
株式交換とは、一方の会社がもう一方の会社の株式を全て取得し、その対価として自社の株式を交付して完全子会社化する組織再編手続きの1つです。
大企業はもちろんのこと、中小企業でも組織再編のスキームとしてよく使われており、また大企業同士のM&Aなどでは頻繁に利用されています。
本日はこの株式交換について、登記方法や手続きの流れ、株価への影響からM&Aのスキームとして利用する場合のメリット・デメリットまでを解説していきます。
株式交換の目的とその手順

株式交換とは、2つの会社の株式をそれぞれ交換することにより行う組織再編の1つです。
ここではまず、その目的と手順について解説していきます。
株式交換の目的
株式交換は、2つの会社が各々の株式を交換し合うことにより、一方を親会社、そしてもう一方を子会社にする組織再編です。子会社はその株式の全てを親会社へ譲渡するため、株式交換後には完全子会社となります。
また株式交換を利用して組織再編を行うことにより、複数のグループ企業を傘下に置く持株会社を作ることもできます。
もともと株式交換制度は米国の母法でしたが、1999年に日本でも旧商法に導入され、その後2005年に交付された会社法に引き継がれています。
株式交換の手順と株主構成の変化
株式交換は、大まかに以下の手順で行われます。親会社となる予定の会社をA社(株主C)、子会社となる予定の会社をB社(株主D)として、その手順を説明します。
株式交換の手順① B社の株をA社に譲渡する
株主Dが所有するB社の株式の「すべて」を、A社に譲渡します。
株式交換の手順② A社の株式を株主Dに交付する
B社の株式を譲渡した対価として、A社は株主DにA社の株式を交付します。これにより両社の完全親子会社化が完成します。
株式交換後の株主構成
完全親子会社化後、両社の株主構成は以下のようになります。
親会社:A社(株主:CとD)
子会社:B社(株主:A社)
合併との違い

もともと2つあった会社の支配権を1つにまとめるという意味では、同じ組織再編の手法の1つである「合併」と似ていますが、株式交換合併は以下の点が異なります。
被合併会社の法人格が消滅する
株式交換による組織再編は、株主の構成は変わるものの両社の法人格は残ります。しかし合併はもともと2つだったものを1つにするため、被合併会社の法人格は消滅してしまいます。
会社を統合するための手続きが不要
合併は2つの会社を1つに統合するため、従業員の社会保険の移転手続きや消滅会社の取引先の口座変更手続きなど、登記以外にも細々とした手続きを数多くこなさなければなりません。
いっぽう、株式交換の手続きに必要なのは完全子会社化による登記くらいで、法人格も生きているためあとは何もする必要はありません。
手続きの期間も短くて済む
合併をするためには1ヶ月以上前に官報に合併公告を出すとともに、債権者に合併の通知を行い債権者保護手続きを行わなければなりません。
いっぽう、株式交換は株主が親会社に変わる程度なので、手続きそのものの期間も短くて済みます。
税制面での優遇措置を受けられる場合がある
大企業と中小企業が合併すると、被合併会社である中小企業が消滅し、大企業だけが残ります。いっぽう、株式交換であればどちらも残すことができます。
中小企業であれば、大企業の100%子会社であっても様々な税制面での優遇措置を受けることができます。
株式交換の登記

次に、株式交換において行われる登記について解説します。
登記が必要な場合と不要な場合
登記とは、法人にとっての戸籍制度のようなものです。法人を作るためには法人設立登記を行わなければなりませんし、法人を閉じる時にも清算登記が必要です。しかし法人にまつわる全ての事項を登記するわけではありません。
ここでは株式交換にともなう変更事項のうち、登記が必要なものとそうでないものに分けてみます。
登記が必要な変更事項
株式交換にともない下記の変更があった場合、法務局での登記が必要となります。
親会社・・・資本金の変更(子会社株主に対する親会社の株式交付を増資によって行った場合)、子会社の新株予約権の承認
子会社・・・役員の変更登記(完全子会社化後に代表取締役などの変更があった場合)、新株予約権の親会社の承認
登記が不要が変更事項
株式交換にともない下記の変更があっても、法務局で登記する必要はありません。
親会社・・・株主構成の変更、定款の変更
子会社・・・株主構成の変更、定款の変更
登記の期限
法人に変更事項があった場合には、2週間以内に、その変更登記を申請しなければなりません(会社法第915条1項)。
登記に必要な書類
登記の際に必要な書類を表にまとめました。中には、不要の場合もあるものもあるのでしっかりと確認しておきましょう。
登記の際に必要な書類(親会社側) |
株主総会議事録 |
株式交換契約書 |
株券提供公告表明書 |
登記事項表明書(不要の場合もある) |
株主名簿 |
資本金計上証明書 |
委任状(不要の場合もある) |
(子会社側) |
印鑑証明書(不要の場合もある) |
委任状(不要の場合もある) |
株式交換のスケジュール

