原因1:買収監査で想定外の問題が出た

最も多い原因です。特に食品製造業では次が典型です。

  • 未払い残業の金額が想定を大きく超えた
  • 営業許可の範囲外の品目を製造していた
  • 設備の更新に多額の投資が必要と判明した
  • 排水処理の能力が不足していた
  • 簿外の保証債務があった

防ぎ方は1つ、先に開示することです。先に出せば交渉の前提になり、価格に織り込むだけで済みます。後から出ると「隠していた」となり、信頼そのものが崩れます。買収監査で何を見られるかで準備リストを示しています。

原因2:株式が集約できなかった

買い手は原則として100%の株式を求めます。少数株主が反対する、名義株の所有者が特定できない、連絡が取れない。これらは解消に数か月から数年かかります

基本合意の前に着手していないと、間に合いません。分散した株式をまとめる名義株の整理を、M&Aを考え始めた時点で確認してください。

原因3:価格の折り合いがつかなかった

買収監査の結果を受けて、買い手が価格の引き下げを提示する。売り手が納得できず決裂する。この流れも珍しくありません。

防ぎ方は2つです。

  • 基本合意で「どういう場合に価格が変わるか」を書いておく基本合意書で決めること
  • 自社の評価のおおよその範囲を、事前に自分で把握しておく

後者があると、提示された金額が妥当かどうかを自分で判断できます。食品工場の売却価格はどう決まるのかをご覧ください。

原因4:取引先の同意が得られなかった

チェンジオブコントロール条項がある契約で、同意が取れない。あるいは、買い手が取引先の競合にあたり、取引の継続が見込めない。

これは打診先の選定段階で防げます。競合や、主要取引先と関係の深い企業は除外リストに入れてください。取引先の同意を参照してください。

原因5:キーパーソンが辞める意向を示した

工場長や製造部長が「経営者が変わるなら辞める」と表明すると、買い手は前提が崩れたと判断します。食品工場では、その人がいないと製造が回らないことがあるためです。

防ぎ方は、技能と判断を1人に集中させないことです。多能工化とスキルマップは、M&Aの成立可能性そのものに効きます。多能工化とスキルマップをご覧ください。

また、開示のタイミングと伝え方も影響します。従業員への説明を参照してください。

原因6:売り手の気持ちが変わった

これも実際にあります。「やはり手放したくない」「従業員に申し訳ない」という思いが、最終段階で強くなる。

止めること自体は売り手の権利です。ただし、基本合意で独占交渉権を与えた後の撤回は、相手に費用の負担をかけます。契約によっては費用の負担を求められることもあります。

防ぎ方は、進める前に自分の中で線を引いておくことです。何のために譲るのか、どういう条件なら納得できるのか。親族内・社内・M&A・廃業を1枚で比べるで整理してから進めてください。

止まったらどうするか

破談は終わりではありません。多くの場合、次のどちらかに進みます。

  • 原因を解消して、別の相手と再開する
  • 一度止めて、磨き上げてから出直す

特に、監査で判明した問題を解消してから再開すると、次はずっとスムーズに進みます。1回目の監査は、無料のセルフチェックだったと考えることもできます。

磨き上げの進め方は売る前の1年でできる企業価値の上げ方にまとめました。