処分制限とは
補助金の交付を受けて取得した財産について、一定期間、補助の目的に反する使用・譲渡・貸付・担保設定・廃棄などが制限される仕組みです。
補助金は税金を原資としており、目的どおりに使われることが前提だからです。
この仕組みがあるために、補助を受けた設備は自由に扱えなくなります。だから、受ける前にこの点を理解しておく必要があります。
実務で問題になるのは、忘れた頃に処分の必要が生じたときです。設備が古くなった、事業の内容が変わった、会社の形を変えることになった。
そのときに制限がかかっていることを知らずに動くと、返還を求められる可能性があります。だから、記録して管理することが要ります。
制限の内容
制度によって異なりますが、おおむね次が制限されます。
- 目的外の使用
- 譲渡・交換
- 貸付け
- 担保に供すること
- 取り壊し・廃棄
これらを行う場合、事前に承認を得る必要があるのが通常です。承認なしに行うと、補助金の返還を求められる可能性があります。
対象になる財産
- 機械・装置
- 車両(対象となる制度の場合)
- 建物・構築物
- ソフトウェア
一定金額以上の財産が対象とされることが一般的です。金額の基準と期間は制度によって異なるため、交付決定時の書類を確認してください。
※ 補助金の名称・対象経費・要件・公募時期は年度によって変わります。本記事は一般的な進め方を整理したものですので、実際の申請にあたっては、必ず最新の公募要領をご確認ください。
金額の基準があるため、すべての設備が対象になるとは限りません。小さな備品は外れることがあります。
だから、何が対象かは交付の決定のときに確かめてください。対象になったものだけを台帳に記録すれば、管理も軽くなります。
期間はどれくらいか
財産の種類(耐用年数)に応じて定められるのが一般的です。数年から十数年に及ぶこともあります。
「もう終わったと思っていた」が最も危険です。交付決定通知や財産管理台帳で、期間を確認してください。
期間が長くなり得ることが、この制限の扱いを難しくしています。導入したときには先の話でも、数年経てば事情が変わります。
だから、記録しておくことが要ります。記憶に頼ると、終わったと思い込んで動いてしまいます。
台帳に期間を書き、暦にも入れておいてください。終わる時期がわかっていれば、その後の計画も立てられます。
承継・M&Aへの影響
株式譲渡の場合
会社そのものは変わらないため、財産の所有者も変わりません。処分制限に直ちに抵触するわけではないのが通常です。
ただし、制度によっては届出や報告が必要な場合があります。また、株主が変わったことで補助の要件(中小企業であること、など)を満たさなくなる可能性もあります。事前に補助金の交付元に確認してください。
事業譲渡・会社分割・合併の場合
財産が別の法人に移るため、処分にあたる可能性があります。承認の手続きが必要になるか、場合によっては返還が生じることもあります。
手法を決める前に確認が必要な事項です。株式譲渡と事業譲渡の違い、会社分割を使う場合の論点をご覧ください。
設備の売却・廃棄
承継前の整理として設備を処分する場合、制限期間内なら承認が必要です。事業に関係のない資産の整理を進める際も、補助金で取得した資産がないか確認してください。
三つの場面のうち、二つ目が最も影響を受けます。財産が別の法人に移るため、処分にあたる可能性があります。
だから、手法を決める前に確認してください。決めてから判明すると、組み直すことになります。
一つ目の場合でも、確認は必要です。会社そのものは変わらなくても、届出が求められることがあります。株主が変わったことで、要件を満たさなくなる可能性もあります。
確認する相手は、補助を受けた交付元です。制度によって扱いが違うため、一般的な説明では自社の場合がわかりません。
三つ目については、承継の準備として設備を整理する場面で問題になります。使っていない設備を処分しようとしたら、制限がかかっていた。この事態を防ぐには、台帳を見る習慣が要ります。
M&Aで確認されること
法務・財務デューデリジェンスで、次が確認されます。
- 過去に受けた補助金の一覧
- 取得した財産と、処分制限の期間
- 報告義務が残っていないか
- 要件を満たし続けているか
- 返還のリスクがないか
返還の可能性は、簿外債務として扱われます。 隠して進めると表明保証違反になります。表明保証とは何か、法務デューデリジェンスと契約書の棚卸しをご覧ください。
五つのうち、四つ目が見落とされやすい部分です。制度によっては、受けた後も一定の条件を満たし続けることが求められます。
満たせなくなっていた場合、返還の可能性が生じます。だから、条件があるなら、その状況も把握しておく必要があります。
返還の可能性が表に出ていない負担として扱われるのは、金額が読めないからです。だから、可能性があるなら金額の見当もつけておいてください。
財産管理台帳を作る
補助金を受けたら、次を記録してください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | どの補助金か |
| 交付元 | 国、都道府県、団体 |
| 取得財産 | 名称、型番、数量 |
| 取得価額 | 金額 |
| 補助金額 | いくら補助を受けたか |
| 取得年月日 | |
| 処分制限期間 | いつまでか |
| 設置場所 | どこにあるか |
| 報告義務 | いつまで、何を報告するか |
この台帳がないと、承継の際に一から調べることになります。
この台帳は、補助を受けた時点で作ってください。後から作ろうとすると、資料を探すところから始まります。
九つの項目のうち、制限の期間と報告の義務が管理の中心になります。この二つを暦に入れておけば、忘れることがありません。
設置の場所も、記録しておく意味があります。実地の確認があったときに、どこにあるかがすぐわかります。移動した場合は、記録も更新してください。
台帳の保管場所は、担当が代わっても引き継がれる場所にしてください。個人の手元にあると、その人が辞めたときに失われます。
複数の補助を受けているなら、一つの台帳にまとめてください。制度ごとに散らばっていると、全体が把握できません。
