まず現状の手間を書き出す
請求業務の流れを、工程ごとに時間を測ってください。
- 運行実績の集計(日報・伝票から)
- 料金の計算(運賃、待機料、高速代、附帯作業)
- 請求書の作成
- 荷主ごとの様式への転記
- 印刷、封入、郵送
- 入金の確認と消込
- 差異の照会と対応
どこに一番時間がかかっているかが分かれば、優先して手を打てます。事務・バックオフィスの体制をご覧ください。
時間を測るときは、感覚で答えないでください。実際にその作業をしている人に、一件あたり何分かかっているかを記録してもらう。数日分でも記録があれば、月あたりの時間が出せます。
測ってみると、思っていた工程と違うところに時間がかかっていることがあります。請求書を作る作業より、実績を集める作業のほうが長い。あるいは、差異の問い合わせに対応する時間が積み上がっている。原因が違えば、打つ手も違います。
この作業には、もう一つの効果があります。工程を書き出す過程で、誰がどこを担当しているかがはっきりします。一人に集中していれば、それ自体が課題です。
電子化の三つの段階
段階1:請求書の作成を自動化する
運行実績のデータから、請求データを自動で作ります。TMSや配車システムと連動させると、転記がなくなります。TMS導入の効果と落とし穴をご覧ください。
効果が大きいのは次の点です。
- 転記ミスがなくなる
- 請求漏れがなくなる:待機料・附帯作業料の計上漏れは実際によくあります
- 作成時間が大幅に減る
段階2:送付を電子化する
- PDFをメールで送る
- 請求書発行システムを使う
- 荷主のシステムに直接データを送る(荷主とのEDI連携)
印刷・封入・郵送の手間と費用がなくなります。荷主の同意が必要なので、事前に確認してください。
段階3:入金消込を自動化する
入金データと請求データを自動で照合します。件数が多い会社では効果が大きくなります。
入金の遅れや差異にすぐ気づけることも重要な効果です。
三つの段階のうち、効果がいちばん大きいのは段階1です。転記がなくなるだけでなく、請求の漏れが減ります。待機の料金や附帯の作業料は、記録があっても請求に反映されないことがあります。
段階2は、荷主の同意が前提になります。だから、こちらの都合だけでは進みません。相手にとっても手間が減る話なので、相談してみる価値はあります。
段階3は、件数が多い会社ほど効きます。件数が少なければ、目で確認したほうが速いこともあります。自社の件数を見て判断してください。
順番としては、段階1から始めるのが自然です。ここが整わないうちに送付だけを電子にしても、元の作業は残ります。
どの段階から手をつけるにしても、荷主の締めの日と自社の作業の流れを合わせておく必要があります。締めの日が荷主ごとに違うと、月末に作業が集中します。
電子取引への対応
電子でやりとりした取引情報の保存について、法令で要件が定められています。要件は改正されることがあるため、最新の内容を税理士または国税庁の情報で確認してください。
実務上のポイントは次のとおりです。
- メールで受け取った請求書・領収書も対象になり得る
- 検索できる形での保存
- 改ざん防止の措置
対応した会計ソフト・システムを使うのが、最も確実です。
※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。税務の取扱いは、法令の改正や個別の事情によって異なります。実際の判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご確認ください。
荷主ごとの様式への対応
運送業でよくある負担が、荷主ごとに指定の様式があることです。
- 荷主指定のフォーマットに転記する
- 荷主のWebシステムに入力する
- 独自の集計方法に合わせる
この作業は自動化しにくい部分です。次を検討してください。
- データ連携に切り替えられないか荷主に相談する
- 件数の多い荷主から優先的に対応する
- 自社システムから出力できる形式を確認する
この負担は、荷主の数が増えるほど積み上がります。しかも、それぞれのやり方を覚えている人が限られると、その人が休んだ月に請求が出せなくなります。
だから、まず一覧を作ってください。荷主名、請求の方法、締めの日、送付の期限、担当者。作ってみると、同じような作業を別々にやっていることが見えます。
一覧ができたら、件数の多い順に並べます。上位の数社で全体の大半を占めていることが多いので、そこから対応すれば効果が早く出ます。
荷主に相談するときは、こちらの都合だけを言わないほうが進みます。データでやりとりできれば、相手の側でも入力の手間が減ります。双方に利点があることを示せば、検討してもらえます。
それでも変えられない荷主は残ります。その場合は、手順を文書にして誰でもできるようにしておくことが、現実的な対応になります。
導入の進め方
- 現状の工程と時間を測る
- 荷主ごとの請求方法を一覧にする
- 件数の多い荷主から対応する
- 1〜2社で試す:並行運用の期間を設ける
- 問題がなければ広げる
いきなり全荷主を切り替えないでください。 請求が止まると資金繰りに直結します。
四つ目の並行運用では、両方の結果を突き合わせてください。金額が一致するか、抜けている項目がないか。一致しない場合は、設定か元のデータのどちらかに原因があります。
期間としては、少なくとも二か月は続けてください。一か月だけだと、その月にたまたま起きなかった例外が拾えません。締めの処理が二回通れば、おおよその問題は出ます。
その間に、手順の文書も作っておいてください。誰が、いつ、何をするか。これがあれば、担当が代わっても続けられます。
注意点
1. 請求漏れの確認
自動化しても、元のデータが入っていなければ請求されません。待機料・附帯作業料が現場で記録されているかを確認してください。待機料・附帯作業料の収受をご覧ください。
2. 料金体系の整理
