会社分割とは
会社が営む事業に関して有する権利義務の全部または一部を、他の会社に承継させる組織再編の手法です。新しく設立する会社に承継させる形(新設分割)と、既存の会社に承継させる形(吸収分割)があります。
事業譲渡との大きな違いは、権利義務が包括的に承継される点です。契約を1つずつ移す必要がないため、手続きの量が減ります。
食品製造業での使いどころ
1. 不採算のラインを切り離す
複数の製品ラインのうち、採算の取れない部分を分離して整理する。残った事業の収益性が改善し、承継やM&Aが進めやすくなります。
どのラインを切るかの判断は儲からない商品をやめるを参照してください。
2. 一部の事業だけを譲る
会社全体は手放したくないが、特定の事業だけを同業に譲りたい。分割してから、その会社の株式を譲渡する形が取れます。一部の事業だけを譲るで扱っています。
3. 製造と不動産を分ける
工場の土地建物を持つ会社と、製造を行う会社に分ける。製造会社だけを譲渡し、不動産は手元に残して賃貸する、という設計です。工場不動産を分けて残すをご覧ください。
4. 承継の準備として整理する
複数の事業を営んでいる会社で、後継者に継がせる事業とそうでない事業を分ける。兄弟でそれぞれ異なる事業を継ぐ場合にも使われます。
営業許可の扱い
ここが食品製造業で最も重要な確認事項です。
会社分割では権利義務が包括的に承継されますが、行政上の許認可がそのまま承継されるかどうかは、その許認可を定める法令によります。食品衛生法に基づく営業許可については、承継に関する手続きの要否や取扱いが自治体の運用によっても異なります。
分割の設計を決める前に、必ず管轄の保健所に確認してください。「会社分割で施設を承継する場合、許可はどう扱われるか」を具体的に尋ねる必要があります。営業許可は引き継げる?と事業譲渡のときの営業許可もあわせてご覧ください。
従業員の扱い
会社分割では、承継される事業に従事していた従業員の労働契約も承継されるのが原則です。ただし、労働者への通知や、異議申出の機会の確保など、法令上の手続きが定められています。
食品工場では、複数のラインを兼務している従業員が多く、「どの事業に従事しているか」の切り分けが難しいことがあります。ここは事前に整理が必要です。
債権者への手続き
会社分割には、債権者が異議を述べる機会を確保する手続き(債権者保護手続)が必要になる場合があります。官報への公告などが求められ、一定の期間を要します。
金融機関からの借入がある場合は、事前の協議が不可欠です。分割によって返済の原資となる事業が移ると、金融機関の判断に影響します。銀行との付き合い方を参照してください。
契約の扱い
包括承継されるとはいえ、契約にチェンジオブコントロール条項がある場合は注意が必要です。「組織再編」を対象に含む条項も多く、相手方の承諾が必要になることがあります。
OEM契約や大手量販店との取引基本契約は特に確認してください。取引先の同意と契約書の棚卸しをご覧ください。
税務上の注意
会社分割には、一定の要件を満たす場合に課税を繰り延べる取扱いがあります。要件を満たさない場合、資産の移転に伴って課税が生じることがあります。
要件は詳細で、判定を誤ると想定外の税負担が発生します。設計の段階から税理士に関与してもらってください。
検討の順番
- 何を分けたいのか、目的を明確にする
- 営業許可の扱いを保健所に確認する
- 従業員をどう振り分けるかを整理する
- 金融機関と協議する
- 税務の要件を税理士と確認する
- そのうえで手法を決める(分割か、事業譲渡か、株式譲渡か)
2番目を後回しにしないでください。許可の扱い次第で、手法の選択そのものが変わります。
※ 会社分割の手続・税務・許認可の取扱いは、個別の事情や自治体の運用によって大きく異なります。実行にあたっては、弁護士・税理士および管轄の保健所に必ずご確認ください。