なぜ問題になるのか

食品工場では、製造区域に入る前に次の作業が必要です。

  • 作業着・帽子・マスクへの着替え
  • 粘着ローラーがけ
  • 手洗い・消毒
  • エアシャワー
  • 長靴の履き替え・消毒槽の通過

これらは衛生管理上、必ず行わなければならない作業です。省略すると製造できません。

ところが、タイムカードを更衣室の外や事務所に置いていると、これらの時間が記録から漏れます

判断の考え方

労働時間に当たるかどうかは、使用者の指揮命令下に置かれているといえるかで判断されます。

一般に、次のような要素があると労働時間性が認められやすくなります。

  • その作業を行うことが義務づけられている
  • 行わないと業務ができない
  • 会社の指定する場所で行う
  • 会社が用意した作業着・用具を使う

食品工場の着替え・手洗いは、衛生管理計画で定められた必須の作業であることがほとんどです。この点が判断に影響します。

個別の事案によって判断は異なります。自社の実態については、社会保険労務士等の専門家にご確認ください。

金額のインパクト

1日15分と仮定します。

  • 1人あたり月20日勤務 → 月5時間
  • 従業員50名 → 月250時間
  • これが賃金請求できる期間分

数百万円から数千万円の規模になることがあります。M&Aでは、この金額が価格から差し引かれます。

終業後の清掃

着替えと並んで論点になるのが、終業後の清掃です。

  • ライン・器具の洗浄
  • 床の清掃
  • ゴミの搬出
  • 翌日の準備

これらも業務として指示されているのであれば労働時間です。「タイムカードを押してから片付ける」という運用は問題になります。

その他の論点

朝礼・体調確認

始業前に行う朝礼や、健康確認(下痢・発熱・手指の傷の確認)。参加が義務であれば労働時間と判断されえます。

教育・研修

衛生教育や作業手順の研修。参加が義務であれば労働時間です。「自主参加」としていても、実質的に強制であれば同様です。

待機時間

設備の立ち上がり待ち、原料の到着待ち。自由に離れられないなら労働時間と判断されえます。

いま確認する手順

  1. タイムカード(打刻機)の設置場所を確認する
  2. 実際に、打刻から製造開始までの動線と所要時間を測る
  3. 終業時も同様に測る
  4. その時間が賃金の対象になっているか確認する

2番目を実際にやってみてください。ストップウォッチで測ると、想像より長いことが分かります。

是正の方法

方法1:打刻の位置を変える

最も確実です。更衣室の入口で打刻する運用にすれば、着替えの時間が自動的に労働時間に含まれます。

費用はかかりますが、以後の未払いが発生しなくなります

方法2:定額で加算する

着替え等に要する時間を測定し、1日◯分として一律に加算する方法です。

実態に合った時間を設定し、就業規則や労使間の取り決めで明確にしてください。実態より短いと、その差額が未払いになります

方法3:始業時刻を早める

実際の作業開始時刻に合わせて、始業時刻そのものを見直す方法です。労働条件の変更にあたるため、手続きに注意が必要です。

過去分の扱い

是正すると、過去分をどうするかという問題が生じます。

選択肢としては、遡って支払う、和解する、といった対応がありますが、個別の事情によって判断が分かれます。必ず社会保険労務士・弁護士に相談してください。

M&Aを控えている場合、買収監査で必ず指摘されるため、先に把握して開示するほうが結果的に有利です。未払い残業が見つかったときの対応をご覧ください。

放置するリスク

  • 退職者からの請求
  • 労働基準監督署の調査での是正勧告
  • M&Aでの価格減額、または破談
  • 時間の経過とともに金額が増える

早く是正するほど、遡る期間が短くなります。承継を考え始めた時点で着手してください。

※ 労働時間性の判断は個別の事情によって異なります。自社の実態については、必ず社会保険労務士・弁護士等の専門家にご確認ください。