交渉の成否を決めるのは準備

「お願いします」では通りません。相手が社内で稟議を通せる材料を渡すことが、交渉の本質です。

取引先の担当者も、上司に説明する必要があります。その説明資料を、こちらが用意するという発想に切り替えてください。

資料に入れるもの

1. 何が、いつ、どれだけ上がったか

原材料前回改定時現在上昇率
主原料A◯円/kg◯円/kg+◯%
包装資材◯円/枚◯円/枚+◯%
電力◯円/kWh◯円/kWh+◯%

公表されている指標を併記すると説得力が増します。企業物価指数、輸入物価指数、業界団体の統計など。「うちだけが上げたい」ではなく「業界全体の状況」として示せます。

2. 製品原価への影響

原材料の上昇が、その製品の原価を1個あたり何円押し上げたかを示します。

ここで品目別の原価計算が効いてきます。品目別採算の作り方をご覧ください。

3. 自社の努力

これが最も重要です。「自助努力を尽くしたうえで、それでも足りない」という構成にします。

  • 歩留まりを◯%改善した
  • 包材の仕様を見直して◯円削減した
  • 物流の積載効率を上げた
  • 段取り替えを短縮して稼働率を上げた

数字で示せる改善実績があると、相手も納得しやすくなります。逆に、何も努力していない状態で値上げを求めると、心証が悪くなります。

4. 改定の希望額と時期

具体的に示してください。「◯円/個、◯月納品分から」。曖昧だと、社内で検討できません。

5. 改定しない場合の見通し

供給の継続性に関わる場合は、それも伝えます。ただし、脅しにならない表現にしてください。「継続的な供給のために必要」という趣旨で示します。

切り出すタイミング

良いタイミング

  • 年度の切り替え前(取引先の予算編成に間に合う)
  • 取引条件の見直し時期
  • 新商品の提案時(既存品と併せて相談する)
  • 経営者が交代したとき(後述)
  • 業界全体で値上げの動きがあるとき

承継のタイミングは好機

代替わりは、取引条件を見直す数少ない機会です。

「代が替わりましたので、取引条件を一度見直させていただきたい」という切り出し方ができるのは、このときだけです。多くの後継者がこの機会を活かしています。2代目・3代目が直面する食品工場の課題をご覧ください。

避けるべきタイミング

  • 相手の繁忙期
  • 納品トラブルの直後
  • 年度末の駆け込み時期

誰に話すか

担当のバイヤーだけでなく、その上長にも届く形を意識してください。

担当者レベルで判断できないことが多いため、資料を渡して社内で回してもらう必要があります。資料が独り歩きしても伝わる作りにしてください。

断られたときの対応

1. 理由を聞く

  • 金額が大きすぎるのか
  • 時期が合わないのか
  • 社内の手続き上、難しいのか
  • 他社との比較で不利なのか

理由が分かれば、次の提案ができます

2. 代替案を出す

  • 段階的な改定:一度に上げず、2回に分ける
  • 仕様の変更:内容量、包材、規格を見直して原価を下げる
  • 取引条件の変更:最低ロット、納品頻度、リードタイムを見直す
  • 品目の絞り込み:採算の悪い品目だけ改定する

2番目が実務的です。価格を据え置く代わりに、内容量や包材を見直す。ただし、表示の変更が必要になる点に注意してください。食品表示法の基本をご覧ください。

3. 時期を決めて再協議する

「◯月に改めて相談させてください」と約束を取り付けます。そのときまでに、さらに材料を揃えます。

4. 撤退も選択肢に入れる

限界利益がマイナスの品目を、値上げできないまま続ける理由はありません。撤退の判断基準を持っておくことが、交渉の力にもなります。儲からない商品をやめるをご覧ください。

取引環境の整備

価格交渉については、取引の適正化に関する取り組みが進められています。協議を求めること自体が正当な行為であることを、双方が理解しておく必要があります。

詳しくは価格交渉の環境整備をご覧ください。

交渉できる会社になる

そもそも交渉力は、取引先構成と自社の代替可能性で決まります。

  • 1社への依存度が高いと、断られたら終わり
  • 自社しか作れない商品があれば、立場は変わる

中長期では、この構造を変えることが本質的な対策です。取引先構成が評価に与える影響PB・OEM依存からの脱却をご覧ください。