まず、許可制であることの意味

食品の製造・加工を営むには、食品衛生法に基づく都道府県知事等の営業許可が必要です(業種によっては届出で足りる場合があります)。許可は営業者に対して、施設ごとに与えられており、施設の構造・設備、衛生管理を担う人の配置(食品衛生責任者の設置など)といった要件を満たしていることが前提になっています。

したがって承継を考えるときは、「許可という紙が移るか」だけでなく、許可の前提となっている施設と体制が維持できるかまで見る必要があります。

株式譲渡の場合

株式譲渡では、株主が変わるだけで法人格そのものは変わりません。事業を行う営業者は同じ法人のままなので、営業許可は原則としてそのまま残ります。

ただし「何もしなくてよい」わけではありません。代表者や役員の変更に伴う届出、食品衛生責任者が退職する場合の後任の選任と届出などが必要です。許可は残っても、体制の要件が欠ければ営業は続けられないという点に注意してください。

手続きの簡便さから、食品製造業のM&Aでも株式譲渡が選ばれることが多くあります。一方で、株式譲渡では簿外債務を含めて会社をそのまま引き継ぐため、労務や衛生管理の調査がより丁寧に行われる傾向があります。

事業の譲渡し・譲受けの場合

事業譲渡では、事業を行う主体が別の法人に変わります。この場合、譲受人が自ら新たに営業許可を受けるのが原則です。

申請にあたっては、施設の構造・設備が基準を満たしていることが確認されます。既存の工場をそのまま使う場合でも、申請から許可までには一定の期間がかかるため、「いつから新体制で製造できるか」を逆算してスケジュールを組む必要があります。製造を止められない事業では、ここが最大の実務論点になります。

合併・分割の場合

合併や会社分割によって事業を承継する場合、食品衛生法には営業者の地位の承継に関する定めがあり、承継した者は遅滞なく届け出ることとされています。グループ内での組織再編を伴う承継でも、同様に確認が必要です。

合併・分割は税務や労働契約の承継とも密接に関係するため、許可の手続きだけを切り離して考えることはできません。スキームの検討段階から、許可の扱いを織り込むことが重要です。

相続の場合

個人事業として営業許可を受けていた場合も、相続による地位の承継について届出が求められます。届出を怠ると営業の継続に支障が出るおそれがあります。個人で許可を受けている場合は特に、生前の段階で承継方法を整理しておくことをおすすめします。

有効期間と更新を忘れない

営業許可には有効期間が定められており、継続して営業するには更新が必要です。承継の時期と更新の時期が重なると、手続きが輻輳します。保有する許可の有効期間を一覧にしておくことは、承継準備の第一歩として有効です。

準備として整理しておきたいこと

  1. 保有している営業許可・届出の一覧(業種、施設、取得時期、有効期間、変更履歴)
  2. 工場・倉庫の権利関係(自己所有か賃借か、契約期間、社長個人の所有でないか)
  3. 施設の図面と、直近の改修・増設の履歴
  4. 食品衛生責任者の配置状況と、後任の目処
  5. 過去の立入検査・行政指導の内容と、その後の対応状況
  6. FSSC22000・ISO22000・輸出向けの認定など、任意認証の有無と有効期限

特に5は、買い手が必ず確認する項目です。指摘を受けたこと自体より、その後どう改善したかが見られます。

まとめ

食品衛生法の営業許可は、株式譲渡では原則そのまま残り、事業譲渡では譲受人が新たに取得するのが原則、合併・分割・相続では地位の承継の届出が求められます。どのスキームを選ぶかによって、必要な手続きと期間が大きく変わります。

そして許可以上に重要なのが、許可を支える体制(施設・設備・人)の維持です。承継の相談は、この棚卸しから始めるのが確実です。

※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。許認可の具体的な取扱い・必要書類・審査期間は、法令の改正や管轄行政庁の運用によって異なります。実際の承継にあたっては、必ず管轄の保健所等および専門家にご確認ください。