株式交換を行い完全親子会社へ移行するためには、さまざまな手続きを経なければなりません。株式交換を完了するためには具体的にどのようなスケジュールで行うのかを確認してみますしょう。
取締役会議
株式交換を行う際には、取締役会議で承認を得ないといけません。取締役会議で承認を得ることができたら株式交換契約を締結します。
株式交換契約の締結
取締役会議で承認を得たのち、株式交換契約を締結します。株式交換契約書の中身は会社法で規定されており、株式交換によって株式をすべて取得する旨や株式の交換比率など、必ず記載しないといけないものもあるので注意が必要です。
株式交換契約などの事前開示書類備置
株式交換契約の締結を終えたら、事前開示書類の備置を行います。この書類は株式交換の効力発生日から6か月間備えておかないといけません。なお、備置する日は、株主総会の2週間前から、債権者保護手続きの公告日か通知日などいくつか規定されている日があり、もっとも早い日を選ぶ必要があります。
株主総会の承認
続いて、株主総会招集通知を発送し、株主総会を行い、特別決議で議決権のある株主の3分の2の賛成を得ないといけません。また、株主総会は株式交換の効力発生日の前日までに行わないといけません。ここで反対されてしまうとそれまでの工程が無駄になってしまう可能性があるので、しっかりと準備をしておきましょう。
反対株主などからの株式買取
株主総会において3分の2の賛成で株式交換は決定となるので、反対した株主は不利益を被ってしまいます。よって、当時会社は反対株主に株式買取請求権があることを周知し、買取請求があった場合には買取に応じないといけません。
債権者保護手続き
完全親会社が株式以外の対価を交付する場合、債権者が不利益を被る可能性があるので、債権者に対し、官報公告・個別通知を行い、債権者保護手続きを行う必要があります。内容は株式交換を行う旨や、異議を受ける旨などです。これは効力発生日の1か月前には行わないといけません。
株式交換の効力発生
株式交換契約で定めた効力発生日を迎えたら、完全親会社は完全子会社に対価を支払います。また、親会社が上場企業であれば手続きは簡素で済みますが、非上場企業の場合にはいくつかの事務手続きが発生します。
事後開示書類の備置・開示
株式交換後6か月間は、当時会社は事後開示書類を本店に備置することが会社法で定められています。この書類には差止請求、反対請求、株式交換の効力発生日、交換株式数などを記載します。
株式交換のメリット・デメリット

