まず「本当に赤字か」を確認する

意外に多いのが、調整すると黒字になるケースです。中小企業の決算は、税負担を抑える方向で作られていることが多いためです。

次の項目を調整してみてください。

  • 経営者・親族への役員報酬を、適正水準に置き換える
  • 経営者の生命保険料を除く
  • 私的な色彩の強い交際費・車両費を除く
  • 親族への地代・家賃が相場より高ければ調整する
  • 一時的な損失(除却損、災害、退職金の一括計上)を除く

この調整後の利益が、買い手から見た実質的な収益力です。ここが黒字なら、通常の評価の土俵に乗ります決算書の磨き上げで詳しく扱っています。

それでも赤字の場合、買い手は何を見るか

1. 営業許可と適合した施設

食品製造業に参入したい企業にとって、すでに許可を得て稼働している工場には大きな価値があります。土地を探し、建てて、施設基準に適合させ、許可を取る。これをゼロからやると年単位の時間と多額の資金が必要です。

2. 生産能力と余力

自社の生産が手一杯で、増産の場所を探している同業。この場合、赤字かどうかより「どれだけ作れるか」が関心事になります。自社の製品を移せば、稼働は埋まり利益は出ます。

3. 作れる人

食品工場の人材は、どこも不足しています。製造の経験がある従業員がまとまっている会社は、それ自体が価値です。特に、技能を持つ人と品質管理の担当者は貴重です。

4. 取引先と販路

大手量販店やコンビニとの取引は、新規に開くのが難しいものです。すでに口座がある会社を引き継ぐことで、その関門を越えられます。

5. 立地

食品工場は、住宅地に近い場所での新設が難しくなっています。今ある工場は、今の場所にしか作れないという事情があります。原料の産地に近い、消費地に近い、といった立地の価値もあります。

6. 設備

特殊な設備(冷凍設備、充填機、レトルト設備など)を持っている場合、それを買うより会社ごと引き継ぐほうが早い、という判断が働きます。

赤字企業の評価の考え方

黒字企業のように利益をもとにした評価はできないため、次のような考え方が取られます。

  • 純資産をもとにする(資産の時価から負債を引く)
  • 個別の資産に着目する(土地・建物・設備の価値)
  • 買い手の事業計画をもとにする(統合後にいくら利益が出るか)

3番目が最も重要です。「自社と組んだらどうなるか」で買い手は判断します。だからこそ、相手選びが結果を大きく変えます。3つの評価方法の使い分けをご覧ください。

備えておくこと

1. 赤字の理由を説明できるようにする

原材料の高騰を転嫁できていない、特定の取引先の減少、設備の故障による稼働低下。原因が特定できていて、対策も示せる会社は評価が違います。

逆に、「なぜ赤字なのか分からない」という状態が最も不利です。品目別の採算を整備してください。品目別採算の作り方が出発点です。

2. 改善の余地を見せる

価格改定の余地、歩留まりの改善余地、稼働率を上げる余地。「まだ手を付けていない打ち手がある」ことは、買い手にとって魅力です。歩留まりとロスの改善原材料高騰と価格転嫁を参照してください。

3. 資産と負債を整理する

使っていない設備、滞留在庫、回収できない売掛金。これらを整理すると、実態の純資産が明確になります。

4. 早く動く

これが最も重要です。赤字が続くと、資金が減り、人が辞め、設備が止まります。選択肢は時間とともに減ります

それでも見つからない場合

数か月動いて候補が出ない場合は、廃業も含めて比べ直す必要があります。ただし、廃業には費用がかかります。食品工場の場合、設備の撤去、排水・冷媒の処理、建物の解体、従業員への支払い、借入の返済。

試算すると、条件を下げてでも譲渡したほうが手元に残る、という結論になることが少なくありません。廃業とM&A、どちらを選ぶべきかで比較の方法を示しています。