なぜ荷主別に見る必要があるのか
車両別の原価が分かっても、それだけでは「どの取引をどうすべきか」は決まりません。実際の判断は荷主単位・案件単位で行うため、売上と原価を荷主に対応づける必要があります。
ステップ1:売上を荷主別に集計する
請求データから、荷主別の月次売上を出します。あわせて、運行回数、走行距離、稼働時間も荷主別に集計できると理想的です。
ステップ2:原価を割り当てる
車両別原価(車両別原価の出し方)をもとに、荷主別に配分します。
- 専属で運行している場合:その車両の原価をそのまま割り当てる
- 複数荷主を混載する場合:走行距離または稼働時間で按分する
厳密でなくて構いません。同じルールで全荷主に適用することが大切です。
ステップ3:見えないコストを乗せる
ここが最も重要です。運賃には表れないコストを、荷主別に把握します。
- 待機時間:荷主別の平均待機時間 × 時間あたり原価
- 附帯作業:手荷役、仕分け、検品にかかった時間
- 空車回送:帰り荷がない区間の距離
- 事務コスト:伝票処理、専用システムへの入力、請求の手間
- クレーム対応:発生頻度と対応時間
これらを乗せると、単価は高いのに利益が薄い荷主が浮かび上がってきます。逆に、単価は普通でも待機がなく回転の良い荷主が優良先だと分かります。
ステップ4:マトリクスで並べる
縦軸に取引額、横軸に利益率を取って荷主を配置します。4つの象限で打ち手が変わります。
- 取引額大・利益率高:維持・強化。関係を深める
- 取引額大・利益率低:最優先で交渉。改善提案とセットで
- 取引額小・利益率高:増やせないか打診する
- 取引額小・利益率低:条件改善か、撤退を検討
感覚では「大口=大事な荷主」と思いがちですが、実際には2の象限に入っていることが少なくありません。
ステップ5:判断に使う
交渉:2の象限から着手します。待機実績や附帯作業の記録を示し、運賃改定または作業範囲の見直しを提案します。
配車:利益率の高い仕事に車両と人を優先的に振り向けます。
撤退:交渉が進まない赤字取引は、契約期間を見ながら整理します。空いた車両を採算の合う仕事に回せば、売上が減っても利益は増えます。
続けるための工夫
- 月次で更新する(年1回では判断に使えない)
- 上位10社だけでも十分に効果がある
- 配車担当と共有し、日々の判断に使ってもらう
承継・M&Aでの意味
荷主別の採算表は、買い手が最も見たい資料のひとつです。収益構造を説明できる会社は、それだけで評価が安定します。
見えないコストをどう測るか
運賃に表れないコストを荷主別に把握することが最も重要だと書きました。ただ、これらは記録がなければ数字になりません。測り方を整理します。
待機と附帯の作業は、日報に時刻の欄を作れば拾えます。到着した時刻、作業を始めた時刻、終わった時刻。この三つがあれば、待った時間と作業した時間が分かれます。
空車の回送は、運行の記録から拾います。積んでいた区間と、空で走った区間を分けて記録してください。荷主別に見るなら、その荷主の運行に伴って発生した空車距離を対応づけます。
事務の手間は、測りにくい項目です。厳密に測る必要はありません。この荷主の伝票処理に月に何時間かかっているかを、担当者に聞いてください。感覚でも、荷主間の差は分かります。専用のシステムへの入力が必要な先は、明らかに手間が違います。
クレームへの対応も同様です。件数と、一件あたりのおおよその対応時間。これも担当者が知っています。
そして、これらを金額に換算するときは、時間あたりの原価を使ってください。同じ物差しで換算すれば、荷主間で比べられます。
混載している場合の按分
複数の荷主を混載する場合は距離か時間で按分すると書きました。ここで判断に迷う場面があるため、考え方を補います。
距離で按分するのは、長距離の運行に向いています。走ることが費用の中心だからです。一方、待機や積み降ろしが長い運行では、距離で割ると実態と合いません。
時間で按分するのは、地場の配送や、荷役の多い運行に向いています。拘束時間が費用を決めているからです。
迷ったら、その運行で何が費用を決めているかを考えてください。走行距離が長いなら距離、拘束時間が長いなら時間です。
