まず「なぜ断られたか」を見極める
| 理由 | 見通し |
|---|---|
| 予算がすでに確定している | 時期を変えれば可能性あり |
| 担当者に決裁権がない | ルートを変えれば可能性あり |
| 荷主自身の業績が厳しい | 状況次第 |
| 他社のほうが安い | 品質・体制で差別化できるか |
| 方針として値上げに応じない | 厳しい |
| そもそも取り合ってもらえない | 関係の問題。撤退も視野 |
「断られた」と一括りにせず、理由を分けて考えてください。 半分は時期や手順の問題です。
続けるかどうかの判断基準
続ける理由になるもの
- 帰り荷として組み合わせられる:単独では赤字でも往復で採算に乗る
- 閑散期を埋めている:空車で待つよりよい
- 他の高採算の仕事とセット:切ると全部失う
- 将来の拡大が具体的に見込める:口約束ではなく計画として
- 代わりの仕事がない:切ると車両が余る
撤退を検討すべきもの
- 単独で赤字、かつ組み合わせもできない
- 拘束時間が長く、規制上も無理がある
- 数年間、改定に一切応じていない
- 作業が増え続けている
- ドライバーが嫌がっており、離職の原因になっている
最後の項目を軽視しないでください。人が辞める仕事は、金額以上のコストがかかっています。ドライバーの離職防止をご覧ください。
数字で判断する
その取引を失った場合の影響を計算してください。
- その荷主の年間売上と利益
- 使っている車両とドライバーの数
- 撤退した場合、その車両を何に使えるか
- 代替の仕事が見つかる見込み
- 撤退による他の取引への影響
「売上が減る」だけを見て判断しないでください。赤字の仕事なら、やめたほうが利益は増えます。赤字取引の見極めと撤退をご覧ください。
すぐ撤退しない場合の進め方
1. 記録を続ける
荷待ち時間、附帯作業、コストの推移。次の交渉のための材料を蓄積してください。1年分の記録があると、説得力がまったく違います。
2. 時期を変えて再度申し入れる
- 荷主の予算編成の前
- 契約の更新時
- 担当者が代わったとき
- コストがさらに上昇したとき
3. ルートを変える
現場の担当者では決められないことがあります。上位の役職者、または本社の物流部門に話せる機会を探してください。仲介してくれる人がいれば依頼します。
4. 代替案に切り替える
金額が動かないなら、時間と作業を減らす提案に切り替えてください。荷主にとってはコストがかからず、こちらは実質的に採算が改善します。運賃交渉の進め方と代替案をご覧ください。
5. 優先順位を下げる
断ることまではしないが、繁忙期に他を優先するという運用です。ただし、これを一方的に続けると信頼を損ないます。事前に伝えてください。
撤退を決めた場合
手順
- 契約の解約予告期間を確認する:一方的な打ち切りは避けてください
- 時期を決める:荷主が代替を手配できる期間を見込む
- 直接伝える:訪問して、理由を説明する
- 引き継ぎに協力する:後任の業者への情報提供
- 社内に伝える:ドライバーの配置転換を含めて
伝え方
「儲からないから」ではなく、「この条件では安全に運行を継続できないため」という説明が適切です。事実でもあります。
関係を壊さずに終わることが重要です。数年後に条件が変わって戻る、ということも実際にあります。
撤退後の車両と人員
撤退を決める前に、その車両とドライバーをどうするかを決めておいてください。空いたまま放置すると、固定費だけがかかります。
- 他の荷主の増便に充てる
- 新規開拓に使う(直取引の開拓)
- 車両を減らす(最低車両数と減車のリスク)
断られ続ける会社の構造
どの荷主にも断られる場合、次のいずれかの可能性があります。
- 根拠資料が不十分(運賃交渉の準備)
- 元請1社に依存しており、交渉力がない(下請け構造からの脱却)
- そもそも荷主が偏っている(荷主分散が価値に効く理由)
交渉の技術ではなく、構造の問題であることがあります。その場合、荷主の分散と直取引の開拓が根本的な解決策です。
理由をどう聞き出すか
