二つの物差し
キロ単価 = 運賃 ÷ 走行距離
時間単価 = 運賃 ÷ 拘束時間
同じ運賃でも、この二つで見え方が変わります。
キロ単価が向く運行
- 長距離の幹線輸送
- 走行距離が収益に直結する仕事
- 燃料費の比重が大きい運行
時間単価が向く運行
- 近距離・多頻度の配送
- 荷待ちや荷役が長い仕事
- ルート配送、地場の仕事
近距離で荷待ちが長い仕事は、キロ単価だけで見ると割高に見えます。 しかし時間単価で見ると、実は最も採算が悪いことがあります。両方で見る意味はここにあります。
時間単価は「拘束時間」で割る
運転時間だけでなく、荷待ち・荷役・点呼を含めた拘束時間で割ってください。この数字が、その仕事の本当の効率を示します。
荷待ちが2時間ある仕事は、運賃が同じでも時間単価が大きく下がります。数字にすると、交渉すべき相手が明確になります。荷待ち時間の削減をご覧ください。
必要単価を原価から出す
相場を追うのではなく、自社に必要な単価を計算してください。
- 車両1台の年間費用を出す:人件費、燃料、車両(減価償却またはリース)、保険、税金、修繕、高速代、間接費
- 年間の稼働を出す:実働日数、1日あたりの走行距離・拘束時間
- 1キロあたり・1時間あたりの原価を計算する
- 目標利益を上乗せする=必要単価
この計算は運賃と原価の考え方、車両別の原価管理で詳しく整理しています。
荷主別に並べる
全案件について、キロ単価と時間単価を出し、荷主別・路線別に一覧にしてください。
| 荷主 | 運賃 | 距離 | 拘束時間 | キロ単価 | 時間単価 | 必要単価との差 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| A社 |
この表ができると、次が見えます。
- どの荷主が採算に乗っていないか
- どの路線が効率的か
- 優先して交渉すべき相手はどこか
荷主別の採算管理をご覧ください。
単価だけで判断しない
単価が低くても、次の場合は続ける判断があり得ます。
- 帰り荷として組み合わせられる:単独では赤字でも、往復で採算に乗る
- 他の仕事とセット:主要な取引の一部
- 閑散期を埋める:空車で待つよりよい
- 将来の拡大が見込める
逆に、これらに当てはまらない低単価の仕事は、撤退の候補です。赤字取引の見極めと撤退をご覧ください。
交渉での使い方
単価は、交渉の共通言語になります。
- 「御社の便は時間単価が◯円で、当社の必要水準を下回っています」
- 「荷待ちが平均◯分あり、その分だけ時間単価が下がっています」
- 「燃料が◯円上がると、キロ単価で◯円の負担増になります」
感情ではなく数字で話せるようになると、交渉の質が変わります。運賃交渉の準備をご覧ください。
単価を上げる方法は二つ
- 運賃を上げる:交渉する
- 分母を減らす:距離や拘束時間を減らす
2番目は自社でできることです。荷待ちを減らす、回送を減らす、積載効率を上げる。運賃が変わらなくても、単価は改善できます。実働率を上げる、実車率と帰り荷の確保をご覧ください。
M&Aでの意味
荷主別・路線別の単価を出せる会社は、原価管理ができている会社と評価されます。買い手はこの資料から、買収後の改善余地を判断します。
単価が低い荷主が残っていることは、伸びしろとして説明できます。買い手は運送会社のどこを見るかをご覧ください。
拘束時間をどう測るか
時間単価は拘束時間で割ると書きました。ところが、この拘束時間を正確に拾えていない会社が多くあります。ここが曖昧だと、時間単価そのものが当てになりません。
拾いにくいのは、両端の時間です。出庫前の点呼と点検、帰庫後の給油と洗車、日報の記入。運転していないため意識から抜けますが、実際には拘束されています。
もう一つ抜けやすいのが、荷待ちの実態です。日報に「積込」とだけ書かれていると、待った時間と作業した時間の区別がつきません。到着した時刻と、作業を始めた時刻を分けて記録してください。この二つが分かれば、待機の長さが自動的に出ます。