そして、どちらを選んでも、同じ運行の中では一つのルールを通してください。荷主ごとに有利な按分を選ぶと、比較の意味がなくなります。
按分の方法を変えた場合は、過去の月も同じ方法で計算し直してください。そうしないと、推移が読めなくなります。
マトリクスを実際に使う
取引額と利益率で四つの象限に分けると書きました。並べた後に何をするかを、具体的にしておきます。
取引額が大きく利益率が低い象限は、最優先です。ただし、いきなり値上げの話に行かないでください。まず、なぜ利益率が低いのかを見ます。運賃そのものが低いのか、待機が長いのか、空車が多いのか。原因によって、持ちかける内容が変わります。
取引額が小さく利益率が高い象限は、見落とされがちです。ここは増やせないかを打診する価値があります。すでに良い条件で回っている取引を広げるほうが、新規を取るより確実です。
取引額が大きく利益率も高い象限は、維持が目標になります。ここで気をつけたいのは、依存が深まりすぎることです。良い取引ほど比率が上がりやすく、失ったときの影響が大きくなります。
取引額が小さく利益率も低い象限は、まとめて扱ってください。一件ずつ交渉する労力に見合いません。条件を一律で見直す案内を出すか、整理の対象にするかを決めます。
そして、この配置は毎月変わります。動いた荷主があれば、理由を確認してください。
上位十社から始める理由
上位十社だけでも十分に効果があると書きました。なぜ全社を見なくてよいのかを補足します。
多くの運送会社では、売上の大部分を少数の荷主が占めています。上位から順に並べると、十社ほどで大半に達することが珍しくありません。残りは件数が多くても、金額の影響は小さいのです。
そして、作業量が全く違います。全取引先を対象にすると、集計だけで数日かかります。十社なら、慣れれば半日で終わります。続けられる負担であることが、何より重要です。
ただし、下位の取引を無視してよいわけではありません。年に一度は全体を見て、上位に上がってきた先がないかを確認してください。取引が増えている先は、条件を見直す機会でもあります。
そして、下位に大きな赤字が隠れていることもあります。件数は少なくても、待機や作業が異常に多い取引です。年に一度の点検で拾えます。
月次は上位十社、年に一度は全体。この二層で回すのが現実的です。
配車の担当と共有する
配車担当と共有し日々の判断に使ってもらうと書きました。ここが、この表がいちばん効く場面です。
配車の担当は、毎日いくつもの判断をしています。どの車をどの仕事に付けるか、急な依頼を受けるか断るか。この判断に採算の情報がないと、目の前の都合だけで決まります。
共有するのは、細かい数字ではなく、優劣の順です。この荷主は利益が厚い、この荷主は薄い。この程度が頭に入っていれば、車両を回す優先順位が変わります。
あわせて、なぜ薄いのかも伝えてください。待機が長いから薄いと分かっていれば、配車の段階で工夫の余地を探せます。時刻をずらす、順番を変える。現場で打てる手があります。
そして、配車の担当からの意見も聞いてください。数字に表れていない事情を知っていることがあります。この荷主は急な依頼にも柔軟に応じてくれる、この荷主は現場の対応が厳しい。判断に加える価値のある情報です。
共有した結果、配車が変わったかどうかを後で確認してください。表を渡しただけでは、日常の判断は変わりません。
数字を見せる相手と見せ方
荷主別の採算は、社内でも扱いに注意が要る情報です。誰にどこまで見せるかを決めておいてください。
全体の順位や金額を広く共有すると、現場での会話に出ることがあります。荷主の担当者に「うちは儲からないと言われている」と伝わると、関係が損なわれます。
だから、金額そのものは限られた範囲にとどめ、現場には必要な部分だけを伝えてください。「この便は待機を減らしたい」「この現場の作業時間を記録してほしい」という形なら、目的が伝わり、情報も漏れません。
一方、経営に関わる立場の人には、全体を見せてください。後継者、幹部、経理の担当。会社の収益構造が分かっていなければ、判断に加われません。
外部に出す場面では、目的に応じて範囲を絞ってください。金融機関には全体の構造を、荷主にはその荷主に関する部分だけを。相手ごとに切り出す前提で、元の表を作っておくと扱いやすくなります。
