なぜ原価管理が土台なのか

  • 価格改定:根拠がなければ交渉できない
  • 品目の取捨選択:どれが儲かっているか分からなければ判断できない
  • 承継:後継者が値決めをできない
  • M&A:買い手が最初に求める資料
  • 金融機関:説明力が変わる

逆に言えば、原価管理を整えると、これらすべてが一度に改善します。だからこそ最優先の取り組みになります。

ステップ1:集めるデータは4つ

  1. 原材料の使用量と単価
  2. 生産数量(品目別・ロット別)
  3. 作業時間(工程別・品目別)
  4. 経費(電気、ガス、水道、包材、外注)

いきなり完璧を目指さないでください。まず主力品目の数点から始めます。詳しくは原価計算を始めるをご覧ください。

データを集めるときの現実的な目安

4つのデータを完璧に集めようとすると、たいてい着手した月で止まります。最初は主力10品目、精度は「おおよそ」で構いません

集めるデータどこから取れるか最初の精度の目安詰まりやすい点
原材料の使用量と単価配合表、仕入伝票、在庫の受払主力10品目の配合が分かれば十分配合表が更新されておらず、現場の作り方と違う
生産数量生産日報、出荷実績品目別・日別で足りるロット単位と日単位が混ざる
作業時間実測(1〜2週間)、日報工程別におおよその比率が出れば十分段取り替えと清掃の時間が計上されない
経費請求書、検針票、外注の支払月次の合計から始める工場と本社の按分が決まっていない

いちばん多い詰まり方は、右端の1行目です。配合表が数年前のまま更新されておらず、現場は違う作り方をしている。この状態で原価を出しても実態と合いません。原価計算の最初の成果は、配合表が現場と一致したことになることが少なくありません。

ステップ2:直接費を積み上げる

品目に直接ひもづく費用です。

  • 原材料費:配合表 × 単価。ここに歩留まりを織り込むのが要点です
  • 包装資材費:フィルム、トレー、ラベル、段ボール
  • 直接労務費:その品目の製造に要した時間 × 時間単価

歩留まりを見ないと、原価は必ず実態より低く出ます。歩留まりとロスの改善をご覧ください。

歩留まりを入れないと、原価は必ず低く出る

原材料費を「配合表 × 単価」だけで計算すると、実態より安く出ます。理由は単純で、仕込んだ量のすべてが製品になるわけではないからです。

食品工場で目減りが生じる場所は、おおむね決まっています。

  • 下処理での除去(皮、骨、筋、芯、端材)
  • 加熱による重量の減少
  • ラインに残る分、切り替え時に捨てる分
  • 計量のばらつきによる過剰充填
  • 規格外品、検品での撥ね

これらを織り込むには、投入量に対して製品になった比率を求め、その分だけ原材料費を割り戻します。投入量 ÷ 製品量で係数を出し、配合表の数量に掛ける形が実務的です。

この係数を入れると、原価は上がります。数字が悪くなるように見えますが、これまで見えていなかった損が金額になっただけです。むしろ、ここが見えると改善の対象が具体的になります。どの工程で何%落ちているかが分かれば、手を付ける順番も決まります。

過剰充填は特に見落とされます。規格を下回らないよう多めに入れる運用が続くと、全数にわたって少しずつ材料が余分に出ていきます。1個あたりでは小さくても、年間の生産数を掛けると金額になります。

原価が見えていない工場に起きていること

心当たりがあるかどうかで、着手の必要度が測れます。

  • 値上げを求められたとき、いくら上げれば元に戻るのかが即答できない
  • 新しい引き合いに対して、受けるかどうかを「感覚」で決めている
  • 売上は伸びているのに、資金が残らない
  • 「あの品目は儲かっていない気がする」と言えても、いくら赤字かは言えない
  • 後継者や工場長に値決めを任せられない
  • 金融機関への説明が、前年比の話だけで終わる

