「全体では赤字」では交渉できない

決算書で分かるのは、会社全体の損益です。しかし価格交渉の相手は、会社全体ではなく特定の商品を買っている取引先です。「原料が上がったので全体的に厳しい」という説明では、相手も社内を説得できません。

必要なのは、その取引先が買っている、その商品の原価です。ここが出せるかどうかで、交渉の成否は大きく変わります。

まず、品目別の粗利を出す

完璧な原価計算をいきなり目指す必要はありません。最初は次の粒度で十分です。

  1. 商品ごとの販売単価と数量(直近12か月)
  2. 商品ごとの原料費(配合表 × 原料単価)
  3. 商品ごとの包材費
  4. ここまでで出る「限界利益」に近い数字

これだけでも、赤字の品目がはっきり見えることがよくあります。実際、「主力だと思っていた商品が最も薄利だった」という発見は珍しくありません。

次に、加工費を配賦する

原料費・包材費の次は、人件費・エネルギー費・減価償却費といった加工費です。すべてを厳密に配賦しようとすると挫折するので、ラインごと・時間あたりで割り切るのが現実的です。

  • ラインごとに、月間の稼働時間を把握する
  • そのラインに紐づく人件費・電力・ガス・水道・減価償却費を集める
  • 「1時間あたりの加工費」を出す
  • 商品ごとの生産時間を掛けて、加工費を割り当てる

この方法だと、小ロット・段取り替えの多い商品の採算が悪いことが数字で見えてきます。段取り時間をラインの稼働時間に含めるのがポイントです。

交渉の材料をどう組み立てるか

数字が出たら、交渉の材料をつくります。効くのは次の組み合わせです。

  • 原料単価の推移 いつ、どの原料が、どれだけ上がったか(仕入伝票が根拠になります)
  • その影響額 当該商品1個あたり、および年間でいくらか
  • 自社の努力 歩留まり改善・省人化・仕入先の見直しで、どれだけ吸収したか
  • 依頼する改定幅 吸収しきれない分に限定し、根拠を添える

3つ目が重要です。「努力したうえで、なお足りない」という構図にすることで、相手も社内で説明しやすくなります。

それでも通らないときの選択肢

交渉を尽くしても改定が難しい場合、次の判断が必要になります。

  1. 数量を維持したまま、仕様を見直す(規格・容量・包材の変更を提案する)
  2. 生産の優先順位を変え、採算の良い品目にラインを振り向ける
  3. 取引の縮小・終了を検討する

3は勇気が要りますが、赤字の品目でラインを埋めていると、採算の良い仕事を受ける余力がなくなります。品目別の数字があれば、この判断も感情ではなく計算で行えます。

承継の観点から見ても効く

品目別の採算が分かる会社は、承継の場面でも評価されます。買い手にとって「どこで利益が出ているか」が説明できる会社は、買った後の絵が描きやすいからです。

価格改定を実現した実績があれば、なおさらです。売却価格の決まり方でも触れているとおり、これは磨き上げの中でも効率の良い打ち手です。まずは主力の10品目からで構いません。