数字が判断を変えるまでの流れ
表を作ったのに何も変わらない、という状態になることがあります。数字が判断につながる流れを、意識して作ってください。
まず、見る場を決めてください。月次の集計が終わった後、三十分でよいので、社長と配車と経理で数字を見る時間を作ります。この場がないと、表は誰も開かないファイルになります。
次に、その場で一つだけ決めてください。この荷主に条件の見直しを申し入れる、この便の待機を記録する、この取引の配車を後ろに回す。全部を決めようとすると、何も決まりません。
そして、決めたことを次の月に確認してください。実行したか、結果はどうだったか。この往復があって初めて、数字が経営の道具になります。
三か月も続ければ、動いた取引と動かない取引が分かれてきます。動かない取引については、別の判断が必要だということです。
この流れが回り始めると、集計の作業に意味が生まれます。意味があるから続き、続くから精度も上がります。
単月の数字に振り回されない
月次で更新すると書きましたが、一か月の数字だけで判断すると、誤ることがあります。
運送の仕事には波があります。荷主の側の事情で物量が落ちた月、こちらの車両が入庫していた月、燃料の単価が急に動いた月。単月では、こうした一時的な要因が数字を歪めます。
だから、判断に使うときは数か月の平均で見てください。三か月移動平均のような形でも、単純に直近三か月を並べる形でも構いません。傾向が見えれば足ります。
そのうえで、単月で大きく動いた荷主については、理由を確認してください。理由が説明できるなら、心配は要りません。説明できないなら、集計に誤りがある可能性もあります。
そして、前年の同じ月とも比べてください。季節による変動が大きい荷主では、前月との比較より意味があります。
数字が動いたときに、まず原因を探す習慣を付けてください。数字を眺めるだけでは、判断につながりません。
承継の場面でどう使われるか
買い手が最も見たい資料のひとつだと書きました。実際にどう使われるかを補足します。
買い手はまず、収益の集中度を見ます。上位数社でどれだけを占めているか。集中しているほど、その取引が続くかどうかが重要になります。
次に、利益の出どころを見ます。売上の大きい荷主が利益も出しているのか、それとも別の取引が支えているのか。ここが分かると、買収後の姿が描けます。
そして、改善の余地を見ます。利益率の低い取引が残っているなら、それは伸びしろとして評価されます。ただし、これまで交渉してこなかったのか、交渉しても動かなかったのかで意味が変わります。交渉の経過もあわせて示してください。
資料としては、直近数期分の推移があると説得力が増します。一時点だけでは、たまたまかどうかが分かりません。
だから、この表は求められてから作るのではなく、日常の管理として続けてください。続けていること自体が、管理された会社であることの証明になります。
集計を軽くする工夫
月次で回すには、作業が軽いことが条件になります。負担を下げる工夫をいくつか挙げます。
まず、売上の集計は請求のデータをそのまま使ってください。請求書を作る作業で、すでに荷主別の金額は出ています。改めて集計し直す必要はありません。
次に、稼働の数字は日報から拾いますが、毎月全部を手で拾うのは重い作業です。運行の記録が電子化されていれば、そこから書き出せます。紙のままなら、上位の荷主に絞ってください。
そして、原価の配分は自動で計算できる形にしておいてください。車両別の原価と、荷主別の走行距離や時間が入れば、按分は計算式で出ます。毎月手で割り算をしていると、間違えます。
見えないコストのうち、事務やクレームの部分は毎月測る必要はありません。半年に一度、担当者に確認して数字を更新すれば足ります。
そして、様式を固定してください。毎月同じ場所に同じ数字を入れる形になっていれば、作業は転記だけになります。作り直すたびに形が変わると、比較もできません。
まとめ
荷主別採算は、売上に原価と見えないコストを対応づけるだけで見えてきます。上位10社から始めて、交渉と配車の判断に使ってください。
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