3つの系統

方法何をもとにするか向いている場合
純資産法(コストアプローチ)資産と負債の時価資産が多い、収益が不安定
DCF法(インカムアプローチ)将来の収益成長が見込める、計画に根拠がある
類似会社比較法(マーケットアプローチ)他社の取引事例や株価比較できる会社がある

純資産法

貸借対照表の資産から負債を引いた純資産をもとに評価します。ただし帳簿価額をそのまま使うのではなく、時価に直すのが実務です。

食品工場で調整されるのは次のような項目です。

  • 土地:帳簿は取得時の価額のままのことが多く、時価と大きく乖離する
  • 建物・設備:実際の使用可能年数で見直す
  • 在庫:滞留・期限切れ分を評価減する
  • 保険積立金:解約返戻金の額に直す
  • 退職金の将来負担:規程に基づく必要額を負債として加える
  • 未払いの残業代:判明していれば負債として加える

食品工場は土地と設備を持つため、この方法での評価額が大きくなることがあります。一方で、収益力が反映されないという限界があります。

DCF法

将来生み出すと見込まれるキャッシュフローを、現在価値に割り引いて評価します。理論的には最も精緻な方法です。

ただし、中小企業では使いにくい面があります。

  • 将来の事業計画に、客観的な裏付けを持たせるのが難しい
  • 割引率の設定によって結果が大きく変わる
  • 計画を作る側の前提次第で、評価額を動かせてしまう

そのため、中小企業のM&Aでは参考値として使われることが多いのが実情です。ただし、成長が見込める事業や、設備投資の効果を織り込みたい場合には有効です。

類似会社比較法

上場している同業他社の株価指標や、過去のM&A事例の倍率を参考にする方法です。

食品製造業では、上場している食品メーカーのEV/EBITDA倍率などが参照されます。ただし、上場企業と中小の食品工場では規模も事業内容も大きく異なるため、そのまま当てはめることはできません。

実務では、この倍率を参考にしつつ、規模や流動性を考慮して調整する形が取られます。EBITDAで見る食品工場の評価で詳しく扱っています。

中小企業の実務でよく使われる形

上の3つを踏まえたうえで、中小企業のM&Aでは次の考え方が実務上よく用いられます。

時価純資産 + 調整後利益の数年分

純資産法をベースに、収益力を「のれん」として上乗せする形です。分かりやすく、双方が納得しやすいという利点があります。

この「数年分」が何年になるかが、実質的な交渉の焦点になります。事業の安定性、取引先の構成、人の残りやすさによって上下します。

食品工場での使い分け

会社の状態主に使われる考え方
安定して利益が出ている時価純資産+のれん、EBITDA倍率
赤字だが資産がある純資産法、個別資産の評価
設備投資の効果がこれから出るDCF法を併用
買い手にとってのシナジーが大きい買い手の事業計画をもとにした評価

赤字の場合の考え方は赤字でも売れるのかをご覧ください。

評価額と成約価格は違う

最後に重要な点です。評価はあくまで目安であり、実際の価格は交渉で決まります

買い手にとってのシナジーが大きければ評価額を上回ることもありますし、候補が1社しかなければ下回ることもあります。価格交渉で使える材料を参照してください。

※ 企業価値評価の手法や前提は、案件や評価者によって異なります。具体的な評価にあたっては、税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。