算定の基本的な考え方

中小企業のM&Aでは、純資産に数年分の利益を加える考え方(年買法)や、営業利益に減価償却費を戻した利益をもとに評価する考え方(EBITDA倍率法)が使われることが多くあります。将来のキャッシュフローを割り引く方法が使われる場合もあります。

ただし、実際の価格は算定式だけで決まりません。買い手が「この会社を買うと何が手に入るか」をどう評価するかで動きます。食品製造業では、この部分が特に大きく効きます。

食品工場で評価されやすい要素

  • 営業許可を受けた製造拠点 新設して許可を取り、稼働させるまでには相応の時間と費用がかかります。すでに動いている工場は、その時間を買えることに価値があります。
  • 設備で実現できること 古いか新しいかより、どの温度帯・どのロットサイズ・どの包装形態に対応できるかが見られます。
  • 取引先との関係 特に大手小売・大手メーカーとの継続取引は、参入障壁そのものです。
  • 働き続けられる人 製造・品質管理・生産管理の中核人材が残るかどうかは、価格にも条件にも影響します。
  • 立地 原料産地への近さ、物流の便、周辺環境(臭気・騒音の制約が少ないか)。
  • 製法・レシピ・ブランド 他社が容易に再現できないものがあれば、単独で評価対象になります。

逆に、価格を下げる要素

  1. 衛生管理の記録が残っていない、過去の指導への対応が不明確
  2. 労務の運用と規程がずれている(割増賃金、休憩、社会保険)
  3. 品目別の採算が分からず、利益の源泉が説明できない
  4. 特定の販売先への極端な依存
  5. 社長個人に依存した営業・仕入・製法
  6. 工場や土地が社長個人の所有で、承継後の使用条件が未整理

これらは「減点」として効きます。しかも買収監査で見つかると、価格の引き下げだけでなく、交渉そのものが止まることがあります。

期間があるなら、効く順に手を打つ

承継まで数年の余裕があるなら、次の順で取り組むことをおすすめしています。

  1. 数字を見えるようにする 品目別・販売先別の売上と粗利。ここが出せないと、他の改善も評価につながりません。
  2. 価格を適正化する 原価に基づく交渉で、実際に改定できた実績をつくる(原価把握と価格転嫁)。
  3. ロスを減らす 歩留まりと廃棄の改善は、利益に直結し、かつ改善の余地が説明しやすい(歩留まりとロスの改善)。
  4. 属人化を解く 製法・仕入・品質基準を文書化する。
  5. 記録と規程を整える 衛生管理と労務。減点をなくす作業です。

「相場」を聞く前に

相場感を知りたいというお気持ちはよく分かります。ただ、同じ業種・同じ規模でも、上に挙げた要素の有無で結果は大きく変わります。まずは自社の数字を整理し、そのうえで見立てを聞くという順序のほうが、現実的な判断につながります。

見立てだけであれば、譲渡を決めていない段階でもお出しできます。判断材料としてご活用ください。

※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。実際の評価は個別の事情によって大きく異なり、税務上の取扱いも案件ごとに判断が必要です。具体的な検討にあたっては専門家にご確認ください。