この記事の前提
補助金・助成金は、年度ごとに内容が変わります。制度名、対象経費、補助率、上限額、公募の時期——いずれも固定ではありません。
したがって、ここでは制度の探し方と、申請の実務で共通する注意点に絞って説明します。個別の制度については、必ず最新の公募要領を確認してください。
※ 補助金の名称・対象経費・要件・公募時期は年度によって変わります。本記事は一般的な進め方を整理したものですので、実際の申請にあたっては、必ず最新の公募要領をご確認ください。
制度名を挙げないのは、書いた時点の内容が翌年には変わっているからです。名前は同じでも、対象や条件が違うことがあります。
だから、探し方と注意点だけを持っておいてください。この部分は年度が変わっても大きくは変わりません。
どこで探すか
- 中小企業庁・ミラサポplus:制度の横断的な検索
- 国土交通省・地方運輸局:物流・運送業向けの支援
- 都道府県・市区町村:地域独自の制度
- 全日本トラック協会・都道府県トラック協会:業界向けの助成
- 商工会議所・商工会:小規模事業者向け
- 取引金融機関:情報を持っていることがあります
トラック協会の助成は見落とされがちです。会員向けに、機器の導入などへの助成が行われることがあります。
六つの探し先のうち、業界の団体が見落とされやすい部分です。会員に向けた案内で知らせていることが多く、外からは見えません。
だから、団体からの連絡には目を通しておいてください。関心のある分野を伝えておけば、情報が届くこともあります。
地域の制度も同じです。所在地の自治体に、こういう投資を考えているが使える制度があるかと聞くだけで教えてもらえます。
探すのは、投資の内容が決まってからで構いません。先に制度を探すと、それに合わせて内容が決まってしまいます。
ただし、時期の確認だけは早めにしてください。公募がいつ頃かがわかれば、導入の予定も組めます。
対象になりやすい投資
制度によって異なりますが、次のような投資が対象とされることがあります。
- 配車・運行管理システム(配車システムの選び方)
- デジタルタコグラフ(デジタコを労務管理にどう使うか)
- 動態管理システム(動態管理の活用)
- 倉庫管理システム(WMS導入の効果と落とし穴)
- 勤怠管理・給与計算システム
- 点呼システム
- 請求・会計システム(請求業務の電子化)
- 荷主とのデータ連携(荷主とのEDI連携)
「生産性向上」「省力化」「働き方改革」といった目的に合致する投資が、支援の対象になりやすい傾向があります。
八つの例のうち、自社に必要なのはどれかを先に決めてください。この判断がないまま制度を見ると、対象になるものを選んでしまいます。
決めるには、何に困っているかを書き出す作業が要ります。この作業に時間がかかっている、この記録が取れていない、この判断が一人に集中している。
書き出したうえで、どれから手をつけるかを決めます。困っている度合いが大きく、投資が小さいものから始めれば、効果も早く出ます。
目的に合致しやすいという点も、覚えておいてください。同じ投資でも、書き方によって政策の方向と結びつけられます。労働時間が減る、一人あたりの生産性が上がる、記録が正確になる。
ただし、実態と離れた書き方はしないでください。報告の段階で説明できなくなります。
申請の実務で共通する注意点
1. 交付決定前の発注は対象外
最も多い失敗です。多くの制度では、交付決定を受ける前に契約・発注・支払いをした経費は対象になりません。
「先に導入して、後から申請する」はできないと考えてください。設備投資の計画と、申請のスケジュールを必ず合わせてください。
2. 公募期間が短い
公募の期間は限られています。公募が始まってから準備を始めると間に合わないことがあります。情報を早めに掴み、事業計画を先に作っておいてください。事業計画書の書き方をご覧ください。
3. 自己負担がある
補助率は制度によりますが、全額が補助されることはまずありません。自己負担分と、補助金が入金されるまでの資金を用意する必要があります。つなぎ資金の準備をご覧ください。
4. 実績報告と証拠書類
導入後、実績報告が必要です。見積書・契約書・請求書・領収書・振込記録などの証拠書類を揃える必要があります。実績報告と証拠書類をご覧ください。
5. 処分制限
補助金で取得した資産には、一定期間の処分制限がかかることがあります。売却・廃棄・目的外使用に制限があり、M&Aの際にも影響する可能性があります。取得財産の処分制限をご覧ください。
五つのうち、二つ目が準備の要点です。公募の期間は短く、始まってから書き始めると間に合いません。
だから、計画を先に作っておいてください。制度に合わせる前の段階、つまり自社の課題とやりたい投資を整理した状態にしておけば、公募が出たときに合わせるだけで済みます。
三つ目の自己の負担については、全額が補助されることはまずありません。しかも、途中の期間は全額を立て替えることになります。
五つ目の制限については、承継を考えているなら特に注意が要ります。会社の形を変える判断に影響することがあります。
申請の流れ(一般的な形)
- 制度を探し、公募要領を確認する
- 事業計画を作る
- 見積りを取る(複数社が求められることがあります)
- 申請する
- 交付決定を受ける
- 発注・導入・支払い
- 実績報告
- 確定通知
- 補助金の受領
詳しくは補助金申請の流れをご覧ください。
九つの段階のうち、自社で時期を選べるのは前半だけです。後半は制度の日程に従うことになります。
だから、前半の準備を先に済ませておくと有利です。計画を作り、見積りを取っておけば、公募が始まったときにすぐ動けます。
五つ目より前に発注しないという点は、絶対に間違えないでください。ここだけは、後から取り返せません。
支援機関の活用
申請書の作成には手間がかかります。次の支援を検討してください。
- 認定経営革新等支援機関(税理士、金融機関など)
- 商工会議所・商工会
- よろず支援拠点