断られた理由を分けて見極めてくださいと書きましたが、相手がはっきり言ってくれるとは限りません。多くの場合、返ってくるのは「厳しいです」という一言だけです。
ここで引き下がらず、一段だけ踏み込んでください。責める形にならない聞き方があります。「差し支えなければ、どのあたりが難しいか教えていただけますか」「時期の問題でしょうか、金額の水準でしょうか」。選択肢を示して聞くと、答えやすくなります。
もう一つ有効なのが、条件を変えれば可能性があるかを聞くことです。「金額が難しいということであれば、待機の扱いだけでもご相談できませんか」。この問いへの反応で、方針として断っているのか、金額の問題なのかが分かります。
そして、次に話せる時期を必ず聞いてください。「次にご相談するとしたら、いつ頃が適切でしょうか」。この質問に具体的な時期が返ってくるなら、可能性は残っています。「いつでも」という答えなら、実質的な脈はありません。
聞いた内容は、その日のうちに書き留めてください。時間が経つと、印象だけが残って言葉が消えます。
社内にどう伝えるか
断られた事実を社内に伝えないままにする会社があります。伝えにくいのは分かりますが、伝えないほうが害が大きくなります。
現場のドライバーは、条件が変わらないことにいずれ気づきます。会社が動いていないと受け取られると、意欲にも定着にも響きます。実際、条件の悪い仕事を説明もなく続けさせられることが、離職の理由になります。
伝え方は、事実と方針をセットにしてください。申し入れたこと、断られたこと、その理由、次にいつどう動くか。この四つがあれば、状況として受け止めてもらえます。
とくに、次の方針を示すことが重要です。「記録を一年続けて、来期にもう一度申し入れる」といった形で、続きがあることを伝えてください。何もしないという結論だけを伝えると、諦めたと受け取られます。
そして、記録の協力を頼んでください。待機の時刻、附帯の作業。次の申し入れの材料は、日々の記録からしか作れません。目的が分かっていれば、精度が上がります。
一年分の記録が何を変えるか
一年分の記録があると説得力がまったく違うと書きました。何がどう違うのかを、具体的にしておきます。
一回の実測は、たまたまだと言われます。その日が特別に混んでいた、その便が例外だった。反論の余地が残ります。
一年分あれば、それが常態だと示せます。平均でどれだけ待っているか、最も長い日はどうだったか、季節でどう変わるか。ここまで出せると、事実として扱われます。
さらに、変化も示せます。前年と比べて待機が伸びている、作業が増えている。この推移は、条件を見直す理由そのものになります。
記録の取り方は、複雑にしないでください。到着の時刻、作業を始めた時刻、終わった時刻。この三つを日報に書く欄を作るだけで足ります。続けられる形であることのほうが、精度より重要です。
そして、記録を取り始めたことを相手に伝えても構いません。むしろ、伝えておくと運用が変わることがあります。
ルートを変えるときの進め方
現場の担当者では決められないことがあると書きました。上に話を上げる方法には、いくつかの形があります。
いちばん穏当なのは、担当者に同席してもらう形です。「一度、ご上長にもご説明する機会をいただけませんか」と頼む。担当者を飛び越すのではなく、一緒に上げる形にすると、関係を損ないません。
担当者が難色を示す場合は、資料だけでも上げてもらってください。渡す資料を、上位者が読む前提で作り直します。細かい運行の話より、取引全体の状況と、こちらの体制が続くかどうかに焦点を当てます。
紹介してくれる人がいるなら、それも有効です。同じ荷主の別部門と取引があるなら、そちらから話が伝わることがあります。
ただし、担当者を飛び越して直接上に話すのは避けてください。一時的に話が動いても、その後の実務が回らなくなります。日々の連絡は、結局その担当者と行うことになります。
優先順位を下げる運用の限界
断ることまではしないが繁忙期に他を優先する、という運用に触れました。これは実務でよく使われますが、扱い方を誤ると関係が壊れます。
