仕組み

最終契約の表明保証に違反があった場合、通常は売り手が買い手に補償します。表明保証保険は、この補償を保険会社が引き受けるものです。

契約者が買い手になる形(買主用)と、売り手になる形(売主用)があり、実務では買主用が多く用いられます。

売り手にとっての利点

  • 補償の負担が軽くなる:譲渡代金を受け取った後の不確実性が減る
  • 資金の留保が不要になりやすい:補償に備えて代金の一部を預託する必要が減る
  • 引退後の安心につながる:数年後に請求を受ける心配が小さくなる

特に3番目は、事業承継としてのM&Aでは大きな意味を持ちます。引退して代金を生活資金に充てた後、数年後に返金を求められるのは避けたい事態です。引退後の生活資金をどう作るかともつながる論点です。

対象外になりやすい事項

ここが実務上いちばん重要です。すでに分かっている問題は、保険の対象になりません

  • 買収監査で判明した事項
  • 売り手が認識していた事項
  • 将来の予測に関する事項
  • 環境汚染(別途の引受になることが多い)
  • 移転価格税制など、特定の税務事項
  • 年金・退職給付に関する積立不足

食品製造業でよく問題になる未払い残業は、監査で判明すれば対象外になります。判明していない部分がどこまで対象になるかは、引受条件次第です。労務デューデリジェンスで扱っている論点です。

費用と条件

保険料は、補償の限度額に対する料率で決まります。加えて、免責額(一定額までは保険が出ない)が設定されます。

引受にあたっては、保険会社が買収監査の報告書を確認します。監査がきちんと行われていることが前提であり、簡易な監査しか行っていない案件では引受が難しくなります。

中小規模の案件で使えるか

正直に申し上げると、取引金額が小さい案件では使いにくいのが実情です。理由は次のとおりです。

  • 保険料と手続きのコストが、取引金額に対して重くなる
  • 保険会社が引き受ける最低の補償額に達しないことがある
  • 詳細な買収監査が前提となり、その費用も必要になる

一定以上の規模の案件、あるいは買い手がファンドや上場企業である場合には、検討の対象になります。

保険を使わない場合の代替策

中小規模の案件では、次のような形で売り手のリスクを抑えるのが現実的です。

  1. 補償の上限額を設定する(譲渡代金の一定割合まで)
  2. 補償の期間を短くする(1〜2年)
  3. 下限額を設ける(少額の指摘は対象外にする)
  4. 問題を先に開示する(開示済み事項は表明保証から外す)

4番目が最も実効性があります。買収監査の前に自分から出した問題は、表明保証の対象外にできます。これは費用のかからないリスク低減策です。

条項の考え方は最終契約書の要点にまとめています。

検討の順番

  1. まず、補償の上限・期間・下限を交渉する
  2. それでもリスクが残る場合に、保険の可能性を確認する
  3. 買い手側が保険の利用を希望する場合、費用の負担を協議する

保険ありきで考えるのではなく、契約条項で対応できる範囲を先に詰めるのが順序として適切です。

※ 保険の引受条件・料率・免責の内容は保険会社や案件ごとに異なります。利用を検討する場合は、保険会社および弁護士等の専門家に必ずご確認ください。