なぜ在庫が重視されるのか
食品製造業の在庫には、他業種にない特徴があります。
- 期限がある:原材料も製品も、時間が経てば価値がなくなる
- 用途が限定される:特定の商品にしか使えない原料や包材が多い
- 季節変動が大きい:時期によって残高が大きく動く
- 評価方法が実態とずれやすい:原価計算が整備されていない場合
そのため、帳簿の在庫金額と実質的な価値が乖離しやすいのです。
評価が下がる典型的なもの
1. 長期滞留の原材料
特定の商品用に仕入れたが、その商品の受注が減って使い切れていない原料。期限が切れていなくても、使う見込みがなければ価値はありません。
2. 期限切れ・期限間近の製品
返品されたもの、規格外品、受注のキャンセルで残ったもの。処分費用がかかる場合は、マイナスの資産になります。
3. 使えなくなった包装資材
見落とされがちですが、金額が大きくなることがあります。
- デザイン変更前の旧パッケージ
- 表示の変更(原材料名、栄養成分、アレルゲン)で使えなくなったもの
- 終売になった商品の専用資材
- 取引先の仕様変更で不要になったもの
包材は最低ロットが大きく、まとめて発注するため、一度使えなくなると大量に残ります。
4. 仕掛品の評価
製造途中のものをどう評価しているか。原価計算が整備されていないと、根拠が示せません。原価計算を始めるを参照してください。
買収監査で確認されること
- 実地棚卸を定期的に実施しているか
- 帳簿と現物が一致しているか
- 滞留期間別の分類ができているか
- 評価損の計上基準があるか
- 原価計算の方法が一貫しているか
- 倉庫の温度管理と保管状況が適切か
最後の項目は食品製造業ならではです。冷蔵・冷凍保管の記録が残っていないと、在庫の品質そのものが疑われます。温度管理のIoT化もご覧ください。
事前にやること
手順1:滞留期間別に分類する
原材料・仕掛・製品・包材のそれぞれについて、最後に動いた日から何か月経っているかで分けます。
| 滞留期間 | 扱い |
|---|---|
| 3か月以内 | 通常在庫 |
| 3〜6か月 | 要確認(使う見込みがあるか) |
| 6か月〜1年 | 評価減の検討 |
| 1年超 | 処分の検討 |
期限のある食品では、この期間はさらに短くなります。実態に合わせて設定してください。
手順2:処分するか、評価減するか決める
使う見込みがないものは、売却前に処分してしまうほうがすっきりします。損失は出ますが、次の利点があります。
- 実態の純資産が明確になる
- 買収監査での指摘が減る
- 倉庫のスペースが空く
- 管理されている印象を与える
手順3:実地棚卸の記録を整える
定期的に実施し、帳簿との差異を調査して記録に残す。この運用ができているかどうかで、在庫全体への信頼が変わります。
季節性への配慮
繁忙期に向けて在庫を積み増す食品工場では、決算期末の在庫が年間平均と大きく異なることがあります。
この場合、月次の推移を示して「これは季節要因である」と説明できるようにしてください。説明がないと、過剰在庫と見られます。運転資本の調整で扱っている論点です。
在庫を減らすことは価値を上げる
在庫の削減は、評価上も実務上もプラスに働きます。
- 運転資本が減り、必要な資金が小さくなる
- 廃棄ロスが減り、利益が改善する
- 倉庫の効率が上がる
売却の準備としてだけでなく、経営の改善そのものです。在庫回転を上げるを参照してください。