誰に課税されるか
| 株式譲渡 | 事業譲渡 | |
|---|---|---|
| 対価を受け取る主体 | 株主(個人) | 会社 |
| 課される税 | 個人の譲渡所得税等 | 会社の法人税等 |
| 消費税 | かからない | 課税対象の資産にかかる |
| 個人が受け取るには | 直接受け取る | 配当・退職金として(再度課税) |
この構造から、個人の手取りは株式譲渡のほうが有利になりやすいとされます。ただし、事業譲渡が選ばれる理由(一部だけ譲る、簿外債務を避ける)もあるため、税負担だけで決めるものではありません。
消費税の扱い
事業譲渡では、譲渡する資産の中に消費税の課税対象となるものが含まれます。
課税対象になりやすいもの
- 製造設備、機械、器具備品
- 車両
- 建物
- 棚卸資産(原材料、製品、包材)
- 営業権(のれん)
課税対象にならないもの
- 土地
- 金銭債権
食品工場では設備と在庫の金額が大きいため、消費税の額も相応になります。買い手は消費税を上乗せして支払い、売り手はそれを納付することになります。
資金の流れとして、一時的に大きな金額が動く点に注意してください。
資産の按分
事業譲渡では、譲渡対価を個々の資産に割り振ります。この按分によって、次が変わります。
- 消費税の課税対象額(土地に多く配分すれば消費税は減る)
- 売り手の譲渡損益(簿価との差額)
- 買い手の減価償却費と、営業権の償却
売り手と買い手で利害が対立することがあるため、按分は交渉の対象になります。
ただし、合理的な根拠のない按分は税務上否認されるリスクがあります。時価に基づいた按分を行い、その根拠を残しておく必要があります。
営業権(のれん)の扱い
譲渡対価が個々の資産の時価の合計を超える部分は、営業権として扱われます。
- 売り手:営業権の譲渡益に法人税等が課される。消費税の課税対象
- 買い手:資産として計上し、一定期間で償却する
買い手にとっては償却によって節税効果があるため、事業譲渡を望む理由の1つになります。
売り手の会社に残るもの
事業を譲渡した後、会社そのものは売り手側に残ります。次の判断が必要になります。
- 会社を清算するか、存続させるか
- 残った資産(不動産など)をどうするか
- 対価を個人にどう移すか
個人に移す方法としては、役員退職金、配当、清算による残余財産の分配があります。それぞれ課税関係が異なるため、事前に試算してください。
不動産を残して賃貸する場合は工場不動産を分けて残すをご覧ください。
繰越欠損金の活用
会社に繰越欠損金がある場合、事業譲渡による譲渡益と相殺できる可能性があります。赤字が続いていた会社では、税負担が抑えられることがあります。
これは事業譲渡を選ぶ判断材料の1つになります。赤字でも売れるのかもご覧ください。
食品製造業での実務上の注意
1. 在庫の扱い
原材料・製品・包材をどこまで譲渡対象に含めるかを決めます。期限の近いもの、滞留しているものの扱いが交渉になります。在庫の評価をご覧ください。
2. 営業許可の取得時期との整合
事業譲渡では譲受側が新たに営業許可を取得する必要があります。許可の取得時期と、資産の引き渡し・対価の支払い時期を合わせる設計が必要です。事業譲渡のときの営業許可をご覧ください。
3. 従業員の転籍
事業譲渡では、従業員は個別に同意して転籍します。退職金の精算をどうするか(一度精算するか、勤続を通算するか)で、会社の負担が変わります。
検討の順番
- 株式譲渡と事業譲渡の両方で、手取りを試算する
- 営業許可の扱いを保健所に確認する
- 消費税を含めた資金の流れを確認する
- 残った会社をどうするかを決める
- そのうえでスキームを選ぶ
※ 事業譲渡の税務上の取扱いは、資産の内容や個別の事情によって異なります。実行にあたっては顧問税理士に必ずご確認ください。