
事業譲渡は、会社法に則って進めることが大切です。会社法には、事業譲渡の定義や要件、手続きに関する規定などがあり、これらの遵守が求められます。この記事では、事業譲渡における会社法上の注意点を紹介します。
事業譲渡と会社法の概要

はじめに、事業譲渡と会社法の概要および関係性を中心に、知っておきたい基本情報をまとめて紹介します。
事業譲渡とは
事業譲渡とは、株式譲渡や会社分割などと同じように、代表的なM&A手法の1つに位置づけられている取引のことです。会社が有している事業の全部もしくは一部を切り離して第三者に譲渡する行為であり、この点において経営権の移転によって法人格を丸ごと譲渡する「株式譲渡」とは異なる特徴が見られます。
また、事業譲渡では、契約の内容によって、譲渡対象の事業/資産/負債などを自由に選別できる点も特徴的です。その一方で、事業譲渡では手続きが煩雑であり、取引を完了させるまでに多くの時間・手間がかかりやすい点に注意しましょう。
取引対象の資産/負債/雇用関係などを移転するには、それぞれ個別的に手続きを済ませなければなりません。このときには、債権者/取引先/社員などと個別に同意を取り付ける必要があるほか、不動産が取引対象に含まれる場合には登記手続きを済ませる必要もあります。
事業譲渡は、旧商法において、取引主体(商人一般/会社)を問わずに「営業譲渡」と呼ばれていました。しかし、現在の会社法では、商人一般については営業譲渡を使用し、会社については事業譲渡の用語を使用するという方針に変わっています。
事業譲渡と財産譲渡の違い
これらはともに財産の譲渡を伴う取引の名称ですが、財産譲渡では取引対象に事業に関するノウハウや技術などが含まれません。財産譲渡を行う場合、原則として株主総会の開催は求められず、取締役会設置会社であれば取締役会の決議のみで足ります(会社法362条4項1号)。
事業譲渡と会社分割の違い
会社分割とは、株式会社または合同会社で運営されている事業について、その権利義務の全部もしくは一部を包括的に他の企業に承継する行為のことです。
会社法において、会社分割は、事業譲渡と類似する取引として規定されています。ただし、以下の点で明確な違いが見られるため把握しておきましょう。
|
事業譲渡 |
会社分割 |
|
|
会社法上の位置付け |
取引法上の契約 |
組織再編行為 |
|
債権、債務の取り扱い |
債権者保護手続は不要 |
債権者保護手続は原則必要 |
|
雇用関係の承継 |
個別的に同意が必要 |
包括的に承継 (労働者保護手続は必要) |
|
許認可の承継 |
再取得が必要 |
再取得が必要 (一部、自動的に承継) |
|
税務の処理 |
・消費税:課税 ・不動産取得税:課税 ・軽減措置:適用されない |
・消費税:非課税 ・不動産取得税:非課税(要件を満たす場合) ・軽減措置:適用される |
いずれのM&A手法を採用するのか判断する際は、自社の置かれている状況をもとに各手法のメリット・デメリットを比較しながら、検討し選択することをおすすめします。
会社法とは
会社法とは、会社の設立/組織/運営/管理などに関する内容が定められている法律です。2006年、商法の会社法規定である「商法第2編会社」/有限会社法/株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律などを統合および再編成する形で施行されました。
会社法の制定に際して、以下のような項目が改正および新規則を追加する形で盛り込まれています。
- 取締役の人数規制
- 最低資本金制度の撤廃
- 会社の機関設計の自由化(取締役会や監査役などの設置について)
- 有限会社形態の廃止、合同会社形態の追加
- M&Aのための組織再編手続きの簡略化
- 株式制度の柔軟化(種類株式の発行や株式交換の対象拡大など)
なお、事業譲渡の定義については、会社法の第467条および第468条において規定されています。
事業譲渡の際は株主総会特別決議が必要【会社法第467条】

会社法第467条の定めにより、事業譲渡を行う場合は、原則として株主総会の特別決議で承認を得なければなりません。より詳しく説明すると、株式会社は、事業譲渡の効力が発生する前日までに、株主総会の特別決議で承認を受ける必要があります。
株主総会特別決議が必要な5パターン
具体的にいうと、事業譲渡に関して、株主総会の特別決議で承認を得る必要がある行為は、以下のとおり規定されています。
|
株主総会特別決議が必要なパターン |
補足 |
|
自社の事業すべてを他の企業に譲渡する |
譲渡企業の株主総会で特別決議による承認を受ける必要あり |
|
自社の事業の重要な一部分(原則、総資産額の5分の1を超える場合)を他の企業に譲渡する |
ここでいう「重要な一部」は、量的基準と質的基準の双方から判断される |
|
他の企業から譲受する事業が自社の総資産の5分の1を超える |
他の企業が有する事業をすべて譲受するパターンのこと。 譲受する資産に相手企業の株式が含まれる場合、取締役が株主総会において譲受する株式に関する事項を説明する義務を負う。 |
|
他の企業に対して、自社の事業すべてを賃貸または委任する |
事業のすべてを賃貸する場合、所有権は他の企業に移動せず自社に残る |
|
事後設立によって事業を譲受する |
事後設立とは、会社の設立前から予定していた事業などについて、設立後に譲り受ける契約のこと。 事後設立では、企業の総資産5分の1を超える事業を、設立から2年以内に取得する。 |
ちなみに、事業譲渡における譲渡側企業では、債務を移転する際、別途その旨についてそれぞれの債権者から同意を取り付ける必要があります。
特別決議の定義【会社法第309条2項】
株主総会の特別決議は、会社法第309条において定義付けされています。この条文を解説すると、特別決議とは、 「行使できる議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上による多数の賛成が求められる決議」をさします。
なお、定款による定めを変更すれば、定足数を「行使できる議決権の3分の1以上の割合」に、表決数を「3分の2を上回る割合」に、それぞれ変更することが可能です。
上記のような特徴を持つ特別決議に対して、普通決議の定義は会社法第309条1項に規定されています。これによると、普通決議とは、「原則として、行使できる議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数による賛成が求められる決議」のことです。
M&Aの実施に際して、採用する手法ごとに特別決議が求められるパターンは異なりますが、事業譲渡の手法を用いる場合は会社法第467条に定められている行為に特別決議が求められる、という点を把握しておきましょう。
事業譲渡の際に株主総会特別決議が不要なケース【会社法第468条】

