なぜ営業機能が必要か
- 取引先の依存度を下げるには、新規開拓が必要
- 価格改定の交渉には、専任の担当が要る
- 社長が抜けたときに、取引が続かない
- 後継者が対外の経験を積む場になる
- M&Aで「社長頼み」と評価されるのを避ける
最後の点は評価に直結します。社長個人の関係で成り立っている取引は、買い手から見て継続性が不透明です。買い手は食品工場の何を見ているかをご覧ください。
食品メーカーの営業に求められること
一般的な営業とは、求められる要素が異なります。
| 役割 | 内容 |
|---|---|
| 既存の維持 | 定期訪問、要望の吸い上げ、トラブル対応 |
| 価格交渉 | 原価の説明、改定の申し入れ |
| 提案 | 新商品の提案、規格変更の提案 |
| 新規開拓 | 展示会、商談会、飛び込み |
| 橋渡し | 取引先の要望を製造に伝える/製造の制約を取引先に伝える |
| 書類対応 | 規格書、見積書、監査対応の窓口 |
5番目が最も重要かつ難しい役割です。取引先の無理な要望をそのまま持ち帰ると現場が疲弊し、断ってばかりでは取引が細ります。
誰を営業にするか
選択肢1:製造出身者を営業に
食品メーカーでは、これが有力な選択です。
強み
- 製品と工程を理解している
- できること・できないことを即答できる
- 製造との橋渡しがしやすい
- 取引先の技術的な質問に答えられる
課題
- 数字(原価、採算)の知識
- 交渉の経験
- 対外的な立ち居振る舞い
課題は教育で補えます。逆に、製品を理解していない営業を育てるほうが時間がかかります。
選択肢2:外部から採用
同業や食品卸の経験者を採用する方法です。人脈と経験を持ち込めますが、自社の製品と工程を覚えるのに時間がかかります。
選択肢3:後継者が担う
後継者育成の一環として、対外の窓口を任せる方法です。取引先との関係を引き継ぐ機会にもなります。後継者を育てる順序をご覧ください。
育成の順序
段階1:社長に同行する
- 定期訪問に同行し、記録を取る
- 取引先ごとの経緯と関係性を把握する
- 要望と、それへの回答の仕方を見る
いきなり単独で行かせないでください。取引先は「担当が変わった」と受け取ります。
段階2:一部を任せる
- 納期・数量の調整
- 規格書の作成と提出
- クレーム発生時の一次対応
- 見積もりの作成(価格は社長が確認)
段階3:数字を任せる
- 取引先別の採算を把握させる
- 原価の構造を理解させる
- 価格改定の資料を作らせる
ここが分かれ目です。原価を理解していない営業は、値引きを持ち帰ってきます。品目別採算の作り方をご覧ください。
段階4:交渉を任せる
価格改定の交渉を、資料を持たせて任せます。最初は社長が同席し、徐々に単独へ。
価格改定の交渉をご覧ください。
段階5:新規開拓
既存を維持できるようになってから、新規に取り組みます。新しい販路の開き方をご覧ください。
営業を支える仕組み
個人の力量に頼らないための仕組みです。
- 会社案内・工場案内(設備、許可、認証、体制)
- 製品の規格書(すぐ出せる状態に)
- 価格表(ロット別、条件別)
- 取引先ごとの記録(経緯、要望、担当者、約束事)
- 採算の資料(この価格なら受けられる、という基準)
4番目が最も重要かつ抜けやすい項目です。社長の頭の中にしかないと、引き継げません。引き継ぎ資料の作り方をご覧ください。
受注の判断基準を作る
営業が自分で判断できるよう、基準を明文化してください。
- 限界利益率が◯%以上なら受注可
- 最低ロット◯個以上
- 納期は◯日以上
- それ以外は工場長・社長に確認
基準がないと、すべてを社長に確認することになります。それでは営業機能が育ちません。
兼務でも始められる
専任の営業を置く余裕がない場合、工場長や製造部長が兼務する形から始められます。
- 週1日を対外の日にする
- 月◯件の訪問を目標にする
- 展示会・商談会に出る
「誰も外に出ていない」状態を変えることが第一歩です。
承継の観点
営業機能が社長に集中していると、次の問題が生じます。
- 後継者が取引先を引き継げない
- M&Aで「社長が抜けたら取引が続くか不明」と評価される
- 先代の残留期間が長くなる
営業機能を組織に移すことは、承継準備そのものです。取引先との関係を切らさない引き継ぎと引き継ぎ期間はどれくらい必要かをご覧ください。