- システムのベンダー(申請支援を行っていることがあります)
ただし、成功報酬型の支援は費用の妥当性を確認してください。補助金額に対して報酬が過大になっていないかを見てください。
依頼する場合は、費用の水準を確かめてください。補助の額に対して報酬が大きいと、手元に残る額が小さくなります。
不採択の場合にどうなるかも、契約の前に聞いておいてください。着手のときに費用がかかる形なら、外れたときにその分だけが出ていきます。
無料または低額で相談できる場もあります。まずそこから始めて、必要なら依頼するという順序も取れます。
補助金ありきで決めない
最も重要な点です。
- 補助金が出るから導入するのは順序が逆です
- 自社に必要な投資かどうかを先に判断してください
- 補助金が採択されなくても導入する価値があるか
- 制度の要件に合わせて、不要な機能を追加していないか
使わない機能に自己負担分を払うことになれば、本末転倒です。補助金でよくある失敗をご覧ください。
この四点のうち、三つ目が判断の分かれ目になります。採択されなくても導入するかを自問して、答えが出ないなら必要性が固まっていません。
四つ目も、実際によく起こります。対象になる範囲に合わせて内容を膨らませると、自己の負担分も増えます。使わない機能に払うことになります。
だから、まず必要な範囲を決めてください。そのうえで、その範囲が対象になるかを確かめる。逆にすると、内容が制度に引きずられます。
導入した後に使われるかどうかも、この判断に関わります。必要性が固まっていない投資は、置かれたまま使われません。
この分野の投資で確かめること
仕組みを入れる投資では、設備を買う場合とは違う確認が要ります。
まず、今使っているものとつながるかです。つながらないと、同じ情報を二度入力することになり、効果が消えます。
次に、実際に使う人が使えるかです。画面の見やすさ、操作の手数、覚えることの多さ。選ぶ段階で触ってもらってください。
三つ目に、続けて発生する費用です。月々の利用料、保守の費用。数年分を合計すると、導入のときの費用より大きくなることがあります。
四つ目に、データを取り出せるかです。将来別のものに移るとき、それまでの記録が持ち出せるか。契約の段階で確かめておいてください。
五つ目に、契約の名義です。社長個人の名義で契約すると、承継のときに困ります。法人の名義にしておいてください。
導入した後に定着させる
この分野の投資では、入れただけで使われないという失敗が特に多くなります。設備と違い、使わなくても業務が回るためです。
定着させるには、前のやり方をやめることが要ります。中途半端に残すと、忙しいときに戻ります。
いつから完全に切り替えるかを決めて、周知してください。移行の期間を設け、その後は古い方法を受け付けない。
困っている人を放置しないことも大切です。操作がわからない人がいると、その人のところで流れが止まります。誰に聞けばよいかを明確にしてください。
効果が出たら、共有してください。この作業がこれだけ減ったという実感があると、続ける動機になります。
効果をどう測るか
報告が求められる場合、効果を示す必要があります。だから、測る仕組みを最初から作っておいてください。
測るのは、導入の前に決めた数字です。作業にかかる時間、処理する件数、誤りの発生。何を測るかを先に決めます。
導入の前の数字は、必ず記録しておいてください。後から比べる基準になります。導入してから測り始めると、変化がわかりません。
測る期間も決めてください。導入の直後は慣れていないため、かえって時間がかかります。数か月経ってから測るほうが、実態に近くなります。
測った結果は、次の投資の判断にも使えます。効果が出た分野なら、さらに進める価値があります。
使わない判断もある
ここまでの制約を見ると、制度を使わないほうが良い場面もあります。
急いで導入したい場合、公募の時期を待てません。承継の時期が近い場合、制限がかかると動けなくなります。金額が小さい場合、手間に見合いません。
こうした事情があるなら、自己の資金で導入するという選択があります。負担は増えますが、時期も自由で、制限もかかりません。
だから、投資を決めたら二つの道を比べてください。制度を使う場合の手間と時期と制限、使わない場合の負担。
今回合わなくても、次の年に合う制度が出るかもしれません。制度の内容は年度によって変わるため、その都度確かめることになります。
複数の仕組みを入れるとき
この分野の投資は、一つ入れると次が欲しくなります。記録が取れるようになると、それを使う仕組みが必要になるためです。
だから、順序を決めて進めることになります。一度にすべてを入れると、現場が混乱します。
順序を決める基準は、土台になるものから入れることです。記録を取る仕組みが先で、それを使う仕組みが後になります。
つながるかどうかも、順序に関わります。先に入れたものとつながらないものを後から入れると、二重の入力が生じます。
年ごとの計画にしておくと管理しやすくなります。今年はここまで、来年はこれ。制度の公募の時期も、この計画に織り込めます。
社内の担当をどう決めるか
仕組みを入れるには、社内で担う人が要ります。ベンダーとのやりとり、設定、社内への説明、運用の定着。
向くのは、現場と事務の両方がわかる人です。運行の実情を知っていて、数字も扱える。こういう人がいれば任せてください。
いなければ、二人で組む形もあります。現場を知る人と、書類を扱える人。それぞれの得意な部分を担います。
社長が兼任するのは避けたほうがよいでしょう。日々の経営で手一杯になり、作業が後回しになります。
担当には時間を与えてください。通常の業務に上乗せするだけでは進みません。何時間かをこの仕事に充てると決めて、他を調整する必要があります。
まとめ
制度の名称・要件・時期は年度で変わるため、最新の公募要領を必ず確認してください。最も多い失敗は、交付決定前に発注してしまうことです。公募期間は短いため、事業計画を先に作っておくこと。そして、補助金ありきで投資を決めないでください。