いま起きていること
最低賃金は毎年見直され、上昇が続いています。食品工場では次の問題が生じます。
- 賃金の圧縮:新人の時給を上げると、勤続の長い人との差が縮まる
- 逆転:場合によっては新人のほうが高くなる
- 正社員との差の縮小:パートの時給換算が正社員に近づく
- 人件費の増加:転嫁できなければ利益を圧迫する
「最低賃金が上がったので、全員一律で◯円上げる」という対応を続けると、体系が崩れます。
見直しの手順
ステップ1:現状を可視化する
全従業員の時給(月給者は時給換算)を、次の軸でプロットしてください。
- 勤続年数
- できる工程の数(スキルマップ)
- 雇用形態
散布図にすると、逆転や圧縮が一目で分かります。「勤続10年で、新人と50円しか違わない」といった状態が見えます。
ステップ2:等級を設計する
食品工場では、できる工程の数を基準にするのが最も分かりやすく、納得も得られます。
| 等級 | 基準 | 時給の目安 |
|---|---|---|
| 1 | 1〜2工程ができる | 最低賃金+◯円 |
| 2 | 3〜4工程ができる | +◯円 |
| 3 | 5工程以上、または重要工程ができる | +◯円 |
| 4 | 人に教えられる、ラインを回せる | +◯円 |
| 5 | リーダー、シフト作成ができる | +◯円 |
等級間の差を明確にすることが重要です。差が小さいと、上を目指す動機になりません。
ステップ3:最低賃金の上昇を織り込む
等級1の下限を最低賃金に連動させ、上位等級も一定の差を保って上げる設計にします。
そうしないと、毎年下から圧縮されていきます。
ステップ4:手当を設計する
基本の時給とは別に、次のような手当が有効です。
- 多能工手当:できる工程数に応じて
- 指導手当:新人教育を担当している期間
- リーダー手当:ライン・班の責任者
- 資格手当:食品衛生責任者、フォークリフト、ボイラーなど
- 作業環境手当:冷凍庫内作業、早朝勤務
- 皆勤・出勤手当(設計には注意が必要)
作業環境手当は、正社員だけに支給していないか確認してください。同じ作業をしているなら、パートにも支給すべきと考えられます。パート・有期労働者の待遇差をどう説明するかをご覧ください。
割増賃金への影響
手当を新設・増額すると、割増賃金の算定基礎が変わります。
- 多くの手当は算定基礎に含めます
- 除外できるものは限定的です
設計の際に、割増賃金への影響を試算してください。割増賃金の計算をご覧ください。
固定残業代がある場合
固定残業代を除いた基本給が、最低賃金を上回っているかを毎年確認してください。
固定残業代は最低賃金の計算に含めません。改定のたびに確認が必要です。固定残業代の設計と落とし穴をご覧ください。
正社員とパートのバランス
パートの時給が上がると、正社員の月給を時給換算した額に近づきます。
この状態が続くと、正社員になる意味が薄れます。次の点で差を作ってください。
- 賞与
- 退職金
- 昇進の機会
- 責任の範囲
ただし、差の理由を説明できる必要があります。職務の内容や責任、配置の変更範囲が実際に違うことが前提です。
人件費の増加をどう吸収するか
- 価格に転嫁する(労務費の上昇も転嫁の対象になりえます)
- 生産性を上げる(同じ人数で多く作る)
- 省力化投資(人がかかる工程を機械化する)
- 不採算品目を見直す
1番目を忘れないでください。原材料と同じく、労務費の上昇も交渉の材料になります。価格交渉の環境整備と価格改定の交渉をご覧ください。
2番目と3番目はライン稼働率の見方と省力化投資の順序をご覧ください。
見直しの注意点
賃金を引き下げる変更は、労働条件の不利益変更にあたります。原則として本人の合意が必要で、就業規則の変更による場合は合理性が問われます。
手当の廃止・統合を含む見直しは、必ず社会保険労務士に相談してください。就業規則の見直しをご覧ください。
承継の観点
賃金体系が整理されていないと、後継者は昇給を判断できません。また、M&A後の労働条件の統合でも、体系が不明確だと議論が進みません。
承継の前に整えておくことが、後継者への支援になります。M&A後の労働条件をどう揃えるかをご覧ください。
※ 賃金制度の変更は労働条件の変更にあたります。特に不利益変更については厳格な要件があるため、必ず社会保険労務士等の専門家にご相談ください。