仕組み
譲渡代金の一部を、クロージング後の一定期間の業績(売上、利益、特定の指標)に連動させて支払う取り決めです。
例えば、「基本の譲渡代金に加え、クロージング後2年間の営業利益が◯◯万円を超えた場合に追加で◯◯万円を支払う」という形です。
使われる場面
1. 価格の見方が分かれるとき
売り手は「これから伸びる」と考え、買い手は「不確実だ」と考える。この差を埋める手段として使われます。伸びたら払う、伸びなければ払わないという形で折り合いをつけます。
2. 業績の変動が大きいとき
食品製造業では、原材料価格や天候によって業績が振れることがあります。買い手がリスクを取りきれない場合に用いられます。
3. 経営者が一定期間残るとき
売り手が引き続き経営に関与する場合、その成果を対価に反映させる仕組みとして機能します。
売り手にとっての利点と欠点
| 利点 | 欠点 |
|---|---|
| 総額として高い対価を得られる可能性 | 受け取れない可能性がある |
| 交渉が決裂せずに進む | 受け取りが数年先になる |
| 自社の将来性を主張できる | 買い手の経営次第で結果が変わる |
最大の問題は3番目です。譲渡後は買い手が経営します。買い手の判断(設備投資の抑制、他事業への資源配分、会計方針の変更)によって、指標が達成されないことがありえます。
確認すべき7つの点
1. 指標は何か
売上、営業利益、EBITDA、特定の品目の生産量。操作されにくい指標を選ぶことが重要です。
営業利益は、本社費の配賦や役員報酬の設定によって動かせます。売上のほうが操作されにくい一方、利益を伴わない売上でも達成されてしまうという面があります。
2. 算定の方法
会計方針が変わった場合の取扱い、グループ間取引の価格、本社費の配賦。これらを具体的に定めておかないと、後で必ず揉めます。
3. 期間
1〜3年が一般的です。長すぎると、事業の変化によって当初の前提が成り立たなくなります。
4. 買い手の行為に関する制約
売り手を守るための条項です。例えば次のようなものです。
- 対象事業の資産を売却しない
- 対象事業の従業員を他部門に異動させない
- 合理的な理由なく設備投資を抑制しない
- グループ内取引を不合理な価格で行わない
これがないアーンアウトは、売り手にとって非常に不利です。
5. 情報の開示
期間中、業績に関する情報を受け取る権利を定めます。月次または四半期の数字を確認できる形にしておかないと、達成状況が分かりません。
6. 支払いの確実性
買い手が支払えなくなるリスクもあります。親会社の保証、エスクロー(第三者預託)といった手当てを検討します。
7. 税務上の取扱い
受け取った時点での課税関係を、事前に確認してください。譲渡時の対価として扱われるか、別の所得となるかで税負担が変わります。
食品製造業での注意点
原材料価格の影響
利益を指標にする場合、原材料価格の高騰によって達成できなくなる可能性があります。自分の努力とは関係のない要因です。
対策として、「原材料価格が一定以上変動した場合は指標を調整する」という条項を入れることが考えられます。
設備投資の扱い
買い手が設備を更新すると、減価償却費が増えて利益が減ります。EBITDAを指標にすることで、この影響を避けられます。
統合による影響
買い手が生産を移管する、品目を整理する、といった判断をすると、対象事業の数字は変わります。PMIの方針と、アーンアウトの指標が矛盾しないかを事前に確認してください。PMIの進め方をご覧ください。
アーンアウトを避けるという選択
実務上、中小企業のM&Aではアーンアウトを使わないほうが円滑なことも多くあります。理由は次のとおりです。
- 算定を巡る紛争が起きやすい
- 譲渡後も関係が続き、引退したい売り手には負担になる
- 結局受け取れないケースが少なくない
価格の差を埋める手段としては、基本の対価を下げてでも確実に受け取るという選択も十分に合理的です。判断は価格交渉で使える材料もあわせてご検討ください。
※ アーンアウトの設計と税務上の取扱いは、契約内容や個別の事情によって異なります。導入にあたっては弁護士・税理士等の専門家に必ずご確認ください。