先に点検する理由

  1. 先に開示すれば交渉の前提になる(後から出ると不信を招く)
  2. 表明保証の対象から外せる(開示済み事項は保証しなくてよい)
  3. 是正する時間が持てる(監査の直前では間に合わない)
  4. 遡る期間が短くなる(放置すると金額が増える)

2番目は特に重要です。開示していない事項に問題があると、クロージング後に補償を求められる可能性があります。最終契約書の要点をご覧ください。

揃えておく書類

規程類

  • 就業規則(正社員用・パート用)と届出の控え
  • 賃金規程、退職金規程、育児介護休業規程
  • 36協定、変形労働時間制の労使協定(届出の控え)
  • その他の労使協定(一斉休憩の例外、賃金控除など)

個人別の書類

  • 労働者名簿
  • 雇用契約書・労働条件通知書
  • 賃金台帳(直近2〜3年分)
  • 出勤簿・タイムカード(直近2〜3年分)
  • 年次有給休暇管理簿

その他

  • 社会保険・労働保険の加入状況
  • 健康診断の実施記録
  • 安全衛生管理者等の選任状況
  • 労働災害の記録
  • 外国人従業員の在留資格に関する書類
  • 過去の是正勧告と対応記録

点検項目と優先順位

優先度1:金額が大きくなるもの

項目確認方法
着替え・清掃時間の扱い打刻位置と作業開始時刻を実測する
変形労働時間制の要件協定・事前特定・実績を照合する
固定残業代の有効性規程・契約書・給与明細を確認する
割増賃金の算定基礎数名分を手計算して照合する
社会保険の加入実労働時間と加入状況を照合する

それぞれ着替え・手洗い・清掃の時間変形労働時間制の点検固定残業代の設計と落とし穴割増賃金の計算社会保険の適用をご覧ください。

優先度2:是正が難しいもの

これらは判明してからでは対応に時間がかかります。早く確認してください。

優先度3:書類の整備

作業量は多いですが、やれば必ず解決します

誰に依頼するか

自社だけでの点検には限界があります。社会保険労務士に依頼することをおすすめします。

依頼する際は、次を明確に伝えてください。

  • 事業承継・M&Aを見据えた点検であること
  • 金額の概算まで出してほしいこと
  • 是正の優先順位を示してほしいこと

顧問社労士がいる場合でも、第三者の目で見てもらう価値があります。日常の顧問業務と、承継を見据えた点検は視点が異なります。

点検で問題が見つかったら

  1. 将来分をまず止める(毎月増えるのを防ぐ)
  2. 過去分の対応を専門家と検討する
  3. 是正の記録を残す
  4. 解消できない部分は、金額を把握して開示する

4番目が重要です。すべてを是正できなくても、把握して開示していれば交渉できます未払い残業が見つかったときの対応をご覧ください。

開示の仕方

買収監査の前、あるいは基本合意の段階で、次の形で開示します。

  • 把握している問題の内容
  • 影響する範囲(人数、期間)
  • 概算の金額
  • 是正の状況と、今後の予定

「課題を把握し、対応している会社」という評価につながります。隠していて発覚した場合とは、まったく違う結果になります。買収監査で何を見られるかをご覧ください。

いつ始めるか

承継を考え始めた時点です。理由は次のとおりです。

  • 是正には数か月から1年かかる
  • 是正が早いほど、遡る期間が短くなる
  • 3期分の是正済みの記録があると説得力がある

親族内承継や社内承継の場合でも同じです。後継者に問題を引き継がせないことが、先代の責任です。

※ 労働関係法令の具体的な取扱いは、改正や個別の事情によって異なります。実行にあたっては、管轄の労働基準監督署および社会保険労務士等の専門家にご確認ください。