記録の負担を増やしたくない場合は、まず対象を絞ってください。全便を測る必要はありません。採算を疑っている便について、数日から一週間だけ実測すれば、傾向はつかめます。
そして、測った結果は本人にも見せてください。自分の一日がどう使われているかを数字で見ると、記録の意味が伝わります。書かされている状態では、精度が上がりません。
比べるときの落とし穴
荷主別・路線別に一覧にすると書きました。ただ、並べたものをそのまま比べると、判断を誤ることがあります。
一つは、条件の違う運行を同じ列で比べてしまうことです。大型と小型、長距離と地場では、そもそも単価の水準が違います。同じ表に入れるのは構いませんが、比べるのは似た条件どうしにしてください。
二つ目は、一回の運行で判断してしまうことです。同じ便でも、季節や曜日で待機の長さが変わります。少なくとも数回分を平均してください。
三つ目は、単価だけを縦に並べて上から順に問題視することです。単価が低くても、往復の組み合わせで採算に乗っている場合があります。単独の便として見るか、組み合わせとして見るかを、先に決めてください。
そして、必要単価との差を見るときは、その必要単価がいつ計算したものかを確認してください。費用が上がっているのに基準が古いままだと、差が実際より小さく見えます。
数字が動いたときに何を疑うか
単価を継続して見ていると、月によって数字が動きます。この動きの読み方を持っておくと、原因を早く見つけられます。
キロ単価が下がったのに時間単価が変わらないなら、走行距離が伸びています。回送が増えたか、経路が変わった可能性があります。
時間単価だけが下がったなら、拘束時間が伸びています。荷待ちが増えたか、作業の範囲が広がったか。相手の運用が変わっていることがあります。
両方が下がったなら、運賃そのものか、便の中身が変わっています。値引きに応じた覚えがなくても、附帯の作業が無償で増えていることがあります。
逆に、両方が上がっているときも確認してください。一時的な条件で上がっているなら、それを前提に計画を立てると外します。
いずれの場合も、まず現場に聞いてください。数字は変化を教えてくれますが、理由までは教えてくれません。
単価を配車の判断に落とす
単価が交渉の共通言語になると書きましたが、実は日々の配車でこそ使えます。
やり方は簡単で、一日あたり、一時間あたりの下限を決めておくことです。この水準を下回る依頼は、受けるにしても理由が要る。担当者が自分で判断できる線を、先に引いておきます。
線がないと、担当者は目の前の依頼を断れません。断った結果として車両が空いたときに、責められるかもしれないと考えるからです。線があれば、その線に沿って判断したと説明できます。
そして、線を下回る仕事を受けたときは、理由を一言残してください。帰り荷として組んだ、閑散期を埋めた、主要な荷主の依頼だった。記録が残れば、後から振り返れます。
この記録が溜まると、例外がどれだけあるかが見えます。例外が多すぎるなら、線の水準が実態と合っていないか、受注の構造そのものに問題があります。
荷主に単価の話をどこまでするか
時間単価が下がっているという話は、相手の運用に踏み込む話でもあります。伝え方を誤ると、対立になります。
避けたいのは、単価の数字だけを突きつけることです。相手にとって、こちらの原価は自分の責任ではありません。「合わないので上げてほしい」だけでは、話が進みません。
効くのは、時間の使われ方を事実として共有する形です。何時に着いて、何時から作業が始まり、何時に出たのか。この記録を並べるだけで、相手の側でも改善の余地が見えることがあります。
そのうえで、時間が短くなればこの水準で続けられる、という道筋を示してください。値上げか現状維持かの二択ではなく、選択肢がある形にします。
実際、待機の改善のほうが早く動くことがあります。運賃は社内の決裁が要りますが、現場の段取りは担当者の裁量で変えられる場合があるからです。
分母を減らす取り組みをどう続けるか
