軸1:収益力(ただし決算書のままではない)
買い手が見るのは、決算書の利益そのものではなく「自分が経営したときにいくら残るか」です。そのため、次のような調整を加えて見ています。
- 現経営者の役員報酬を、適正水準に置き換える
- 経営者の生命保険料や私的な費用を除く
- 一時的な損益(保険の解約益、災害損失など)を除く
- 今後必要になる設備投資を織り込む
この調整後の利益が実質的な評価の基礎になります。決算書の磨き上げとEBITDAで見る食品工場の評価で扱っています。
軸2:設備と工場(あと何年使えるか)
食品工場は設備産業なので、ここは丁寧に見られます。
- 主要設備の導入年と稼働状況、修繕履歴
- 今後3〜5年で必要になる更新投資の額
- 建屋の状態(屋根・床・排水・電気容量)
- ラインの汎用性(他の品目も作れるか)
- 生産能力の余力(増産できるか)
特に余力は買い手の関心が高い項目です。自社の生産を移せる余地があれば、買収の目的そのものになります。
軸3:許認可と衛生管理(すぐ製造できるか)
食品製造業ならではの軸です。次を確認されます。
- 営業許可の種類・範囲と、有効性
- 施設が基準に適合しているか
- 衛生管理計画があり、記録が継続しているか
- 検証・見直しが実施されているか
- 取得している認証(FSSC22000等)と、その維持状況
- 取引先の工場監査の結果と、指摘への対応履歴
記録が継続して残っている工場は、それだけで評価が上がります。記録は後から作れないからです。衛生管理の記録の残し方と取引先の工場監査をご覧ください。
軸4:人(誰が残り、誰がいないと困るか)
買い手が最も恐れるのは、キーパーソンがまとめて抜けることです。次を見ています。
- 工場長・製造部長・品質管理責任者が残るか
- 技能が特定の1人に集中していないか
- 従業員の年齢構成(数年以内に大量に定年を迎えないか)
- 採用と定着の状況
- 外国人材の受け入れ体制
多能工化とスキルマップが整っていると、この軸の評価は明確に上がります。多能工化とスキルマップと人が残るかどうかは価格に影響するかを参照してください。
軸5:取引先(売上が続くか)
- 上位5社の構成比(1社依存が高すぎないか)
- 取引の継続年数
- 契約形態(基本契約があるか、口約束か)
- チェンジオブコントロール条項の有無
- 価格改定の実績(転嫁できているか)
最後の項目が重要です。原材料が上がったときに価格を上げられた実績は、その会社の交渉力を示します。逆に、何年も価格を据え置いている会社は、今後の利益に不安が残ると見られます。原材料高騰と価格転嫁をご覧ください。
減点されやすいポイント
- 株式が分散している、名義株がある
- 未払い残業や社会保険の未加入がある
- 工場や土地が個人名義で、賃貸借契約もない
- 簿外の債務・保証がある
- 品目別の採算が分からない
- 過去に回収があり、その原因への対応が不明確
これらは買収監査で必ず見つかります。先に開示すれば交渉の前提になりますが、後から出ると不信につながります。買収監査で何を見られるかで準備の仕方を扱っています。
売り手が事前にできること
5つの軸のうち、短期間で改善できるのは限られます。優先度は次のとおりです。
- 株式・名義・個人名義資産の整理(時間はかかるが確実に効く)
- 品目別の採算の整備(数字が語れるようになる)
- 衛生管理の記録の継続(今日始めても価値がある)
- 属人化の解消(人の軸の評価が上がる)
1年でできることは売る前の1年でできる企業価値の上げ方にまとめました。