簿外債務とは

貸借対照表に計上されていないが、将来支払う可能性のある負担のことです。意図的に隠しているわけではなく、計上する必要があると認識していなかったケースがほとんどです。

食品製造業で見つかりやすいもの

1. 未払いの残業代

最も多く、金額も大きくなりやすい項目です。着替え・手洗い・清掃の時間が労働時間に算入されていない、変形労働時間制の要件を満たしていない、固定残業代が有効に機能していない。

1人あたり月数千円でも、従業員数と請求できる期間を掛けると相当な金額になります。未払い残業が見つかったときの対応労務デューデリジェンスをご覧ください。

2. 社会保険の未加入

加入基準を満たすパート・アルバイトが未加入の場合、遡って保険料の会社負担分が発生する可能性があります。社会保険の適用を参照してください。

3. 退職金の将来負担

退職金規程があるのに引当が不足している、あるいは中小企業退職金共済等の積立が規程上の支給額に届いていない。従業員の年齢構成によっては、数年以内に大きな支出になります。

4. 他社の借入に対する保証

関連会社、取引先、あるいは知人の会社の借入に会社が保証している。決算書の注記に記載されていないことがあります。

5. 設備の更新に要する支出

厳密には債務ではありませんが、買い手は同じように扱います。老朽化した冷凍機やボイラーの更新、排水処理設備の改修。「引き継いだ直後に必要になる支出」は価格から差し引かれます。環境・設備デューデリをご覧ください。

6. 回収・クレームに関する将来の負担

出荷済みの製品に問題が判明した場合の回収費用、取引先からの賠償請求。過去に回収があった場合、その後の対応が完了しているかが確認されます。回収が起きたときの初動を参照してください。

7. 係争中の案件

労働審判、取引先との紛争、近隣からの苦情。和解金や賠償の可能性が負担として見積もられます。

8. 賞味期限切れ・滞留在庫

資産として計上されているが、実質的に価値がない在庫です。負債ではありませんが、純資産を押し下げる要因として同じように扱われます。在庫の評価をご覧ください。

見つかったときの処理

M&Aでは、次のいずれかで処理されます。

  1. 価格から差し引く:見積額を譲渡価格から控除する
  2. クロージング条件にする:解消してから引き渡す
  3. 補償条項でカバーする:後から発生した場合に売り手が負担する
  4. スキームを変える:事業譲渡にして、負債を引き継がない形にする
  5. 破談:金額が大きすぎる、または信頼が損なわれた場合

4番目は買い手にとって有効な選択ですが、事業譲渡になると営業許可を取り直す必要があります。食品製造業では手続きの負担が増えます。事業譲渡のときの営業許可をご覧ください。

いちばんの問題は「後から出る」こと

金額そのものより、タイミングが結果を左右します

  • 先に開示した場合:交渉の前提になる。価格に織り込んで進む
  • 監査で見つかった場合:価格の引き下げ交渉になる。信頼にも影響
  • クロージング後に発覚した場合:補償請求。訴訟に発展することも

同じ問題でも、扱われ方がまったく違います。

先に洗い出す方法

  1. 労務:勤怠記録と賃金台帳を突き合わせ、着替え・清掃時間の扱いを確認する
  2. 社会保険:パート・アルバイトの労働時間と加入状況を照合する
  3. 退職金:規程上の支給額と積立額を比べる
  4. 保証:金融機関からの残高証明と、過去の議事録を確認する
  5. 設備:年表を作り、更新の必要額を概算する
  6. 在庫:滞留期間別に分類し、評価損の要否を判断する

このうち1と2は、社会保険労務士に依頼して点検してもらうのが確実です。費用はかかりますが、後から出るリスクを考えれば十分に見合います。労務デューデリに備えるをご覧ください。

開示しても大丈夫か

「先に言うと足元を見られるのでは」と心配される方がいらっしゃいますが、実務上は逆です。

課題を把握していて、対応策も考えている会社という評価につながります。少なくとも、監査で発覚して不信を招くよりはるかに良い結果になります。表明保証の対象からも外せます。最終契約書の要点を参照してください。