会社分割を活用したM&Aにはどのようなメリット・デメリットがあるのか?利用目的や活用の適切なケースを解説!

平成3年にバブル経済が崩壊し、その後20年以上にわたり日本経済は長期後退局面に突入していきました。多くの大企業が倒産し、また生き残った企業も経営効率が悪いまま組織が硬直化し、その出口を見いだせないでいました。

いっぽう、日本の雇用の大部分を支える中小企業では後継者不足が深刻化し、このまま放置しておけば近い将来事業承継ができず多くの企業が廃業することは明らかでした。

このような社会的背景のもと、企業の組織再編を促進して経営効率を上げ、同時に事業承継問題も解決するため、平成13年に組織再編税制が導入されました。

この組織再編税制はその後何度かの改正が行われ、今では不採算部門の切り離しや経営効率を上げるための分割や合併、株式交換や株式移転などがスムーズに行えるようになりました。

本日は、その組織再編の手法の1つであり、中小企業のM&Aでもよく活用されている会社分割について解説していきます。

会社分割とは

会社分割とは企業の組織再編の手法の1つで、会社の一部分を切り離し、新設法人として分割(もしくは既存法人へ吸収)させることをいいます。

不採算部門の切り離しや統合、各部門の独立採算化や後継者育成などグループ企業内の組織再編を容易にし、その収益力を高めるために活用されています。

事業譲渡と会社分割との類似点と相違点

またこの会社分割は、M&Aにも積極的に活用されています。

「会社の一部を切り離して譲渡する」という点ではM&Aの事業譲渡に似ていますが、事業譲渡が資産などの個別的な売買行為であるのに対し、会社分割は組織再編による事業の包括的継承にあたるため、手続きや課税上の取り扱いはことなります。

会社分割の分割パターン

組織再編の1つである会社分割は、組織変更や合併、株式交換や株式移転などと比べると分解パターンが複雑で理解するのは大変です。おまけに分割に関する似たような名称がたくさん出てくるため、ただ読んでいるだけでは混乱してしまいます。

そこで前半部分はできるだけ専門用語を使わず理解していただくことに主眼を置き、後半部分で正しい用語の解説をまとめて行います。

まず会社分割のイメージをとらえる

会社分割とは文字通り会社を分割することをいいます。会社から事業の一部分を切り取り、新しい会社を作ると思っていただければ結構です。分割後は、元あった会社と新しい会社の2つになります。

分割パターン① 全く別の会社にする

1つ目の分割パターンは、2つに分かれた会社がそれぞれ全く別の会社(兄弟会社)になるケースです。例えば純資産が100の会社から40を切り取って法人を作り、分割後には純資産が60と40のに分かれる場合などです。

ただし分割してしまうと分割前は100あった純資産が60へと減ってしまうため、このままでは分割前会社の株主の財産や権利は侵害されてしまいます。そこで新しく作った純資産40の会社の株式を旧会社の株主に割り当てることにより、株主の財産や権利を守ります。

分割パターン② 子会社にする

2つ目のパターンは、切り取って作った会社を子会社とするパターンです。この場合、会社は二つに分かれるものの親会社と子会社の関係になるだけですから、分割前の株主の財産や権利が損害を被ることはありません。

そこでこのパターンの場合、子会社となった会社の株式は親会社が持つことになります。

会社分割によって新しくできた会社のパターンは2種類

会社分割によって新しくできた会社は、次の2つに分けることができます。

会社を新設するパターン

切り離した事業部分で新しく会社を立ち上げます。

既存の会社に吸収させるパターン

切り離した事業部分を既存の会社に吸収させます。

このように、会社分割には兄弟会社にする場合と親子会社にする場合の2種類の分割方法があり、また分割によって新しくできた会社にも新設と吸収の2種類があることがおわかりいただけたと思います。

ここまでの専門用語のまとめ

ここまでの話をイメージでなく正しい用語を用いると、以下のように説明することができます。

会社分割の方法について

分割して新しく会社を作るのを「新設分割」、既存の別会社に吸収させるのを「吸収分割」といいます。

会社分割前・分割後のそれぞれの呼称について

また会社分割において分割前の元会社のことを「分割会社」、新設分割で作られた会社を「新設分割承継会社」、吸収分割で受け入れる会社を「吸収分割承継会社」といいます。

タテの会社分割とヨコの会社分割

会社を分割して子会社化する分割方法は「分社型分割(物的分割)」といい、「親会社ー子会社」の上下関係ができるため「タテの会社分割」といわれます。

この分割型分割には分割して新しく子会社を作る「新設分割型分割(新設物的分割)」と、切り離した部分を既存の企業に移転し対価として株式を取得する「吸収分社型分割(吸収物的分割)」があります。

また会社を分割して別会社化する分割方法は「分割型分割(人的分割)」といい、株主が同一の兄弟会社となるため、「タテの会社分割」に対して「ヨコの会社分割」といわれます。

これも分社型分割と同じで、「新設分割型分割(新設人的分割)」と「吸収分割型分割(吸収人的分割)」とに分けることができます。

会社分割に適したM&A

会社分割にはタテの会社分割とヨコの会社分割があり、どちらの手法もM&Aで活用されています。ではこの二つの手法が、どのような企業のM&Aに向いているのかをみてみましょう。

