どういう場面で検討するか
- 採算の取れないラインを、それを活かせる同業に譲りたい
- 後継者が引き継ぐには規模が大きすぎる
- 特定の品目だけ、設備更新の負担が重い
- 本業に集中するため、周辺事業を整理したい
- 複数の工場のうち、1つだけを譲りたい
最後のケースが最も成立しやすい形です。工場単位で切り分けられるなら、許認可も設備も人も分けやすくなります。
手法は3つ
| 手法 | 特徴 |
|---|---|
| 事業譲渡 | 資産・契約を個別に移す。営業許可は原則として取り直し |
| 会社分割 | 権利義務が包括的に移る。許認可の扱いは要確認 |
| 分割してから株式譲渡 | 分割で新会社を作り、その株式を譲る |
3番目は、売り手にとって株式譲渡としての税務上の取扱いになる可能性があるため、検討されることがあります。ただし要件が細かいため、必ず税理士と設計してください。
それぞれの違いは株式譲渡と事業譲渡はどちらを選ぶかと会社分割を使う整理をご覧ください。
食品工場で切り分けが難しい理由
1. 施設が一体になっている
同じ建物の中に複数のラインがあり、原料庫、冷蔵庫、洗浄設備、事務所、更衣室を共用している。この場合、物理的に分けられません。
解決策としては、譲渡後も施設を共用する取り決め(賃貸借、業務委託)を結ぶ形がありますが、複雑になります。
2. 営業許可が施設単位
営業許可は施設ごとに与えられます。同じ施設の中で営業主体が分かれると、許可の扱いが極めて複雑になります。
この点は、必ず事前に管轄の保健所に確認してください。事業譲渡のときの営業許可と営業許可は引き継げる?をご覧ください。
3. 人が複数のラインを兼務している
食品工場では、繁閑に応じて従業員が複数のラインを行き来するのが普通です。「この人はこのラインの担当」と明確に分けられないことが多くあります。
会社分割では承継される事業に従事する労働者の扱いが問題になるため、事前の整理が不可欠です。
4. 共通費の配賦が曖昧
そのラインが本当に不採算なのかを判断するには、共通費(減価償却、電気、水道、管理部門)をどう配賦しているかが問題になります。配賦の方法によって、黒字にも赤字にもなります。
成立しやすい条件
- 工場が物理的に別(別棟、別敷地)
- 専用の設備で完結している(他のラインと共用しない)
- 専任の従業員がいる
- 取引先が分かれている
- 単独で採算が取れている、または取れる見込みがある
これらが揃っていない場合、切り分けの調整に時間と費用がかかり、会社全体を譲るほうが早いという結論になることもあります。
譲る前に確認すること
残る事業は成り立つか
一部を切り離すと、共通費を負担する事業が減ります。残った事業で固定費を賄えるかを試算してください。
「不採算ラインを切ったら、残った事業も赤字になった」という結果は実際に起こります。儲からない商品をやめるで判断基準を示しています。
稼働率はどうなるか
ラインを1つ手放すと、共用している設備(冷蔵庫、包装機、洗浄設備)の稼働も下がります。単位あたりのコストが上がる可能性があります。
取引先への影響
1社の取引先に、複数のラインの商品を納めている場合、片方を手放すと取引全体に影響することがあります。
買い手が見つかるか
一部の事業だけを買いたい買い手は、会社全体を買いたい買い手より限られます。ただし、次の場合は成立しやすくなります。
- その品目の生産能力を求めている同業がいる
- 専用設備が特殊で、新規に導入すると高額になる
- その取引先の口座に価値がある
買い手の視点は買い手は食品工場の何を見ているかをご覧ください。
検討の順番
- そのラインの採算を、配賦基準を明確にして算定する
- 切り離した後、残る事業が成り立つかを試算する
- 施設・設備・人・許認可が分けられるかを確認する
- 営業許可の扱いを保健所に確認する
- そのうえで手法を選ぶ
1と2を飛ばして手法の検討に入ると、切り離した後に困ることになります。
※ 会社分割・事業譲渡の手続と税務、許認可の取扱いは個別の事情や自治体の運用によって異なります。実行にあたっては、弁護士・税理士および管轄の保健所に必ずご確認ください。