基本合意書の役割
意向表明を受けて条件のすり合わせが進んだ段階で、その時点の合意内容を書面にするものです。この後に買収監査が行われ、その結果を踏まえて最終契約に至ります。
名称は「基本合意書」「MOU」「LOI」などさまざまですが、役割は同じです。
法的拘束力の切り分け
基本合意書の最大の特徴は、条項ごとに拘束力の有無が分かれることです。
| 拘束力なし(原則) | 拘束力あり(原則) |
|---|---|
| 買収価格 | 独占交渉権 |
| スキーム | 秘密保持 |
| スケジュール | 買収監査への協力義務 |
| 従業員の処遇方針 | 費用の負担 |
つまり、価格には拘束力がないのに、独占交渉権には拘束力があるという構造になっています。ここを理解しないまま署名すると、後で困ります。
独占交渉権の確認点
独占交渉権とは、一定期間、他の候補と交渉しないという約束です。買い手は監査に費用をかけるため、この権利を求めます。合理的な要求です。
売り手として確認すべきは次の3点です。
- 期間:長すぎないか(3〜6か月程度が一般的)
- 延長の条件:自動延長になっていないか
- 解除できる場合:買い手が監査を進めない、条件を大幅に引き下げてきた場合に抜けられるか
特に3番目が重要です。監査後に大幅な減額を提示され、しかも独占交渉期間中で他と話せない、という状況は避けたいところです。
価格の扱いをどう書くか
価格に拘束力がない以上、監査の結果によって変わりうるのは前提です。ただし、どういう場合に変わるのかを書いておくことはできます。
例えば次のような書き方です。
- 「買収監査において重大な事実が判明した場合を除き、本価格を基礎として最終契約の協議を行う」
- 「価格の修正は、判明した事実の金額的影響の範囲において協議する」
これがあると、些細な指摘を理由にした大幅な減額を牽制できます。
食品製造業で入れておきたい事項
1. 従業員の雇用に関する方針
拘束力はなくとも、方針として明記しておくことに意味があります。最終契約でどこまで具体化するかの土台になります。雇用維持を契約に残すをご覧ください。
2. 工場・ブランドの継続に関する方針
工場を閉鎖しない、社名や商品ブランドを一定期間維持する、といった希望がある場合はここに書きます。
3. 営業許可の取扱いの確認
スキームによって手続きが変わるため、誰がいつ確認するかを決めておくと後が楽です。事業譲渡の場合、許可の取得時期がクロージング日を左右します。事業譲渡のときの営業許可を参照してください。
4. 買収監査の範囲と時期
繁忙期に監査が入ると現場が対応できません。時期の希望は基本合意の段階で伝えておくべきです。範囲についても、レシピ・配合の開示方法など、慎重な扱いが必要なものは事前に取り決めておきます。
署名の前に確認すること
- 拘束力のある条項がどれかを、条文で確認したか
- 独占交渉期間の長さと、抜けられる条件を確認したか
- 買収監査で求められる資料を、実際に用意できるか
- 前提条件(株式の集約など)を期限までに満たせるか
最後の項目は特に重要です。株式の集約に時間がかかる場合、基本合意の前に着手しておく必要があります。
基本合意の後にやること
すぐに買収監査の準備に入ります。求められる資料は多岐にわたり、準備の遅れがそのままスケジュールの遅れになります。買収監査で何を見られるかで準備リストを示しています。
※ 基本合意書の条項の効力は、記載内容や個別の事情によって異なります。署名の前に必ず弁護士等の専門家にご確認ください。