領域1:株式と会社の機関
最初に確認されるのがここです。買い手は原則として100%の株式を求めるため、株主が確定していることが取引の前提になります。
- 株主名簿と法人税申告書の別表二が一致しているか
- 名義株の疑いがないか
- 株券発行会社かどうか、株券は存在するか
- 譲渡制限の承認手続きが取れる機関構成になっているか
- 役員の任期・登記が滞っていないか
- 過去の株主総会・取締役会の議事録が残っているか
ここでの指摘は、解消に最も時間がかかります。少数株主の整理には数か月から数年かかることもあります。分散した株式をまとめると名義株の整理を早い段階で確認してください。
領域2:営業許可と認証
食品製造業ならではの領域です。
- 営業許可の種類・範囲が、実際の製造品目と一致しているか
- 許可の有効期限と、更新の履歴
- 施設が基準に適合しているか(増改築後に届出をしているか)
- 食品衛生責任者が適正に選任・届出されているか
- FSSC22000等の認証の有効性と、更新審査の状況
- 行政からの指導・処分の履歴
よくある指摘は、実際に作っている品目が許可の範囲外というものです。品目を増やす過程で確認が漏れていた、という形で起こります。営業許可が要る業種はどれかで確認してください。
領域3:契約
- 主要取引先との基本契約書が存在するか
- チェンジオブコントロール条項の有無
- OEM契約の内容(最低数量、独占、解約条件)
- 原料の仕入契約と、価格改定の取り決め
- リース契約の残債と、名義変更の可否
- 賃貸借契約(工場・倉庫・社宅)
- フランチャイズやライセンスの契約
最も多い問題は、契約書がない、または古い契約書のまま実態が変わっていることです。長年の取引が口約束で続いているのは食品業界では珍しくありませんが、買い手から見ると不安材料です。契約書の棚卸しをご覧ください。
チェンジオブコントロール条項がある場合、同意取得がクロージングの条件になります。取引先の同意を参照してください。
領域4:不動産
- 工場・土地の所有者が誰か(会社か、個人か)
- 個人名義の場合、賃貸借契約が存在するか、賃料は適正か
- 担保権の設定状況
- 用途地域と、建物の適法性(検査済証の有無)
- 越境や境界の問題がないか
食品工場では、建物が増改築を重ねていて建築基準法上の確認が取れていないという例があります。将来の建て替えや増築に影響するため、必ず確認されます。工場の土地・建物の評価で扱っています。
領域5:知的財産と表示
- 商標が登録されているか、名義は会社か個人か
- 商品名・ブランド名が他社の権利を侵害していないか
- レシピ・製法がどう管理されているか
- パッケージデザインの著作権の帰属
- 食品表示が法令に適合しているか
商標が先代個人の名義のままになっているケースは実際によくあります。会社への移転が取引の条件になることがあります。商標・レシピ・パッケージの権利整理をご覧ください。
その他に確認されること
- 過去の回収(リコール)の履歴と、原因への対応
- 取引先とのクレーム・係争の状況
- 行政からの指導の履歴
- コンプライアンス体制(下請取引、独占禁止法まわり)
回収の履歴があること自体は、必ずしも減点ではありません。原因を特定し、再発防止を実施し、記録に残しているなら、むしろ体制の証明になります。回収が起きたときの初動を参照してください。
売り手が先にやること
上の5領域のうち、株式・不動産・商標の名義は解消に時間がかかります。M&Aを考え始めた段階で、この3つだけでも先に確認しておいてください。
※ 許認可・不動産・知的財産の取扱いは個別の事情によって異なります。実行にあたっては、弁護士・司法書士等の専門家および管轄行政庁に必ずご確認ください。