人が価格に効く理由
食品製造業では、設備があっても人がいなければ製造できません。特に次の役割は、代わりがすぐには見つかりません。
- 製造の中核を担う職人(配合・火入れ・状態判断)
- 品質管理の責任者
- 工場長・製造部長(現場の統括)
- 取引先との窓口を長年担ってきた営業
- 特殊な設備の運転・保守ができる人
この人たちが残る見込みがあるかどうかで、買い手の事業計画の確度が変わります。
買い手が確認すること
1. 誰がいないと困るか
買収監査では、「この人が辞めたら何が止まるか」が確認されます。特定の1人に集中していると分かれば、リスクとして見積もられます。
2. 年齢構成
技能を持つ人が全員60代であれば、数年以内に同時に抜けます。これは買い手にとって、更新投資と同じく将来の負担です。
3. 定着の状況
離職率、平均勤続年数、直近数年の退職者数。数字で見られます。離職が多い工場は、統合後にさらに人が抜けるリスクが高いと判断されます。
4. 採用ができているか
食品工場の採用は全国的に難しくなっています。継続して採用できている会社は、それ自体が評価されます。外国人材の受け入れ体制が整っていることも、同様に評価されます。食品工場の人材確保と定着をご覧ください。
属人化の解消が最も効く
人の評価を上げる打ち手として、最も効果的なのが属人化の解消です。
「その人しか作れない」を「2人以上作れる」に変える。これだけで、買い手のリスク認識は大きく変わります。
具体的には次の3つです。
- 配合・工程条件を文書化する(引き継ぎ資料の作り方)
- 判断基準を言語化・数値化する(職人の技をどう引き継ぐか)
- スキルマップを作り、多能工化を進める(多能工化とスキルマップ)
キーパーソンをどう扱うか
M&Aでは、買い手がキーパーソンの残留を条件にすることがあります。次のような形が取られます。
- 最終契約で、一定期間の在籍を前提とする
- 本人と個別に処遇の合意をする
- 残留の対価(リテンションボーナス等)を設定する
ただし、本人の意思を無視した取り決めはできません。従業員には職業選択の自由があります。
だからこそ、開示のタイミングと伝え方が決定的に重要になります。突然知らされた人ほど辞めます。従業員への説明はいつ・どう行うかを参照してください。
先代が抜けることの影響
経営者自身が製造の中核を担っている場合、これは最大のリスク要因です。「社長が抜けたら作れない」会社は、評価が大きく下がります。
対策は2つです。
- 社長がやっている仕事を洗い出し、渡す相手と時期を決める
- 譲渡後の一定期間、残ることを前提に条件を設計する
前者が本筋です。承継を見据えた経営計画の作り方で扱っている「社長の仕事の一覧」がそのまま使えます。
人の評価を示す資料
企業概要書や買収監査の場で示せると、印象が変わります。
- スキルマップ(誰が何をできるか、一覧で)
- 年齢構成のグラフ
- 平均勤続年数と離職率の推移
- 教育計画と、実施の記録
- 資格保有者の一覧(食品衛生責任者、ボイラー、フォークリフト等)
これらは作るのに数か月かかりますが、作れば確実に効きます。
人が残る会社の共通点
最終的には、日頃の経営の積み重ねです。承継やM&Aの場面で急に信頼を作ることはできません。人が残る会社と残らない会社の違いもあわせてご覧ください。