制度の前提

事業承継・M&A関連の支援制度も、年度ごとに内容・要件・予算が変わります。 本記事では制度名や補助率は挙げません。実際の利用は、公募時点の公式情報と、後述の公的相談窓口でご確認ください。

この分野の制度は、特に内容が動きます。だから、以前に聞いた話をそのまま前提にしないでください。

確かめる相手としては、公的な相談の窓口が確実です。その時点でどういう支援があるかを、まとめて教えてもらえます。

支援の対象になりやすい費用

1. 専門家への費用

  • M&Aの仲介・アドバイザリー費用
  • デューデリジェンス費用(財務・法務・労務)
  • 企業価値評価の費用
  • 司法書士・弁護士・税理士への費用

M&Aは専門家費用が大きな負担になります。特に小規模な会社ほど、費用対効果が問題になりやすい領域です。M&A仲介手数料の仕組みをご覧ください。

2. 承継後の投資

  • 設備の更新
  • 新しい事業への挑戦
  • システムの導入
  • 店舗・拠点の整備

「引き継いだ後に、何をするか」への支援という位置づけです。後継者が新しい取り組みをする際に検討されます。

3. 廃業に伴う費用

事業の一部を譲渡し、残りを廃業する場合など、廃業に伴う費用が支援の対象になることがあります。廃業 完全ガイドをご覧ください。

一つ目の専門家への費用が対象になりやすいのは、この負担が承継の障害になっているからです。規模の小さい会社ほど、費用の割合が重くなります。

だから、承継を検討する段階で、かかる費用を見積もっておいてください。仲介や助言の費用、調査の費用、評価の費用、手続きの費用。

見積もった額に対して、支援が使えるかを確かめます。使えなければ、その額を自社で負担することになります。

二つ目については、継いだ後に何をするかが問われます。ただ引き継ぐだけでなく、新しい取り組みを始める場合に検討の対象になります。

三つ目の廃業に伴う費用も、対象になることがあります。事業の一部を譲り、残りを畳むという形もあり得ます。

いずれの場合も、対象になるかは制度によって違います。同じ費用でも、制度が変われば扱いも変わります。

公的な相談窓口

補助金より先に知っておくべきなのが、公的な相談窓口です。

  • 事業承継・引継ぎ支援センター:各都道府県に設置されている公的機関です。承継全般の相談、後継者不在企業と譲受希望者のマッチングなどを行っています
  • よろず支援拠点:経営全般の相談
  • 商工会議所・商工会
  • 金融機関

公的窓口は、相談自体は無料であることが一般的です。 「まず誰に相談すればいいか分からない」段階では、ここから始めるのが安全です。

民間の仲介会社に最初に相談すると、その会社の枠組みでしか話が進みません。公的窓口で全体像を掴んでから、必要に応じて民間を使う。この順序をおすすめします。アドバイザーの選び方をご覧ください。

公的な窓口から始めるという順序は、実務でも意味があります。中立の立場から全体像を教えてもらえます。

民間の仲介に最初に相談すると、その会社の枠組みで話が進みます。他の選択肢があっても、そちらは示されないことがあります。

だから、まず公的な窓口で全体を掴んでください。どういう道があり、それぞれに何が要るのか。そのうえで、必要に応じて民間を使う。

相談したからといって、進めなければならないわけではありません。話を聞いて、しばらく考えてもよいのです。

相談の内容は外に漏れません。この点も、公的な窓口を使う理由になります。

窓口によって扱う範囲が違います。承継の全般を扱う窓口、経営の相談を広く受ける窓口、地域の事情に詳しい窓口。複数に当たってみる価値があります。

税制上の枠組み

補助金とは別に、承継に関わる税制上の措置があります。

  • 自社株の承継に伴う税負担に関する措置
  • 設備投資に関する税制
  • 再編・統合に関する税制

これらは要件が細かく、適用後も継続的な条件を満たす必要があるものがあります。特に自社株に関する措置は、その後の株式譲渡(M&A)を考えている場合、選択が制約になることがあります

