なぜ労務が最も指摘されるのか
労務上の問題は、金額が計算でき、しかも過去に遡って請求されうるからです。未払い賃金には請求できる期間が定められており、従業員数が多いほど金額は膨らみます。
食品工場は、シフト勤務、早朝・深夜作業、パート比率の高さ、外国人材の受け入れといった要素が重なるため、論点が多くなります。
論点1:着替え・手洗い・清掃の時間
食品工場で最も典型的な論点です。白衣への着替え、手洗い、エアシャワー、粘着ローラー。これらに要する時間が労働時間として扱われているかが確認されます。
タイムカードを更衣室の外で打刻する運用になっていると、準備時間が労働時間から漏れている可能性があります。1日15分でも、従業員数と期間を掛けると相当な金額になります。
詳しくは着替え・手洗い・清掃の時間はどう扱うかで扱っています。
論点2:変形労働時間制の運用
繁閑差のある食品工場では変形労働時間制を採用していることが多いのですが、要件を満たしていない運用が見られます。
- 労使協定や就業規則の定めが不足している
- 対象期間の起算日や各日の労働時間が事前に特定されていない
- 後からシフトを変更している
- 協定の届出をしていない
要件を満たさない場合、通常の労働時間制として計算し直すことになり、割増賃金の未払いが生じます。変形労働時間制の点検をご覧ください。
論点3:割増賃金の計算
- 算定基礎に含めるべき手当が除外されていないか
- 深夜・休日の割増が正しく重ねられているか
- 固定残業代が有効に機能しているか(金額・時間数の明示、超過分の支払い)
- 月60時間超の割増率が反映されているか
固定残業代は特に指摘が多い項目です。固定残業代の設計と落とし穴を参照してください。
論点4:社会保険の加入
パート・アルバイトの加入基準を満たしているのに未加入、という指摘が出ることがあります。加入基準は制度改正で変わってきているため、以前の判断のままになっている会社があります。
遡っての加入と保険料の納付が必要になると、会社負担分が一時に発生します。社会保険の適用をご覧ください。
論点5:労働時間の把握
- タイムカードやシステムで客観的に記録されているか
- 自己申告制の場合、実態と乖離していないか
- 残業の申請・承認の運用が形骸化していないか
- 持ち帰り作業や早出が記録されていないか
労働時間の把握で扱っています。
論点6:外国人材
技能実習生や特定技能の外国人を受け入れている工場では、次が確認されます。
- 在留資格と、実際に従事している業務が一致しているか
- 在留カードの確認と記録
- 労働時間・賃金が日本人と同等に扱われているか
- 受け入れ機関としての届出・報告が適切か
ここは是正が難しく、指摘されると取引の前提条件になることがあります。外国人従業員の労務管理をご覧ください。
その他に確認される項目
- 36協定の締結・届出と、上限時間の遵守
- 年5日の年次有給休暇の取得
- 就業規則の作成・届出・周知
- 労働条件通知書の交付
- 健康診断の実施
- 労災の発生状況と対応
- ハラスメントの相談体制
問題が見つかったらどうなるか
M&Aでは、次のいずれかの形で処理されます。
- 価格から差し引く(算定額を控除する)
- クロージングまでに解消する(是正を条件にする)
- 補償条項でカバーする(後から発覚した場合の負担を売り手が負う)
いずれにせよ、先に開示していたほうが交渉は穏やかに進みます。備え方は労務デューデリに備えるにまとめました。