いずれも、原価が品目単位で出ていないことから来ています。どれかひとつでも当てはまるなら、着手する価値があります。逆に言えば、ひとつの取り組みで全部が改善するということでもあります。だから優先順位が高くなります。

ステップ3:加工費を配賦する

複数の品目に共通してかかる費用(設備の減価償却、電気、間接人件費、工場の家賃)を、何らかの基準で品目に割り振ります。

食品工場では、次のような基準が使われます。

  • 製造時間(ライン占有時間)
  • 生産数量
  • 直接労務費

基準の選び方で採算が変わります。段取り替えの多い品目は、時間基準にすると実態に近づきます。加工費の配賦をご覧ください。

ステップ4:品目別の採算表を作る

項目A商品B商品
売価100100
原材料費4538
包材費812
直接労務費1525
限界利益3225
加工費(配賦)2028
営業利益12−3

限界利益と営業利益を分けて見ることが重要です。営業利益が赤字でも限界利益が出ていれば、稼働を埋める役には立っています。品目別採算の作り方をご覧ください。

限界利益と営業利益の使い分け

採算表で最も誤解が起きるのが、この2つの読み分けです。判断の場面によって、見るべき数字が変わります。

  • 受注を受けるかどうか → 限界利益で判断します。空いている時間に入れる仕事なら、限界利益が出る限り、受けたほうが工場に残る金額は増えます。
  • 品目を続けるかどうか → 営業利益で判断します。ただし、その品目をやめたときに加工費が本当に減るのかを確認してください。設備も人も残るなら、加工費は他の品目に乗り移るだけです。
  • 値上げの優先順位 → 限界利益率の低い品目から当たります。売価に対して材料と包材の比率が高い品目は、原材料が動いたときの影響も大きくなります。
  • ラインの組み方 → 時間あたりの限界利益で見ます。同じ利益額でも、占有時間が短い品目のほうが工場全体では効率が良くなります。

「営業利益が赤字だからやめる」という判断が最も危ういところです。やめた瞬間に空いた時間を埋める品目があるかまで見てから決めてください。埋まらないなら、赤字品目をやめると工場全体の利益は減ります。

ステップ5:差異を分析する

あらかじめ決めた標準の原価と、実際にかかった原価を比べます。差が出た理由を、次に分解します。

  • 数量差異:使った量が想定より多い/少ない(歩留まり、ロス)
  • 価格差異:単価が想定と違う(原材料の値上がり)
  • 時間差異:作業時間が想定と違う(段取り、トラブル)

この分解ができると、打ち手が決まります標準原価と実際原価をご覧ください。

ステップ6:使う

価格改定に使う

原材料が何%上がり、原価が何円上がったか。品目単位で示せると、交渉が具体的になります原材料高騰と価格転嫁価格改定の交渉をご覧ください。

品目の見直しに使う

限界利益も出ていない品目は、値上げか撤退の対象です。ただし稼働への影響を見る必要があります。儲からない商品をやめるをご覧ください。

改善の優先順位に使う

どの工程で、どの品目で、いくら損しているか。金額の大きいところから手をつけるのが原則です。

設備投資の判断に使う

投資でどの費目がいくら減るかを試算できます。省人化投資の順序をご覧ください。

価格交渉で使うときの見せ方

原価が出せるようになると、価格改定の話し方が変わります。相手に見せるのは原価そのものではなく、変化の内訳です。

  1. 期間を区切る:前回の価格を決めた時点と、現在を比べます。
  2. 費目別に分ける:原材料、包材、労務、エネルギー。どれがいくら動いたかを分けます。
  3. 単位をそろえる:1個あたり、あるいは1ケースあたりで示します。総額だけでは相手が検算できません。
  4. 自社の努力を先に示す:歩留まりの改善、段取りの短縮、包材の見直しでいくら吸収したか。
  5. 残る分を求める:吸収しきれなかった額を、改定の根拠として示します。

④を飛ばすと、交渉は「値上げのお願い」になります。④があると「ここまでは自社で吸収した」という説明になり、相手の社内でも通しやすくなります。原価管理を整える価値は、この4番目を数字で言えるようになることにもあります。

