優先順位の考え方
打ち手は「効果が出るまでの時間」と「評価への効き方」で仕分けます。1年しかないなら、数か月で効くものから着手してください。
1〜3か月でできること
1. 名義と権利関係を整理する
最も費用対効果が高い作業です。
- 株主名簿と実態を照合する
- 名義株の有無を確認する
- 商標が個人名義になっていないか確認する
- 工場・土地・車両の名義を確認する
- 個人名義の資産について、賃貸借契約を整える
調べること自体は数日で終わります。問題が見つかったときの解決に時間がかかるので、早く調べることに意味があります。名義株の整理と個人名義の設備・車両・土地をどう整理するかをご覧ください。
2. 滞留在庫と遊休資産を処分する
動いていない原材料、期限の近い製品、デザイン変更で使えなくなった包材。これらは資産に計上されていても価値がありません。
処分すれば損失が出ますが、実態が明確になり、買収監査での指摘も減ります。むしろ管理されている印象を与えます。
3. 決算書を整理する
役員報酬、保険料、私的費用の調整を自分で行い、資料として揃えます。決算書の磨き上げの手順どおりです。
4. 契約書を揃える
主要取引先との基本契約、OEM契約、リース、賃貸借。存在しないものは巻き直すことを検討します。ただし、M&Aを理由に契約を巻き直すと勘繰られるため、通常の更新の機会を使うのが自然です。契約書の棚卸しを参照してください。
3〜6か月でできること
5. 価格改定を実施する
評価に最も直接的に効く打ち手です。原材料が上がっているのに価格を据え置いている品目があれば、交渉します。
粗利率の改善は、そのまま調整後利益の増加になります。しかも「価格を上げられる会社」という評価にもつながります。根拠となる原価の数字が必要なので、品目別の採算整備とセットで進めてください。価格改定の交渉と原材料高騰と価格転嫁をご覧ください。
6. 不採算品目を見直す
赤字の品目をやめる、あるいは値上げする。ただし、やめると稼働が空いて固定費が浮かなくなる場合があるので、慎重に判断してください。儲からない商品をやめるで判断基準を示しています。
7. 品目別の採算を整備する
「どの商品で儲かっているか」を示せる会社は、それだけで評価が違います。買い手は統合後の計画を作るために、この情報を必要とします。品目別採算の作り方から始めてください。
8. 設備の年表を作る
導入年、修繕履歴、更新見込みと概算額。不利な情報に見えますが、示すほうが有利です。管理されている工場という印象になり、監査での想定外を防げます。設備の評価をご覧ください。
6か月〜1年でできること
9. 労務の点検と是正
着替え・清掃時間の扱い、変形労働時間制の運用、社会保険の加入。M&Aで最も指摘が出やすい分野です。
是正には費用がかかりますが、放置すると価格から差し引かれるか、破談の原因になります。社会保険労務士に点検を依頼する価値があります。労務デューデリに備えるを参照してください。
10. 衛生管理の記録を確実に残す
記録は積み上げた期間そのものが価値です。今日から徹底しても1年分にしかなりませんが、それでも「直近1年は完璧」という状態は評価されます。衛生管理の記録の残し方をご覧ください。
11. 属人化を部分的に解く
1年で完全には解けませんが、「その人しか作れない商品」を1つでも減らすことには意味があります。配合と工程条件の文書化から始めてください。職人の技をどう引き継ぐかを参照してください。
1年では難しいこと
- 取引先構成の抜本的な改善(3年程度必要)
- 大規模な設備更新(補助金の公募時期にも左右される)
- 3期分の利益改善の実績を作ること
これらが必要な場合は、1年待って準備してから動くほうが結果的に有利になることがあります。判断は「まだ早い」と思う社長ほど早く動くべき理由もあわせてご覧ください。
やってはいけないこと
売却直前に、必要な修繕を止める、押し込み出荷で売上を作る、人を減らして人件費を下げる。これらは買収監査で見抜かれ、信頼を損ないます。数字を作るのではなく、実態を良くしてください。