制度の考え方

一定の期間を平均して、1週間あたりの労働時間が法定の枠に収まっていれば、特定の日や週に法定時間を超えて働かせても割増賃金が不要になる制度です。

期間の取り方によって、1か月単位、1年単位などの種類があります。食品工場では、年間の繁閑差に対応するために1年単位を採用していることが多くあります。

要件を満たさないとどうなるか

通常の労働時間制として計算し直すことになります。つまり、1日8時間・週40時間を超えた分すべてに割増賃金が発生します。

従業員数と期間を掛けると、金額は大きくなります。M&Aで最も指摘の多い論点の1つです。

よくあるずれ1:各日の労働時間を特定していない

変形労働時間制では、対象期間の各日・各週の労働時間を、あらかじめ特定しておくことが必要です。

実務では、次のようなずれが起こります。

  • 年間カレンダーを作っていない
  • 作っているが、内容が「繁忙期は忙しい」程度で具体性がない
  • 受注に応じて、その都度シフトを決めている

「受注状況に応じて決める」という運用は、制度の趣旨と合いません。事前に特定しておく必要があります。

よくあるずれ2:後からシフトを変更している

特定した労働時間を、後から会社の都合で変更することは原則として認められません。

食品工場では、急な受注増や欠員でシフトを動かすことが日常的に起こります。これが繰り返されると、制度の前提が崩れます。

対応としては、変更が必要な場合の手続きを労使協定で定めておく方法がありますが、無制限に変更できるわけではありません。シフト作成の実務をご覧ください。

よくあるずれ3:協定・就業規則の不備

  • 労使協定を締結していない
  • 締結しているが、労働基準監督署へ届け出ていない
  • 就業規則に必要な定めがない
  • 協定の有効期間が切れている
  • 労働者代表の選出手続きが適切でない

最後の点は見落とされがちです。会社が指名した人では、労働者代表として認められない可能性があります。投票や挙手など、民主的な手続きが必要です。

よくあるずれ4:対象者の範囲が不明確

誰に適用するのかが特定されていない。パートも対象なのか、特定の部署だけなのか。協定で明確にする必要があります

よくあるずれ5:中途採用・退職者の精算

対象期間の途中で入社・退職した従業員については、その期間の実労働時間に応じた精算が必要になる場合があります。

食品工場では人の出入りが多く、この精算が漏れているケースがあります。

点検の手順

  1. 労使協定の原本を確認する(有効期間、届出印)
  2. 就業規則の該当条文を確認する
  3. 労働者代表の選出方法を確認する
  4. 年間カレンダーまたはシフト表が事前に作成されているか確認する
  5. 実際の勤務実績と、特定した時間を照合する
  6. 変更の頻度を確認する
  7. 中途入退社者の精算状況を確認する

5番目でずれが見つかることが最も多いです。数か月分でよいので、実際に突き合わせてみてください。

是正の考え方

制度を正しく運用する

  • 年間カレンダーを事前に作成し、周知する
  • 変更の手続きを定め、記録を残す
  • 協定を適切に締結・届出する

制度をやめるという選択

運用が難しい場合、通常の労働時間制に戻して、超えた分は割増賃金を支払うという選択もあります。

人件費は増えますが、未払いのリスクがなくなり、シフトの自由度も上がります。承継やM&Aを控えている場合、この選択のほうが確実なことがあります。

承継時の扱い

労務デューデリジェンスでは、次が確認されます。

  • 協定と就業規則の整合
  • 届出の有無
  • 事前特定の実態
  • 実績との照合

問題が判明した場合、過去に遡った未払い額が算定され、価格から差し引かれることがあります。労務デューデリに備える未払い残業が見つかったときの対応をご覧ください。

早く点検するほど有利

賃金請求には期間の定めがあります。早く是正するほど、遡る期間が短くなります。放置すると金額が積み上がるだけです。

社会保険労務士に点検を依頼する費用は、後から発生しうる未払い額と比べればわずかです。

※ 労働関係法令の具体的な取扱いは、改正や個別の事情によって異なります。実行にあたっては、管轄の労働基準監督署および社会保険労務士等の専門家にご確認ください。