適用の可否と、その後の選択肢への影響は、必ず税理士にご相談ください。 事業承継税制の使いどころと注意点をご覧ください。

補助として受け取る仕組みと、税の負担を軽くする仕組みは別のものです。両方を検討する価値がありますが、性質が違います。

前者は申請して採択されれば受け取れますが、後者は要件を満たし続ける必要があるものがあります。だから、後者のほうが長期の制約になりやすくなります。

申請の実務上の注意

タイミング

多くの制度は、交付決定前に契約・支出したものは対象外です。M&Aの場合、アドバイザーとの契約時期が問題になります。

専門家に依頼する前に、支援制度の有無とスケジュールを確認してください。

成立が前提の場合がある

M&A関連の支援では、実際に取引が成立したことが要件となる場合があります。話がまとまらなかった場合の費用は自己負担になりうる、という点は理解しておいてください。

後払い

補助金は原則として後払いです。専門家費用は先に支払う必要があります。 資金の手当てを確認してください。つなぎ資金の準備をご覧ください。

運送業特有の確認事項

承継の手法によって許認可の扱いが変わります。補助金の申請内容と、実際に選ぶ手法が整合しているか確認してください。許認可の引き継ぎ株式譲渡と事業譲渡の違いをご覧ください。

四つの注意のうち、最初の時期の問題が最も影響します。専門家に依頼してから制度を探すのでは、遅いことがあります。

だから、依頼する前に確かめてください。使える制度があるか、あるなら契約の時期をどうすべきか。

二つ目については、話がまとまらなかった場合を考えておく必要があります。成立が条件なら、まとまらなければ費用は自社の負担です。

四つ目の許認可の扱いは、この業種に固有の論点です。手法によって扱いが変わるため、申請の内容と実際の手法が合っているかを確かめてください。

手法を途中で変える可能性もあります。その場合に申請の内容がどうなるかも、事前に確認しておく価値があります。

これらの注意は、いずれも事前の確認で防げるものです。動き出す前に一度、制度の有無と条件を確かめる時間を取ってください。

支援ありきで進めない

ここでも順序が大切です。

「補助金が出るからM&Aをする」ということはありません。 承継の方針は、会社と家族と社員にとって何が最善かで決めるものです。

正しい順序は次のとおりです。

  1. 承継の方針を決める(親族・社内・第三者・廃業)
  2. 進め方と必要な費用を把握する
  3. そのうえで、使える支援があるか確認する

運送会社の事業承継スケジュールをご覧ください。

この三つの順序を守れるかどうかが、この分野では特に重要です。承継は会社と家族と従業員に関わる判断です。

制度があるからその道を選ぶ、という判断はあり得ません。逆に、制度がないから諦めるという判断も、順序が違います。

方針を決めてから費用を把握し、そのうえで使えるものがあれば使う。この順序なら、制度に振り回されずに済みます。

費用を把握する作業は、方針を決める材料にもなります。それぞれの道にいくらかかるかがわかれば、判断もしやすくなります。

費用の全体像をどう掴むか

承継にかかる費用は、事前に見積もっておく価値があります。金額がわかれば、支援を探す必要があるかも判断できます。

見積もる項目は、相談と助言の費用、調査の費用、評価の費用、手続きの費用、そして税の負担です。

相談の段階では無料のこともありますが、実際に進めるとなると費用が発生します。どの段階でいくらかかるかを、依頼する前に確認してください。

調査の費用は、規模と範囲によって変わります。何をどこまで調べるかで大きく違うため、必要な範囲を絞ることも検討の対象です。

税の負担は、手法によって変わります。税理士に試算してもらえば、手元に残る額の見当がつきます。

これらを合計して、その道を選ぶ費用が見えます。他の道と比べる材料にもなります。

相談する順序を決める

誰にいつ相談するかを決めておくと、進めやすくなります。順序を誤ると、情報が広がったり、選択肢が狭まったりします。