分母を減らすことでも単価は改善できると書きました。ただ、この取り組みは効果が見えにくく、続かないことが多いのが実情です。
続けるために必要なのは、削った時間や距離を数字で残すことです。荷待ちが平均してどれだけ短くなったか、回送の距離がどれだけ減ったか。記録がなければ、やった気になって終わります。
対象は絞ってください。全便を同時に見直そうとすると、どこから手をつけるか決まりません。時間単価がいちばん低い便を一つ選び、そこだけを追いかけるほうが進みます。
そして、改善の余地は現場のほうが知っています。「この便は着く時間を一時間ずらせば待たずに済む」といった話は、乗っている人から出てきます。数字を示したうえで意見を聞くと、具体的な提案が返ってきます。
効果が出たら、その便の時間単価がどう変わったかを共有してください。自分たちの工夫が数字を動かしたと分かれば、次の便にも取り組みが広がります。
低単価の仕事を残す判断を記録する
単価が低くても続ける判断があり得ると書きました。ここで大事なのは、その判断に期限を付けることです。
帰り荷として組み合わせているから、閑散期を埋めるから、将来の拡大が見込めるから。どれも合理的な理由ですが、前提が変わっても続いてしまうことがあります。往路の仕事がなくなったのに復路だけが残る、閑散期が終わっても続いている、といった状態です。
だから、残すと決めたときに、いつ見直すかも決めてください。半年後、あるいは次の期の初め。その時点で前提が成り立っているかを確認します。
そして、判断の理由を一行で書き残してください。理由が残っていないと、次に見たときに「昔からある仕事」としか分かりません。理由が分からない仕事は、見直しの対象にもなりません。
将来の拡大を見込む場合は、その見込みを具体的にしてください。いつまでに、どれくらいの規模になる話なのか。曖昧なままだと、いつまでも待つことになります。
複数の便が絡むときの見方
往復で採算に乗る場合があると触れました。ここをもう少し整理しておきます。
組み合わせで見るときは、単位を運行ではなく一日にしてください。その日に走った全体の売上と、その日にかかった費用。この形なら、往路と復路を分けて悩む必要がなくなります。
一日単位で見ると、別のことも分かります。二つの仕事を組んだ日と、一つしか積めなかった日の差です。組めた日が少ないなら、問題は単価ではなく受注の構造にあります。
そのうえで、一日の合計が下限を下回っている日を数えてください。月に何日あるかが分かれば、影響の大きさが見えます。数日なら運用の問題ですが、常態化しているなら仕事の中身を変える必要があります。
そして、組み合わせを前提にしている取引については、相手にもそう伝わっているかを確認してください。往路の仕事が減った時点で、復路の条件も見直すという話ができていれば、後から交渉しやすくなります。
表を作る手間をどこまでかけるか
全案件についてキロ単価と時間単価を出すと書きましたが、実際に全部を並べようとすると、件数が多い会社では作業が重くなります。
まず、対象を絞ってください。定期的に走っている便から始めます。スポットの仕事は件数が多い割に傾向が出にくく、後回しで構いません。定期便だけでも、売上の大半を占めているはずです。
頻度も毎月でなくて構いません。四半期に一度、直近の一か月分を拾う形でも、変化は追えます。毎月やろうとして止まるより、確実に続く頻度を選んでください。
そして、一度作った表は毎回作り直さず、数字だけを入れ替える形にしてください。荷主名と便の一覧は変わりません。変わるのは、運賃と距離と時間だけです。
作業が軽くなれば、見る回数が増えます。回数が増えれば、変化に早く気づけます。精密な表を年に一度作るより、粗い表を何度も見るほうが、実務では役に立ちます。
まとめ
キロ単価と時間単価の両方で案件を見てください。近距離で荷待ちが長い仕事は、時間単価で見ると採算が悪いことがあります。原価から必要単価を出し、荷主別に並べれば、交渉すべき相手が明確になります。分母を減らすことでも単価は改善できます。