始めるときの現実的な進め方

  1. 売上上位10品目に絞る
  2. 配合表と歩留まりから原材料費を出す
  3. 包材費を加える
  4. 製造時間を実測して労務費を出す
  5. 加工費は、まず生産時間で配賦する
  6. 3か月運用して、実態とのずれを直す

最初から全品目・完璧な精度を目指すと、必ず挫折します。10品目でも、見えるものは大きく変わります。

到達の目安(3か月・6か月・1年)

着手してから、どこまで進んでいれば順調と言えるのか。目安を置いておくと続きます。

  • 3か月:主力10品目の直接費(原材料・包材・直接労務)が出ている。配合表が現場と一致している。
  • 6か月:加工費の配賦基準が決まり、品目別の営業利益まで出ている。月次で更新されている。
  • 1年:標準と実際の差が見えている。価格改定と品目の見直しに、この数字を使った実績がある。

1年たって「表は作ったが使っていない」状態であれば、精度を上げるより使う場面を先に決めるほうが効きます。月次の会議で1品目ずつ取り上げる、値決めのときに必ず開く、といった形です。数字は、使われて初めて精度が上がっていきます。

システム化はいつか

表計算ソフトで仕組みを作り、何を集めれば原価が出るかが分かってからシステム化するのが順序です。仕組みが分からないままシステムを入れると、使いこなせません。

原価管理システムの選び方生産実績の自動収集をご覧ください。

よくある質問

Q. 多品種少量で品目数が多く、とても全部は出せません。 A. 全部は要りません。売上上位10品目、あるいは粗利の大きい順に10品目で始めてください。多くの工場では、上位品目で売上の大半を占めます。残りは「その他」としてまとめ、後から必要に応じて分ければ十分です。

Q. 加工費の配賦基準は、どれを選べばよいですか。 A. 段取り替えが多い工場なら製造時間(ライン占有時間)が実態に近づきます。手作業の比重が大きいなら直接労務費でも構いません。大切なのは、決めた基準を変えずに続けることです。基準を変えると前年と比べられなくなります。

Q. 作業時間の実測を、現場が嫌がります。 A. 評価のためではないと明示してください。期間を1〜2週間に区切り、工程を6〜7個に絞り、15分単位で丸めて構わないと伝えると負担感が下がります。結果を現場に返し、改善につながったことを示すと、次回の協力が得られます。

Q. 承継やM&Aの場面では、どこまで求められますか。 A. 品目別の採算が出せることが、まず問われます。買い手が知りたいのは「どの製品で稼いでいるのか」「その利益は続くのか」です。全社の売上と利益しか示せない場合、買い手は保守的な仮定で推定します。3年分の推移があれば、説明の材料として十分に強くなります

Q. 品目別の採算が赤字だと分かったら、すぐやめるべきですか。 A. 先に限界利益を見てください。限界利益が出ているなら、その品目は空き時間を埋める役に立っています。やめた後にその時間を埋める品目があるかどうかまで確認してから判断してください。埋まらないまま撤退すると、工場全体の利益は減ります。

Q. 歩留まりの係数は、どのくらいの頻度で見直せばよいですか。 A. 年に一度で足りますが、原材料の産地や規格を変えたとき、設備を入れ替えたとき、新しい品目を立ち上げたときは、その都度取り直してください。係数が実態とずれると、原価の水準そのものがずれます。

Q. 外注加工がある場合、どう扱いますか。 A. 外注費は直接費として品目に紐づけます。自社で作る場合との比較ができる形にしておくと、内製化や外注化の判断に使えます。運搬費が発生している場合は、そこも忘れずに含めてください。

Q. システムを入れれば解決しますか。 A. 順序が逆になると定着しません。表計算ソフトで仕組みを作り、何を集めれば原価が出るのかが分かってから導入してください。集めるデータが整っていない状態でシステムを入れても、入力されずに終わります。