最初は、公的な窓口か、顧問の税理士でしょう。どちらも中立の立場で、会社の事情も知っています。

次に、方針が固まってきたら、その道に詳しい相手に相談します。譲るなら仲介や助言の専門家、親族に継ぐなら税理士と弁護士。

金融機関には、方針が固まった段階で伝えることになります。保証の扱いや借入の引き継ぎに関わるためです。

従業員や取引先には、条件がまとまってから伝えるのが基本です。早く伝えると、動揺が広がります。

この順序を先に決めておけば、迷わずに進められます。

税制上の措置を選ぶときの注意

承継に関わる税の措置には、要件が細かいものがあります。適用した後も、条件を満たし続ける必要があるものもあります。

特に注意したいのは、その後の選択肢に影響する場合があることです。適用したことで、後から株を譲ることが難しくなることがあります。

だから、適用を検討するときは、十年後、二十年後までを考えてください。今は続けるつもりでも、事情が変わることがあります。

適用の可否と、その後への影響は、必ず税理士に確認してください。制度の内容は改正されることもあるため、判断するその時点で確かめる必要があります。

後継者にも、この制約を伝えておいてください。負う立場の人が、制約を理解したうえで受けるかどうかを決める必要があります。

制度を使わない場合の進め方

支援が使えない、あるいは使わないと決めた場合も、承継は進められます。費用は自社の負担になりますが、時期も手法も自由です。

費用を抑える方法もあります。調査の範囲を絞る、公的な窓口の支援を使う、複数の相手から見積りを取る。

公的な窓口では、相談だけでなく相手を探す支援を行っていることもあります。民間より費用が抑えられる場合があります。

ただし、費用を抑えることを優先しすぎると、必要な確認を省くことになります。省いた部分で後から問題が出れば、かえって高くつきます。

何にいくらかけるかは、会社の規模と、進める道によって変わります。まず全体像を掴んでから、削れる部分を考えてください。

公的な窓口で何を聞くか

相談に行くとき、何を聞くかを決めておくと有意義な時間になります。漠然と行くと、一般的な説明で終わります。

聞きたいのは五つです。自社の状況でどういう道があるか、それぞれに何が要るか、どれくらいの期間がかかるか、費用はどれくらいか、今の時点で使える支援があるか。

この五つを聞くには、自社の状況を伝える必要があります。規模、業績、人の状況、後継者の有無、社長の年齢。

資料を持っていくと、話が具体的になります。決算の書類、車両の一覧、人員の構成。あるものを持っていけば足ります。

一度で決める必要はありません。話を聞いて、持ち帰って考え、また相談する。この往復ができるのが、公的な窓口の利点です。

時期をどう考えるか

承継の準備には年単位の時間がかかります。制度の公募の時期も限られています。この二つを合わせる必要があります。

だから、方針を早く決めておくことが有利になります。決まっていれば、公募が出たときに動けます。

逆に、方針が決まっていない段階で制度に合わせて動くと、後から後悔することがあります。急いで決めた方針は、たいてい練り直しになります。

時間に余裕を持って始めてください。社長の年齢と体調から逆算して、いつまでに何を決めるかを置く。この区切りがあると、日々の忙しさに流されません。

まとめ

事業承継・M&A関連の支援には、専門家費用、承継後の投資、廃業費用などを対象とするものがあります。制度より先に、事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的相談窓口を使うことをおすすめします。交付決定前の契約は対象外になりうる点、後払いである点に注意してください。税制上の措置は要件が細かく、その後の選択肢に影響することがあるため、必ず税理士にご相談ください。

※ 補助金の名称・対象経費・要件・公募時期は年度によって変わります。本記事は一般的な進め方を整理したものですので、実際の申請にあたっては、必ず最新の公募要領をご確認ください。