グループ企業内の組織再編や上場企業同士のM&Aにおいて積極的に活用されている株式交換のメリットとデメリットを整理してみます。
株式交換のメリット
組織再編やM&Aに株式交換を用いるメリットは、以下のようになります。
株式交換のメリット① 組織再編やM&Aのための現金を用意する必要がない
株式交換による完全子会社化の対価は現金ではなく親会社の株式です。そのため株式分割を利用した組織再編やM&Aを行うために現金を用意する必要はありません。
ただし、株式交換に反対する子会社の株主がいる場合、株式と同価格の現金を用意して反対株主の株式を買い取らなければなりません。
株式交換のメリット② 株主全員の賛成は必要ない
親会社、子会社とも、両社それぞれの株主の2/3以上の同意が得られれば株式交換により完全親子会社にすることができます。
実際に企業再編をする場合、株主全員の賛成を得るのは大変難しいですが、株式交換による組織再編であれば、反対派の株主が1/3以下であれば意見を聞く必要すらありません。
株式交換のメリット③ 株式売却と違い株式の譲渡側に税金の支払いが発生しない
株式交換によって子会社の株主が親会社の株式を取得しても、同価値の株式を交換したにすぎないため譲渡所得税を支払う必要がありません。いっぽう、株式を売却した場合には、株式の譲渡側に譲渡所得税が発生してしまいます。
ただし、譲渡した株式の対価を親会社の株式以外で得た場合には、譲渡益が発生してしまいます。
株式交換のデメリット
株式交換のデメリット① 手続きが煩雑で時間も手間もかかる
株式交換の流れをご確認いただけばお分かりのとおり、株式交換は株式譲渡などと比べるとその手続きが大変煩雑です。時間も手間もかかり複雑なため、誰でも簡単にできるというわけにはいきません。
株式交換のデメリット② 親会社の株主構成が大幅に変わる可能性がある
子会社の規模によっては、株式を交換する時に親会社の株式を子会社の旧株主に大量に交付しなければならないことがあります。そうなると親会社の株主構成が大幅に変わり、親会社株主の支配力や経営権に影響が及ぶ可能性があります。
株式交換のデメリット③ 親会社が上場企業でない場合、M&Aで利用するのが難しい
完全親会社が上場企業であれば、旧子会社の株主が株式交換によって親会社の株式と交換しても最終的に現金化することができます。しかし完全親会社が非上場企業であれば、実質的に株式を現金化することはできません。
そのため株式交換により完全親会社となる会社が非上場企業の場合、M&Aとしてこのスキームを使うのは非常に難しいといえます。
株式交換の税務
株式交換による組織再編やM&Aは、税制適格と認められる場合と税制非適格と認められる場合とで課税関係が変わります。
組織再編における税制適格とは
税制適格とは、おもにグループ企業内の分割や統合・合併の場合に税制適格と認められ、資産に含み益があっても簿価での移転が認められ、また移転時の課税も繰り延べられます。
税制適格とみなされると、複数のグループ企業が全体で1つの企業体とみなされるため、その中でどのように分割や統合が行われてもグループ全体としては何も変わらないとみなされるからです。
M&Aの場合対象会社はグループ内企業ではありませんが、株式交換による完全親子会社化にビジネス上合理性があれば税制適格となる場合もあります。
ただし、一歩間違えると租税回避行為となってしまうため、慎重に行わなければなりません。
組織再編における税制非適格とは
税制適格以外の組織再編は、すべて税制非適格とみなされます。M&Aによる組織再編も基本的にすべて税制非適格となります。税制非適格の組織再編の場合、資産の移動による譲渡益やみなし配当が発生します。
それではこの税制適格と税制非適格の2点を踏まえたうえで、完全親会社、完全子会社、完全子会社の株主の税務について整理していきます。
株式交換による完全親会社の税務
適格・非適格に関わらず、完全親会社に課税問題は発生しません。ただし、適格か非適格かによって完全子会社株式の取得価格が変わります。
適格要件を満たし、完全子会社の株主が50名以上の場合には株式の取得価格は完全子会社の簿価純資産額となります。また適格要件を満たすものの株主が50名未満の場合には、株式の取得価格は株式の帳簿価格となります。
そして非適格の場合には、株式交換により取得した完全子会社の株式の取得価格は、交付される財産(完全親会社の株式もしくは現金)の「時価」となります。
株式交換による完全子会社の税務
適格要件を満たす場合、課税関係は発生しません。
非適格の場合、一部の少額資産を除き時価評価による譲渡益が課税されます。
株式交換による完全子会社の株主の税務
子会社の株式を親会社の株式と交換しても課税問題は発生しません。ただし、株式交換を反対した場合など子会社株式を親会社株式以外の現金などと交換した場合には譲渡益が発生します。
株式交換による株価への影響

株式交換により、完全親会社となる会社の株価はさまざまな影響を受けます。
高い交換比率で子会社に親会社の株を交付してしまうと、子会社側の株主にとっては嬉しいものの、一株当たりの企業価値は薄まってしまいます。そのため株価は下落してしまう傾向があります。
また一般的に親会社の株式は、株式交換発表後には一度下がり、実際の株式交換が行われる日が近づくと上がる傾向があります。
いずれにしても株価にはさまざまな要素が反映されるため、思った通りの株価にコントロールするのはかなり難しいといえるでしょう。
まとめ

中小企業同士のM&Aでは活用例の少ない株式交換ですが、グループ企業の組織再編であれば中小企業においても活発に利用されています。
ただし、ご覧のように課税関係が大変複雑で、一歩間違うと企業再編により莫大な譲渡益が発生してしまう場合があります。
当社では事前に綿密なタックスプランニングに基いて、多面的なご提案をさせていただいております。
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