なぜ買う側に回るのか
食品製造業では、後継者不在を理由に譲渡を検討する会社が増えています。つまり、買う側にとっては選択肢が広がっている状況です。
自社に後継者がいる、あるいは自分がまだ経営を続けるつもりなら、次の目的で譲受を検討する価値があります。
- 生産能力を増やす(自社の工場が手一杯)
- 品目を広げる(作れないものを作れる会社を得る)
- 販路を得る(自社にない取引先の口座)
- 地域を広げる(配送距離の制約を越える)
- 人を確保する(採用が難しい中での現実的な手段)
- 許可済みの施設を得る(新設より早く、安いことがある)
目的を1つに絞る
最も多い失敗が、目的が曖昧なまま「良い案件があれば」と探し始めることです。目的が定まっていないと、判断の基準がありません。
「何のために買うのか」を1つに絞ると、見るべき点が決まります。生産能力が目的なら、赤字でも余力のある工場に価値があります。販路が目的なら、取引先の質が最優先です。
食品工場を見るときの確認点
すぐ製造できるか
- 営業許可の種類と範囲が、作りたい品目に合っているか
- 施設が基準に適合しているか
- 衛生管理の記録が継続しているか
- 取引先の工場監査を通っているか
いくら追加投資が必要か
- 主要設備の年数と更新見込み
- 排水処理の能力(増産できるか)
- 建物の状態、電気容量
- アスベスト・冷媒などの規制対応
ここは金額に直結します。環境・設備デューデリで確認すべき項目を挙げています。
人が残るか
買収の目的が人であれ設備であれ、キーパーソンが辞めると計画が崩れます。工場長、製造の中核、品質管理の責任者。この人たちが残る見込みがあるかを、早い段階で確認してください。
簿外の負担がないか
未払い残業、社会保険の未加入、退職金の積立不足。食品工場では労務の論点が多く、金額も大きくなりやすいものです。簿外債務が見つかったときどうなるかと労務デューデリジェンスをご覧ください。
資金をどうするか
譲受の資金は、金融機関からの借入が中心になります。金融機関は次を見ます。
- 買収の目的と、統合後の収益計画
- 自社の返済能力
- 買収対象の実態(監査の結果)
- 統合を担う人がいるか
4番目が見落とされがちです。買った後に誰が現場を見るのかを答えられないと、計画の信憑性が下がります。銀行との付き合い方を参照してください。
統合でつまずかないために
食品工場の統合で最も多い失敗は、自社のやり方をすぐに押し付けることです。
配合も工程も設備も、その工場なりの理由があって今の形になっています。それを理解する前に変えると、品質が落ち、人が辞めます。
最初の100日は、人と品質を固めることに集中してください。制度やシステムの統合は後です。PMIの進め方にまとめています。
譲受を承継の文脈で考える
買う側に回ることは、自社の承継とも関係します。
- 後継者に経験を積ませる:譲受と統合は、経営の実地訓練として大きな意味があります
- 会社の規模を上げる:将来自社を譲るときの評価にも影響します
- 人材の層を厚くする:属人化の解消につながることがあります
一方で、借入が増えれば個人保証の負担も増えます。承継を控えている場合、後継者に引き継ぐ負担がどうなるかを織り込んでください。個人保証を外すにはを参照してください。
探し方
売り手を探すのと同じルートが使えます。仲介会社、金融機関、事業承継・引継ぎ支援センター、プラットフォーム。「買いたい」と登録しておくと、案件が回ってくる形になります。
業界の再編がどう進んでいるかは食品業界の再編で扱っています。