただきます。

中小企業なら事業承継税制を活用できる

業承継税制は、後継者が親族ではなく、従業員の場合でも適用が可能です。

事業承継制度の適用方法については以下の記事を参照ください。事業承継税制を活用すると、相続税や贈与税の大幅な節税が可能となります。贈与税の納税猶予を受けることができるというメリットは後継者である従業員にとっては非常に大きいものといえます。

記事リンク:https://docs.google.com/document/d/1bobE4ZdkMr5zmbiVBM6RxEu6FuU2xJjgzNdvSvVlaCw/edit

会社をよく理解している人に承継できる

従業員や役員として、長年勤務していた人材の場合は、円滑に経営を引き継いでもらうことが可能です。役員や従業員の場合、会社の内部事情にも精通しており、とくに規模の小さな企業であるほどすでに長年経営者や他の社員と苦楽を共にしてきた仲間として浸透しているケースが多いでしょう。

この場合は、事業の引継ぎも非常に円滑であり、新たに後継者教育などを行わなくてもよく、教育コストが大幅に節約できます。

個人保証の切り替えが難しいことがある

中小企業の場合はオーナー経営者が会社の借入の担保として個人所有の資産を提供していたり、連帯保証人となっていたりする場合が多くあります。

事業承継を従業員にした際には、会社の債務も引き継ぐため、本来は保証人の立場も後継者が引き継ぐものです。しかしながら、金融機関が個人保証の切り替えを認めてくれないといったケースや、後継者自身が保証について積極的でないというケースがありえます。また、金融機関の意向で、新たな後継者が新たな借り入れをできないというケースもあり、こうした点はデメリットといえるでしょう。

従業員承継の資金不足の解消手段としてのMBO(マネジメントバイアウト)とは?

MBOは、Management Buyout(マネジメント・バイアウト)の略であり、企業の経営陣が後継者となり、既存株主であるオーナーや親会社等から株式を買い取り、経営権を持つ方法です。通常買収金額は少なくとも数千万円以上となるため、個人で負担するのが難しく、株式買い取りのための費用は金融機関やファンドから調達する事になります

この際、特別目的会社(Specific Purpose Company,以下SPC)を設立して資金提供を受ける事が行われています。最終的にはSPCと譲渡企業が合併を行った上で、後継者となる経営陣と出資をしたファンドが対象企業の株主となることで、経営権を得ることになります。

その結果、経営陣の自社株占有率を増やすことができ、自社の経営陣とファンドの意思決定権が強化されるため、意思決定が迅速になります。したがって、その他の一般投資家などから自社の経営に関与されることなく思い切った成長戦略を取ることができます。

MBOでは、例えば会社の一つの事業部門や子会社が本社とは切り離した独自路線を貫きたい場合などにもよく利用されています。また、上場企業においては、経営者自身が公開された一般株主から株式を買い戻し、上場を廃止するために用いられます。これは、株主の意見に左右されず、長期的な経営計画を立てて事業を立て直したい場合などに用いられています。

まとめ

従業員承継の課題やポイントについてご紹介させていただきました。社内に事業を引き継いでほしい役員や従業員がいらっしゃる場合、こうしたメリット・デメリットを踏まえたうえで、十分に検討してみてくださいね。

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