まず、一方的にやらないでください。何も言わずに対応を落とすと、相手は理由が分からないまま不満を溜めます。ある日突然、取引が切られることになります。
伝え方は、事実として説明する形にしてください。「現在の条件では、繁忙期に優先して車両を回すことが難しくなっています」。これは脅しではなく、実際にそうなるという説明です。
そのうえで、どうすれば優先できるかを示してください。条件が変われば体制を維持できる、という道筋があれば、相手にも選択肢が生まれます。
そして、この運用を長く続けないでください。中途半端な状態が続くと、こちらの現場も混乱します。半年なり一年なりで、続けるか整理するかを決めてください。
構造の問題をどう直すか
どの荷主にも断られるなら構造の問題を疑ってくださいと書きました。ただ、構造を変えるのは時間がかかります。着手の順番を示しておきます。
最初にやるのは、依存の度合いを数字で確かめることです。売上の上位数社が全体のどれだけを占めているか。ここが偏っているほど、交渉の余地は小さくなります。相手はこちらが断れないことを分かっています。
次に、その偏りが元請への依存によるものか、荷主の数が少ないだけなのかを見てください。元請の下にいる場合、そもそも条件を決める場に自社がいません。この場合は、交渉の技術ではなく、取引の形そのものを変える必要があります。
直取引を開拓するには時間がかかります。一年や二年の話です。だから、断られたことをきっかけに始めてください。切羽詰まってからでは間に合いません。
そして、開拓の途中でも、既存の取引の記録は続けてください。構造が変わって交渉力が戻ったときに、その記録がそのまま材料になります。
一社でも直の取引ができると、社内の空気が変わります。条件を自分で決められる取引があるという事実が、他の交渉にも効いてきます。
断られた取引を続ける間にできること
すぐ撤退しない場合の進め方をいくつか挙げましたが、あわせて、その取引の負担そのものを軽くする工夫があります。
相手の同意が要らない範囲で、こちらの運用を変えられないかを見てください。到着の時刻を少しずらして待機を避ける、帰りに寄れる荷物を組む、担当する車両を燃費のよいものに変える。運賃は同じでも、残る金額は変わります。
乗務する人の負担も見てください。その仕事が嫌われている理由が、金額ではなく作業の内容にあることがあります。手積みが多い、待ち時間が長い、現場の対応が厳しい。担当を固定せずに回すだけで、離職の理由にならなくなる場合があります。
そして、その取引にかける時間そのものを減らせないかを考えてください。便数の集約、曜日の変更。これらは相手との相談が要りますが、金額の話ではないため、通ることがあります。
こうした工夫で採算が戻れば、撤退の判断を急ぐ必要がなくなります。時間を稼いでいる間に、代わりの仕事を探せます。
断られた記録が承継で効く
交渉の経過を記録に残す意味は、次の交渉のためだけではありません。会社を引き継ぐ場面でも使われます。
買い手が知りたいのは、その会社の運賃水準に余地があるかどうかです。何年も据え置かれている取引があるなら、それは伸びしろとして評価されます。ただし、それは「交渉したが通らなかった」場合の話です。
「交渉したことがない」場合は、評価が変わります。管理ができていない会社と見られ、条件の悪い取引が続いている理由そのものが疑われます。
だから、断られた記録こそ残してください。いつ、いくら申し入れ、どういう理由で通らなかったか。取り組んできた事実が、そのまま説明になります。
後継者に渡す場面でも同じです。どの取引にどんな経緯があるかを知らないまま引き継ぐと、後継者は最初から手探りになります。記録があれば、その続きから始められます。
まとめ
断られた理由を分けて見極めてください。時期や決裁ルートの問題なら、次の機会があります。撤退の判断は、売上ではなく利益と車両の使い道で決めます。撤退する場合も、予告期間を守り、理由を直接伝えて関係を壊さないでください。断られ続けるなら、構造の問題を疑ってください。