なぜ引き継がれないのか
食品衛生法に基づく営業許可は、「誰が」「どの施設で」営業するかに対して与えられるものです。事業譲渡では営業する主体(法人・個人)が変わるため、従前の許可をそのまま使うことはできないのが原則です。
施設が同じでも、営業者が変われば新たな手続きが必要になります。ここが株式譲渡との決定的な違いです。株式譲渡なら会社そのものは変わらないため、許可は継続します。株式譲渡と事業譲渡はどちらを選ぶかをご覧ください。
何が起きるか
手続きを踏まずに引き渡すと、譲受側は許可なく営業する状態になります。これは避けなければなりません。
したがって、次のどちらかを実現する必要があります。
- クロージング日までに、譲受側の許可を取得しておく
- 許可が下りるまでの間、製造をどうするかを取り決めておく
後者は現実的には難しく、前者を目指すのが基本です。
手続きの流れ(一般的な例)
- 管轄の保健所に事前相談する
- 譲受側が食品衛生責任者を選任する
- 申請書と必要書類を提出する
- 施設の検査を受ける
- 許可が交付される
所要期間は自治体や時期によって異なります。必ず早い段階で管轄の保健所に確認してください。この期間が、クロージング日を実質的に決めることになります。
事前相談で確認すべきこと
- 申請から許可までにどれくらいかかるか
- 施設の検査は必ず行われるか
- 現在の施設が、そのまま基準に適合すると考えてよいか
- 譲渡人の許可を廃止するタイミングと、譲受人の許可を取るタイミングの関係
- 必要な書類は何か
- 営業の空白期間が生じないようにする方法があるか
4番目と6番目が実務上の要です。自治体によって運用が異なるため、一般論ではなく管轄への確認が必須です。
施設基準への適合が問題になることがある
現在の許可を得た当時と、施設基準の運用が変わっている場合があります。また、長年の間に増改築や設備の追加を行い、届出をしていないケースもあります。
新たに検査を受けることで、これまで問題にならなかった点が指摘される可能性があります。事前相談の段階で、現在の図面をもとに確認しておくと安全です。施設基準の考え方をご覧ください。
食品衛生責任者
営業許可には食品衛生責任者の選任が伴います。譲受側で誰を選任するかを決めておく必要があります。
現在の責任者が譲受側に転籍して継続するのであれば話は早いのですが、転籍しない場合は資格を持つ人を確保する必要があります。食品衛生責任者の要件と交代の手続きを参照してください。
その他の許認可・届出
営業許可以外にも、事業譲渡では次の手続きが必要になることがあります。該当の有無は個別に確認してください。
- 営業届出(許可が不要な業種の場合)
- 廃棄物の処理委託契約の締結し直し
- 排水・環境関係の届出
- ボイラー・高圧ガス等の設備に関する届出
- 取得している認証(FSSC22000等)の移行手続き
認証は、営業者が変わると審査のやり直しや、登録の変更手続きが必要になることがあります。認証機関に早めに確認してください。FSSC22000・ISO22000は承継でどう扱われるかをご覧ください。
取引先への影響
取引先の工場監査を受けている場合、営業者の変更を報告し、場合によっては監査を受け直すことになります。監査には準備期間が必要なので、スケジュールに織り込んでおいてください。取引先の工場監査で扱っています。
それでも事業譲渡を選ぶ場合
手続きの負担が大きいにもかかわらず事業譲渡が選ばれるのは、次のような理由があるときです。
- 複数の事業のうち一部だけを譲りたい
- 買い手が簿外債務のリスクを避けたい
- 工場不動産を売り手側に残したい
3番目については工場不動産を分けて残す、一部の事業だけを移す方法については会社分割を使う整理もご検討ください。会社分割であれば、許認可の扱いが事業譲渡とは異なる場合があります。
※ 営業許可の取扱いや所要期間は自治体の運用によって異なります。スキームを決める前に、必ず管轄の保健所にご確認ください。