手取りを計算する順序
- 譲渡総額を確認する(退職金+株式譲渡対価)
- 他の株主への配分を引く
- それぞれの税金を計算する
- アドバイザーへの報酬と諸費用を引く
- 残った金額が手取り
ステップ1:総額の内訳を分ける
M&Aでは、役員退職金と株式譲渡対価を組み合わせるのが一般的です。この2つは課税の仕組みが異なるため、分けて計算する必要があります。
配分の考え方は役員退職金と譲渡対価のバランスをご覧ください。
ステップ2:他の株主への配分
株式譲渡対価は、持分に応じて各株主に配分されます。経営者が100%を保有していない場合、その分は手元に残りません。
親族や元役員が株式を持っている場合、その人たちにも対価が渡ります。事前に株主構成を確認しておいてください。分散した株式をまとめるを参照してください。
ステップ3:税金
株式譲渡益への課税
譲渡価額から取得費と譲渡費用を引いた譲渡益に対して課税されます。
ここで問題になるのが取得費です。何十年も前に設立した会社では、取得費が分からないことがあります。この場合の取扱いには一定のルールがあるため、税理士に確認してください。
詳しくは株式譲渡益にかかる税金の基本をご覧ください。
退職金への課税
退職所得として、給与所得とは異なる計算方法が適用されます。在任年数に応じた控除があり、税負担は相対的に軽くなる仕組みです。
ただし、不相当に高額とされる部分は損金として認められない可能性があります。役員退職金の税務上の注意を参照してください。
ステップ4:報酬と諸費用
- M&Aアドバイザーへの報酬(成功報酬、着手金、中間金)
- 弁護士への報酬(最終契約書の確認)
- 税理士への報酬(株価評価、税務相談)
- 司法書士への報酬(登記)
- 少数株主からの株式買い取り資金(事前に実施した場合)
アドバイザー報酬は、計算の基準が「株式価額」か「株式価額+負債」かで金額が大きく変わります。借入のある食品工場では特に影響します。M&Aの費用をご覧ください。
事業譲渡の場合は経路が変わる
事業譲渡では、対価は会社に入ります。個人が受け取るには、そこから配当や役員退職金として支払う必要があり、その都度課税されます。
また、事業譲渡では会社に法人税等がかかり、譲渡資産によっては消費税も発生します。一般に、個人の手取りは株式譲渡のほうが有利になりやすいとされます。
詳しくは事業譲渡の税務と株式譲渡と事業譲渡はどちらを選ぶかをご覧ください。
受け取りが遅れる部分に注意
次の場合、クロージング時に全額を受け取れないことがあります。
- 運転資本の調整:確定までに1〜3か月かかる(運転資本の調整)
- エスクロー:補償に備えて一部を第三者に預託する
- アーンアウト:将来の業績に連動する部分(アーンアウトの設計と注意)
- 分割払い:買い手の資金事情による
引退後の生活資金を計画するうえで、いつ、いくら入るかは重要です。契約段階で確認してください。
手取りの使い道を先に考える
手取りが確定したら、次の配分を考えます。
- 引退後の生活資金
- 個人保証がある場合の対応(原則として解除されますが、確認が必要)
- 相続を見据えた資産の配分
- 子どもへの援助
現金化されたことで、相続財産の構成が変わります。自社株のままなら適用できた特例が使えなくなることもあります。売却前に、相続の見通しも含めて税理士に相談しておいてください。
必要額の考え方は引退後の生活資金をどう作るかを参照してください。
試算はいつやるか
交渉に入る前です。総額の目安が分かった段階で、手取りを試算しておけば、提示条件の判断ができます。
「総額◯億円」と聞いて進めたものの、税金と報酬を引いたら想定の半分だった、という事態は避けられます。
※ 税額の計算や特例の適用は、個別の事情や法令の改正によって異なります。実行にあたっては顧問税理士に必ずご確認ください。