制限期間内に処分が必要になったら
- 交付元に相談する:勝手に処分しない
- 承認の手続きを確認する
- 返還が必要かを確認する:残存価値に応じた返還が生じることがあります
- 手続きを経てから処分する
災害・故障などやむを得ない事情がある場合も、まず相談してください。
この四つの手順で大事なのは、一つ目です。処分してから相談するのでは、取り返せません。
相談するときは、なぜ処分が必要かを具体的に伝えてください。故障して使えない、事業の内容が変わった、能力が足りなくなった。事情によって扱いが変わることがあります。
補助金を使う前に考えておく
承継やM&Aを数年内に検討している場合、補助金を使うかどうかも判断材料になります。
- 処分制限の期間が、想定するスケジュールと重ならないか
- M&Aの手法に制約が生じないか
- 報告義務が引き継がれるか
補助金を使わない、という判断もあり得ます。 自己資金やリースで導入すれば、制限はかかりません。補助金でよくある失敗をご覧ください。
この判断は、投資を決める段階でしてください。導入した後では、選び直せません。
並べ方は簡単です。今年から数年分の予定を書き、そこに制限のかかる期間を重ねる。承継を考えている時期と重なっていないかを見ます。
重なっているなら、制度を使わない選択があります。自己の資金やリースで導入すれば、この制限はかかりません。
あるいは、投資の時期をずらすという方法もあります。制限の期間が過ぎてから承継に動けるよう、時期を調整する。
どちらにしても、この確認を飛ばさないでください。数年内に会社の形を変える可能性があるなら、必ず見ておく必要があります。
制限がかかっているかをどう調べるか
過去に補助を受けたことがあるが、内容を把握していない。この状態の会社は珍しくありません。
調べるには、まず経理の記録を見てください。補助として受け取った資金があれば、記録に残っています。
次に、その時期の書類を探します。交付の決定通知、実績の報告、確定の通知。これらに制限の内容が書かれていることがあります。
書類が見つからない場合は、交付元に問い合わせてください。記録が残っているはずです。
当時の担当者が残っているなら、話を聞いてください。どういう経緯で受けたのか、何を導入したのか。記憶が残っているうちに確かめる価値があります。
調べた結果は、台帳にまとめてください。一度作れば、以後は管理するだけです。
設備を入れ替えたくなったとき
制限の期間中に、設備を入れ替えたくなることがあります。古くなった、能力が足りなくなった、事業の内容が変わった。
この場合、まず交付元に相談してください。勝手に処分すると、返還を求められる可能性があります。
相談すると、承認の手続きが示されることがあります。手続きを経れば処分できる場合もあります。
ただし、残っている価値に応じた返還が生じることもあります。だから、入れ替えの費用に加えて、この負担も見込む必要があります。
故障や災害でやむを得ない場合も、まず相談してください。事情があれば扱いが変わることもありますが、事後の報告では認められないことがあります。
買い手から見るとどう見えるか
会社を譲る場面では、この点が確認されます。過去に受けた補助、取得した財産、残っている制限と義務。
把握していれば、その場で答えられます。把握していないと、調べる時間がかかり、管理ができていない会社と見られます。
返還の可能性がある場合、それは表に出ていない負担として扱われます。金額が大きければ、条件にも影響します。
だから、隠さずに伝えてください。後から判明すると、話が壊れることがあります。
逆に、台帳が整っていて、制限の期間も報告の状況も説明できるなら、それ自体が管理の水準を示します。
制度を使うかどうかの判断材料として
ここまで見てくると、この制限が会社の身動きを制約することがわかります。だから、使うかどうかの判断にこの点を含めてください。
判断の材料は三つです。補助として受け取れる額、手続きにかかる手間、そして制限による制約。
額が大きく、手間が小さく、制約が問題にならないなら、使う価値があります。逆に、額が小さいのに制約が長くかかるなら、割に合わないこともあります。
特に、数年内に会社の形を変える可能性があるなら、慎重に考えてください。選択肢を狭めてまで受ける額かどうかという見方になります。
制度の内容は年度によって変わり、制限の扱いも制度ごとに違います。判断するその時点で、要領を確認するか交付元に問い合わせてください。
台帳を実際に使う場面
作った台帳は、しまっておくものではありません。使う場面が決まっています。
一つ目は、設備を処分するときです。対象になっていないかを、処分の前に必ず確かめます。
二つ目は、会社の形を変えるときです。手法を検討する段階で、制限のかかっている財産があるかを見ます。
三つ目は、新しく補助を受けるときです。同じ経費に複数の補助を受けられないのが原則なので、重複していないかを確かめます。
四つ目は、報告の時期が来たときです。何をいつまでに報告するかが書いてあれば、忘れません。
この四つの場面で確認する習慣をつけておけば、大きな失敗は防げます。
担当が代わるときに何を渡すか
この管理は長期にわたるため、担当が代わることを前提にしておく必要があります。
渡すのは、台帳と関係する書類、そして残っている手続きの一覧です。この三つがあれば、引き継げます。
口頭だけの引き継ぎは避けてください。制度の内容や制限の期間は、記憶に頼れる情報ではありません。
社長も内容を把握しておいてください。担当が急に辞めることもあります。誰か一人しか知らない状態は、この分野では危険です。
顧問の税理士にも共有しておくと安心です。会計の処理にも関わる部分なので、状況を知っておいてもらう意味があります。
まとめ
補助金で取得した財産には、一定期間の処分制限がかかります。株式譲渡なら直ちに抵触しないのが通常ですが、事業譲渡・分割・合併では影響する可能性があります。財産管理台帳を作り、期間を把握してください。承継を数年内に予定しているなら、補助金を使うかどうか自体も判断材料になります。