回収に至る典型的なきっかけ
- 消費者・取引先からのクレーム(異物、変質、健康被害)
- 自社の検査で基準を超える結果が出た
- 表示の誤りが判明した(特にアレルゲン)
- 原材料の仕入先から連絡があった
- 行政からの指摘
最初の24時間でやること
1. 事実を確認する(最優先)
- 何が、いつ、どこで起きたか
- 対象となる製品名、ロット、賞味期限
- 製造日と製造ライン
- 出荷先と出荷数量
- 健康被害の有無
ロットが特定できるかどうかが、回収の規模を決めます。特定できなければ、全ロットを対象にせざるを得ません。トレーサビリティの仕組みをご覧ください。
2. 出荷を止める
該当する可能性のある製品の出荷を、直ちに停止します。判断に迷ったら止めるのが原則です。
3. 保健所に相談する
健康被害のおそれがある場合、速やかに管轄の保健所に連絡してください。相談すること自体が不利になることはありません。むしろ、後から発覚するほうが問題です。
回収を行う場合、行政への届出が必要になることがあります。要否と手続きは保健所の指示に従ってください。
4. 取引先に連絡する
出荷先に速やかに連絡し、販売の停止と在庫の確保を依頼します。連絡した時刻と内容を記録してください。
5. 対策本部を立てる
小規模な工場でも、誰が何を担当するかを決めてください。
- 全体の指揮
- 行政との窓口
- 取引先への連絡
- 消費者からの問い合わせ対応
- 原因調査
- 記録の作成
1人で全部を抱えると、必ず抜けが出ます。
回収の分類
回収は、健康への影響の程度によって区分されます。区分によって、公表の方法や行政の関与が変わります。
自主回収であっても、届出が求められる場合があります。判断は保健所と相談してください。
公表
回収を行う場合、消費者に情報を届ける必要があります。方法としては次があります。
- 自社ウェブサイトでの告知
- 新聞への社告
- 店頭での掲示(取引先の協力)
- 行政の公表制度
公表文には、製品名、ロット、賞味期限、内容量、問題の内容、健康への影響、回収の方法、問い合わせ先を明記します。
あいまいな表現を避けてください。「一部の商品」ではなく、対象を特定できる情報を出します。
原因調査
回収と並行して、原因を特定します。
- 製造記録を確認する(温度、時間、作業者)
- 原材料のロットを確認する
- 設備の点検記録を確認する
- 作業手順が守られていたかを確認する
- 同一ロットの保存品を検査する
記録が残っていなければ、原因は特定できません。日頃の記録が、この場面で効いてきます。衛生管理の記録の残し方をご覧ください。
再発防止
原因が特定できたら、対策を決めて実施します。
- 工程の変更
- 設備の改修
- 手順書の改訂
- 教育の実施
- 衛生管理計画の見直し
- チェック体制の強化
実施したことを必ず記録に残してください。この記録が、承継や取引先監査の場面で体制の証明になります。
記録すべきこと
回収の一連の対応を、時系列で記録します。
- 発覚の経緯と時刻
- 事実確認の内容
- 行政・取引先への連絡(時刻と内容)
- 回収の対象と数量
- 回収の進捗(日次で)
- 原因調査の内容と結果
- 再発防止策と実施状況
- 最終的な処理(回収品の処分)
保険と費用
回収には費用がかかります。回収作業、代替品の供給、廃棄、告知、賠償。
生産物賠償責任保険(PL保険)で、どこまでカバーされるかを事前に確認しておいてください。回収費用が対象外の契約もあります。生産物賠償責任保険(PL保険)の見直しをご覧ください。
承継の場面での扱い
過去に回収があったことは、必ずしも減点ではありません。買い手が見るのは次の点です。
- 原因が特定されているか
- 再発防止策が実施され、記録されているか
- その後、同種の事案が起きていないか
- 行政への届出・公表が適切に行われたか
これらが揃っていれば、「対応できる体制がある」証明になります。逆に、記録がない、原因不明のまま、という状態は強い減点要因です。食品表示と回収リスクをご覧ください。
備えておくこと
- 回収時の連絡先一覧を作る(保健所、取引先、保険会社、専門家)
- 担当と役割を決めておく
- 公表文のひな形を用意しておく
- ロットの追跡が何時間でできるか、実際に試してみる
4番目は模擬回収と呼ばれる訓練です。実際にやってみると、追跡できない箇所が見つかります。
回収の履歴は承継でどう見られるか
食品会社のリコールの履歴は、M&Aのデューデリジェンスで必ず確認されます。あったこと自体より、そのあとどうしたかが見られます。
- 原因を特定できたか
- 再発防止の手順に落とし込めたか
- その手順が今も回っているか
- 行政や取引先への報告が適切だったか
隠して進めると、デューデリジェンスで出てきて信頼を失います。先に自分から説明し、直した記録を添えるほうが結果的に有利です。
※ 回収の届出義務や公表の方法は、法令の改正や事案の内容によって異なります。実際に回収を行う際は、必ず管轄の保健所の指示に従ってください。