廃業は「やめるだけ」では終わらない

廃業を検討される方の多くは、「在庫を売り切って、従業員に事情を説明すれば終わる」とお考えです。しかし食品製造業の場合、実際にはその後に相当の費用と手続きが残ります。

食品工場の廃業で発生するもの

  1. 製造設備の撤去・処分費用 冷凍冷蔵設備、ボイラー、排水処理設備などは、専門業者による撤去が必要になることがあります。
  2. リース残債の一括精算 途中解約の扱いは契約によって異なり、残債の支払いを求められる場合があります。
  3. 工場・土地の原状回復 賃借の場合、床・排水・給排気を含めた原状回復が求められることがあります。土壌や排水設備の状況によっては追加の対応が生じます。
  4. 従業員の退職金と解雇にかかる手続き 長く勤めた従業員が多い工場ほど、負担は大きくなります。
  5. 営業許可の廃止手続き 保健所への届出が必要です。
  6. 取引先への供給停止に伴う調整 PB・OEMを受託している場合、代替生産先が見つかるまでの期間や、金型・パッケージ資材の扱いが問題になることがあります。

特に6は食品製造業に固有の論点です。取引先の商品供給を止めることになるため、契約上の責任が発生しないか、事前の確認が欠かせません。

M&Aと比べたときの違い

M&Aで第三者に承継できた場合、上の1〜6の多くは発生しません。設備は使われ続け、従業員は雇用が続き、許可は承継または再取得され、取引先への供給も継続されます。そのうえで、株式または事業の対価を受け取ることになります。

つまり比較すべきは「売却額がいくらか」だけではありません。廃業した場合に出ていく金額と、承継した場合に入ってくる金額の差を見る必要があります。この差は、想像よりずっと大きくなることがあります。

「うちは買い手がつかない」と決める前に

赤字が続いている、設備が古い、社長が高齢で属人化している——こうした理由から、買い手がつかないと考える方は少なくありません。しかし食品製造業では、次のような要素が単独で評価されることがあります。

  • 営業許可を受けた製造拠点そのもの(新設には時間と費用がかかる)
  • 立地(原料の産地に近い、物流の要衝にある、住居に近くない)
  • 取引先との継続的な関係、特に大手との取引実績
  • 特定の製法や設備でしか作れない商品
  • 働き続けられる従業員の存在

会社全体としては利益が出ていなくても、これらのどれかを必要としている買い手がいる場合があります。売却価格の決まり方もあわせてご覧ください。

判断の順序

おすすめしているのは、次の順序です。

  1. 廃業した場合の費用を、項目ごとに概算する
  2. 承継した場合の見通しを、専門家と一緒に立てる
  3. 2つを並べ、従業員・取引先・家族への影響も含めて判断する

1だけでも意味があります。数字にしてみると、「思っていたより畳むほうが高い」と気づかれることがよくあります。判断はそのあとで構いません。

※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。許認可の廃止手続きや税務の取扱いは、法令の改正や管轄行政庁の運用によって異なります。実行にあたっては、管轄の保健所・税務署等および専門家にご確認ください。