見られるのは「実態」
財務デューデリジェンスは、粉飾を疑う作業ではありません。決算書は税務や会計のルールに沿って作られていますが、買い手が知りたいのは「自分が経営したときの実力」です。そのために調整を加えていきます。
論点1:正常収益力
最も重要な項目です。決算書の営業利益から、次のような調整を行って「平常時に安定して出せる利益」を算定します。
- 現経営者の役員報酬を、適正水準に置き換える
- 経営者・親族の生命保険料、私的な支出を除く
- 一時的な損益(保険解約益、災害損失、補助金収入)を除く
- 親族への地代・家賃が相場から離れていれば調整する
- 季節変動の影響をならす
この調整後の数字が、評価の基礎になります。事前に自分で整理しておくと、交渉が有利に進みます。決算書の磨き上げをご覧ください。
論点2:在庫(食品工場で最も見られる項目)
食品製造業の財務DDで、必ず時間をかけて見られるのが在庫です。
- 滞留在庫:長期間動いていない原材料・製品がないか
- 期限切れ・期限間近:評価損を計上すべきものが残っていないか
- 評価方法:原価計算が実態に合っているか
- 実地棚卸:帳簿と現物が一致しているか
- 包装資材:デザイン変更で使えなくなったものがないか
最後の項目は見落とされがちです。使えない包材が資産に計上されたままという例は珍しくありません。在庫の評価と在庫回転を上げるを参照してください。
論点3:売掛金と回収
- 回収が遅れている先はないか
- 回収サイトが長い取引がないか
- 取引先の信用状態に懸念はないか
- 返品・値引きの処理が適切か
食品業界では、返品や販促協賛金の扱いが取引先ごとに異なります。売上として計上されているが実質的に値引きされているものがないかが確認されます。
論点4:固定資産
- 台帳に載っているが、実際にはもう使っていない設備がないか
- 逆に、使っているのに台帳にない設備がないか
- 減価償却が適切に計上されているか
- 個人名義の資産を会社が使っていないか
最後の項目は食品製造業でよくある論点です。個人名義の設備・車両・土地をどう整理するかをご覧ください。
論点5:運転資本(季節性の扱い)
食品製造業には繁閑があり、時期によって在庫と売掛金が大きく変動します。決算期末の数字だけを見ると、実態とずれることがあります。
そのため、月次の推移で運転資本の水準を確認するのが一般的です。ここは価格調整にも関わる論点です。運転資本の調整で扱っています。
論点6:簿外の債務・負担
- 未払いの残業代(労務DDと連動します)
- 退職給付に関する将来の負担
- 他社の借入に対する保証
- 係争中の案件
- デリバティブ取引
- 設備の更新に要する将来の支出
これらは簿外債務が見つかったときどうなるかで詳しく扱っています。
売り手が準備しておくこと
- 直近3期の決算書を並べ、大きく変動した項目に説明を用意する
- 役員報酬・保険料・私的費用を自分で整理しておく
- 在庫の滞留状況を、期間別に把握しておく
- 台帳と現物が合っているか、事前に確認する
質問に即答できるかどうかが、買い手の心証を大きく左右します。分からないまま「調べます」を繰り返すと、管理が甘い会社という印象になります。