システム化の前提として、料金のルールが明確である必要があります。「あの荷主だけ特別」が多いと、システム化が難しくなります。この機会に料金体系を整理してください。荷主との契約書を整えるをご覧ください。
3. 属人化の解消につながる
請求業務が特定の人しかできない状態は、会社の急所です。システム化は、その解消にもなります。
一つ目の請求漏れは、この分野で最も金額に効く部分です。自動で計算できても、元の記録がなければ請求されません。だから、現場で何が記録されているかを先に確認してください。
待機の時間、附帯の作業、高速道路の利用。これらが日報や機器の記録に残っているか。残っていなければ、まずそこを直す必要があります。仕組みを入れる前の作業です。
二つ目の料金体系の整理も、避けて通れません。荷主ごとに例外が多いと、そのすべてを設定に落とし込むことになります。この機会に、なぜその条件になっているかを確認し、整理できる部分は整理してください。
整理の過程で、採算に合わない条件が見つかることもあります。それは、条件を見直す機会でもあります。
補助制度
システム導入について支援制度が用意されることがあります。年度によって内容が変わるため、最新の情報を確認してください。IT導入関連の支援をご覧ください。
M&Aでの意味
- 請求業務が仕組みで回っている(属人的でない)
- 請求漏れがない
- 荷主別の売上がすぐ出せる
- 入金管理ができている(売掛の回収状況)
デューデリジェンスでは、荷主別売上の3期分が必ず求められます。システム化されていれば、すぐ出せます。直近3期の数字をどう見せるか、財務デューデリジェンスで指摘されやすい点をご覧ください。
四項目のうち、四つ目の入金の管理は見落とされやすい部分です。売掛がどれだけ残り、どれだけ滞っているか。この数字は必ず確認されます。
滞っている先があるなら、その理由も説明できるようにしておいてください。相手の資金繰りの問題なのか、こちらの請求に不備があったのか。理由がわかっていれば、対応してきた会社と見られます。
荷主別の売上が数年分すぐ出せることも、確認の速さに直結します。集計に時間がかかると、それだけで管理の水準を疑われます。
締めから入金までの流れを短くする
請求業務の電子化は、手間を減らすだけでなく、資金繰りにも効きます。締めてから請求書を出すまでの日数が短くなれば、入金も早くなるからです。
今の日数を測ってみてください。締め日から請求書を送るまで何日か。手作業が多いと、一週間以上かかっていることがあります。この日数が縮めば、その分だけ資金の巡りが良くなります。
縮めるには、実績が締め日の時点で揃っている必要があります。日報の提出が遅れる、伝票が現場に残っている。こうした事情があると、集計が始まりません。だから、日々の記録の流れも合わせて見直すことになります。
入金の確認も早くできると、遅れに早く気づけます。支払いが遅れる荷主は、たいてい兆しがあります。早く気づけば、対応の時間も取れます。
誰が請求業務を担うか
この業務は、社長の配偶者や長く勤めている事務の人が一人で担っていることがよくあります。長年やってきたぶん速く正確ですが、その人しかできない状態でもあります。
この状態は、会社にとって弱点です。急に休むことになれば、請求が止まります。請求が止まれば、入金も止まります。
だから、仕組みにすることに意味があります。手順が決まっていて、システムが計算するなら、他の人でも回せます。属人化の解消は、この分野でも重要な目的です。
進めるときは、今担当している人の協力が要ります。その人のやり方を否定するのではなく、頭のなかにあるものを形にする作業だと伝えてください。長年の工夫が、そのまま仕組みになります。
保存の要件をどう満たすか
電子でやりとりした取引の情報については、保存の仕方に要件が定められています。紙で受け取ったものと同じ扱いにはなりません。
実務として気をつけたいのは、メールで受け取った請求書や領収書も対象になり得るという点です。印刷して保管しているつもりでも、要件を満たしていないことがあります。
確実なのは、要件に対応した仕組みを使うことです。会計のソフトや、専用のサービスが対応していれば、保存の形式や検索の要件を満たせます。
ただし、要件の内容は改正されることがあります。自社の対応が今の要件に合っているかは、税理士に確認してください。判断に迷う部分は、自己流で進めないほうが安全です。
段階を追って進める
この分野は、一度に全部を変えようとすると失敗します。請求が止まれば、資金繰りに直結するためです。
だから、まず一社か二社で試してください。件数がある程度あり、協力的な荷主が向いています。並行して従来の方法も続け、結果が一致することを確認します。
確認できたら、次の荷主に広げます。この繰り返しで、少しずつ移していく。一年かけて全社を移すくらいの計画で構いません。
導入について支援の制度が用意されることもあります。名称も要件も年度によって変わるため、その時点の内容を確認してください。
差異が出たときの対応を決める
請求の金額をめぐって荷主と食い違うことは、どの会社でも起こります。大事なのは、起きたときの流れが決まっているかです。
決めておきたいのは三点です。誰が問い合わせを受けるか、根拠となる記録をどこから出すか、いつまでに回答するか。これが決まっていないと、その都度の対応になり、時間がかかります。
根拠になる記録は、運行の実績と現場の記録です。待機の時間で食い違うなら、機器の記録が材料になります。附帯の作業なら、日報や受領の記録が根拠になります。すぐ出せる状態にしておいてください。
差異が繰り返し起きる荷主があるなら、原因は請求のやり方ではなく条件の取り決めにあるかもしれません。何が対象で何が対象外かがあいまいだと、毎月同じ議論になります。契約の内容を確認する機会にしてください。
まとめ
まず現状の工程と時間を測ってください。実績データから請求書を自動作成できると、転記の手間と請求漏れがなくなります。荷主ごとの指定様式が最大の障害なので、件数の多い先から対応してください。並行運用の期間を必ず設けること。