タテの会社分割に適したM&A

タテの会社分割とは、譲渡希望企業の譲渡希望事業部門だけを子会社化し、子会社の株式を譲受希望企業に譲渡する事により完成させるM&Aのことをいいます。

このタテの会社分割は、中規模以上の企業で譲渡事業部門の簿価純資産が大きいM&Aに適しています。

タテの会社分割と節税効果

タテの会社分割を利用したM&Aは、ヨコの会社分割を利用したM&Aと比べると手続きは複雑で、かつ税効果を期待する場合には事前にかなり入念なプランニングを行わなければなりません。

手間暇や時間がかかること、そしてそれで得られる成果を考えると小規模企業のM&Aを会社分割で行うのであれば、ヨコの会社分割を利用した方が良いでしょう。

しかし中規模以上の企業で、かつ譲渡する予定の事業部門の簿価純資産が大きい企業であれば、タテの会社分割を利用したM&Aの方が適しています。

ヨコの会社分割で株式を譲渡する場合、最終的に譲渡希望会社のオーナーが負担する譲渡所得税は以下の式によって算出します。

・[{株式売却代金ー株式の簿価(or 株式売却代金の5%)}ー売却にかかる経費]×20.315%

いっぽう、タテの会社分割で株式を譲渡する場合、株式の売却代金を受け取るのはオーナーではなく分割したもう一方の法人です。そのため譲渡によって出た利益にかかる法人税のは以下の式によって算出します。

・(株式売却代金ー事業に関する資産負債の簿価ー売却にかかる経費)×約30%

この二つの式を比べていただけばお分かりのとおり、税率そのものは法人税の方が高いものの、譲渡する企業の帳簿価格(事業に関する資産負債の簿価)が大きければ、最終的な法人税額はヨコの会社分割によるM&Aよりも少なくなります。

ヨコの会社分割に適したM&A

いっぽうヨコの会社分割は、比較的小規模で、かつ資産の中に譲渡事業には関係ないものが多く含まれている場合のM&Aに向いています。

逆にいえば、小規模でかつ資産や負債が譲渡する事業のものしか含まれていない場合には、会社分割を利用しないで単なる株式譲渡によるM&Aを活用した方が手間や時間を省くことができます。

会社分割を活用したM&Aのメリット・デメリット

では最後に、会社分割を活用したM&Aのメリットとデメリットを確認しておきましょう。

会社分割を活用したM&Aのメリット

株式譲渡によるM&Aは、株主が所有している株式を譲渡希望企業に譲ることにより成立します。手続きが簡単な上に企業そのものを丸ごと譲渡することができるため、引退を考えている譲渡希望企業のオーナーなどにとっては最適の方法です。

しかし譲渡希望企業の資産や負債の中には、事業には不要な資産や負債が混じっている場合があります。例えば余剰の現金預金や実質的には社長個人の自宅、そして積立型の役員生命保険などがそうです。

このように不要な資産などが混じっている企業を株式譲渡でM&Aをする場合、いったん(不要資産も含んだ)高い金額で株式を買い取り、その後旧株主に不要資産を買い取ってもらわなければなりません。

株式譲渡によるM&Aで譲渡益税が高くなる場合がある

M&Aによる譲渡希望企業のオーナーの税負担額は、以下の式により算出します。

・[{株式売却代金ー株式の簿価(or 株式売却代金の5%)}ー売却にかかる経費]×20.315%

譲渡希望会社の資産の中に譲受希望会社にとって不要な資産が多く混在してしまうと、株式売却代金は本来より高額になってしまいます。そのため最終的な株式の譲渡所得税額も同様に高額となってしまいます。

会社分割を活用して節税する

会社分割を活用して譲渡希望会社を必要な部分とそうでない部分の2つの法人に分け、必要な法人の株式だけを譲渡してもらえば、最終的な株式売却代金は単なる株式譲渡によるM&Aよりもぐっと低く抑えることができます。

この結果譲渡希望企業のオーナーの譲渡所得税を低く抑えることができます。

会社分割を活用したM&Aのデメリット

会社分割をM&Aに活用した場合、株式譲渡によるM&Aと比べて節税効果を発生する可能性が高いですが、いっぽう、残念ながらデメリットもあります。

手間も時間がかかる

株式の譲渡により完成させるM&Aと比べると、株式を譲渡する前に譲渡希望会社を分割するため時間も手間もかかります。

もちろん、その分の費用も発生します。

法人が残ってしまう

会社分割後、譲渡した会社以外の会社はそのまま残ります。法人を完全に清算してリタイアを考えていたとしても、残念ながらそういうわけには行きません。

また残った法人に社長自宅の土地などの実質的な個人資産が残っている場合、社長個人に売却する際に含み益が発生する場合もあります。

まとめ

会社分割を活用したM&Aは、組織再編税制の改正により、グループ企業の組織再編の促進や事業承継問題を解決することができる大変使い勝手の良いスキームとなりました。

またそれだけでなく、M&Aにおいて会社分割を用いれば絶大な節税効果も期待できる可能性があります。

ただし、そのためには事前にかなり綿密なシミュレーションが必要で、実際どのタイプのM&Aにどの手法が適しているのかを一概にいうことはできません。

当社では、事前に綿密な打ち合わせを行い、それに基づきあらゆる面から考えつくしたプランニングを行い、1社ごとに最適なスキームをご提案しております。

M&Aについての具体的なご相談は、こちらからどうぞ。


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