事業譲渡を行う際、必ずしもすべてのケースで株主総会の特別決議が求められるわけではありません。株主総会の特別決議が不要となるケースは、会社法第468条に規定されています。
会社法第468条では、株主総会の特別決議を必要とする事業譲渡の行為を規定している同法第467条の例外として、承認手続きを必要としない事業譲渡について以下2項目の定義がなされています。
- 事業譲渡における譲渡側企業において、相手先企業が事業譲渡を行う企業の特別支配会社の関係性にあるケース
- 事業譲渡における譲受側企業において、他の企業の事業のすべてを譲受する際、「事業譲受の対価として譲受側企業が交付する財産の帳簿価額の合計額」が「譲受側企業の純資産額として法務省令で定める方法により算定される額」の5分の1を超えないケース
1つ目のケースでは「略式手続き事業譲渡」に、2つ目のケースでは「簡易手続き事業譲渡」にそれぞれ該当し、事業譲渡に際して株主総会の特別決議による承認が求められません。
とはいえ、2つ目のケースについては、法務省令で定める「一定数の株式」を有する株主が、事業全部の譲受に関する通知もしくは公告の日から2週間以内に、これに反対する旨を会社に通知した場合には無効とされます。要するに、譲受側企業において、株主総会の特別決議による承認が求められます。
ちなみに、1つ目のケースにおける「特別支配会社」とは、「単独あるいは100%子会社またはその他これに準ずるものとして法務省令で定める法人と合算して、ある株式会社の総株主の議決権の9割以上を保有する会社」であると定義されています(定款の定めにより、総株主の議決権の9割を上回る割合に変更することも可能)。
ここでいう9割以上の議決権の要件については、会社が単独で所有しているケースだけでなく、完全子会社とともに所有しているケースも認められます。
要するに、1つ目のケースは、事業譲渡の譲渡側企業において、相手先企業が自社の総株主の10分の9以上の議決権を持っている企業(親会社)であれば、たとえ実施するとしても議決が容易であるために、株主総会の特別決議が求められないことを示しています。
事業譲渡における競業避止義務の規定【会社法第21条】

会社法21条の定めにより、事業譲渡を行う企業は、競業避止義務を負います。具体的に説明すると、事業譲渡を行った企業では、同一市区町村および隣接市区町村内にて、事業譲渡したものと同種類の事業を一定期間にわたって実施できません。
この義務は、M&A後に譲渡側企業が対象会社に関するノウハウや人脈などを活用して競業行為を実施してしまうと、譲受側企業がM&Aの目的を果たせなくなったり、損失を被ってしまったりするおそれがあるために設けられている制度です。
なお、当事者間に何らかの合意がなければ20年間の競業避止義務が発生しますが、特約があれば最大30年までの期間を設定できます。
会社法第21条に関する注意点
競業避止義務の対象範囲は、同一の市町村およびその隣接市町村の区域内に限定されています。ところが、現代ではインターネット技術の普及により、世界中どこでも事業を行える会社が増えています。
こうした事情を踏まえると、地域を限定した競業避止義務は時代に合っていない制度であり、有効性を疑問視する意見も少なからず見受けられます。
そこで、最近では、当事者間で競業避止義務の対象範囲を定めるケースが目立っています。以上のことから、事業譲渡を行う際は、相手先と交渉したうえで、競業避止義務の範囲を柔軟かつ詳細に定めることをおすすめします。
会社法を遵守した事業譲渡を行いたい場合は専門家に相談

この記事では、事業譲渡における会社法上の注意点を中心に紹介しました。事業譲渡を行う際は、多くのケースで株主総会の特別決議が求められる一方で、手続きが不要となるケースも一部見られます。そのため、自社の取引がどちらのケースに該当するのか、事前に確認しておくことが大切です。
また、会社法では、事業譲渡における競業避止義務の規定にも注意が必要です。実際にM&Aを行う際は、規定を把握したうえで、取引対象の事業内容に応じて地域や事業の範囲を設定することが大切です。事業譲渡に関する会社法の規定に不明点があれば、M&Aや企業法務の専門家に相談することをおすすめします。
もしもM&Aによる事業譲渡をご検討中であれば、フォーバルまでご相談ください。当社フォーバルは、過去20万社の経営支援実績があり、中小・小規模企業の存続と成長に向けた事業承継M&A支援を手掛けております。
M&Aの実施が未定であっても電話・チャットで無料相談に対応しておりますので、「会社法の規定を遵守しながら、事業譲渡を進めたい」と思われた方は、ぜひ一度お気軽にご相談ください。








