相談先ごとに、何を聞くか

同じ「事業承継の相談」でも、相手によって答えられる範囲が違います。その相手が得意なことを聞くのが、時間を無駄にしないこつです。

相談先得意な領域費用の考え方確認しておくこと
顧問税理士自社株の評価、贈与・相続、退職金の設計顧問料の範囲か、別途か承継案件の経験があるか。無い場合は連携先があるか
取引金融機関融資、個人保証の解除、支援部門の紹介相談自体は無料が通常相談内容が融資判断にどう扱われるか
公的機関全体像の整理、選択肢の比較、中立的な助言無料実行段階でどこまで伴走してもらえるか
M&A仲介・FA相手探しから最終契約まで着手金・月額・中間金・成功報酬の組み合わせ成約しなかった場合に残る費用。率を掛ける基準額
業界特化のコンサル営業許可、衛生管理、工場監査、原料規格の論点会社による候補先のネットワークの広さ

右端の列は、最初の面談で確認しておく項目です。特に4行目の2つ——成約しなかった場合に残る費用率を掛ける基準額——は、後から効いてきます。同じ料率でも、株式の対価に掛けるのか、負債を含めた総額に掛けるのかで金額が変わります。

相談先1:顧問税理士

最も身近な相談先です。決算書を毎年見ているので会社の実態を把握しており、自社株の評価、贈与・相続の設計、役員退職金の扱いといった税務の論点では頼りになります。

一方で、M&Aの相手探しや、食品工場特有の許認可・衛生管理の論点までカバーしている事務所は多くありません。税務の相談先として明確に位置づけるのがよい使い方です。連携の仕方は顧問税理士とどう連携するかで扱っています。

相談先2:取引金融機関

金融機関も事業承継の支援に力を入れており、担当者に相談すると系列の支援部門やM&A部門を紹介してくれます。融資と個人保証の解除を同時に進められるのが強みです。

ただ、相談した内容が融資判断に影響することを気にされる経営者もいます。また、金融機関が紹介する相手先は取引先企業が中心になるため、候補の幅は限られます。銀行との付き合い方もあわせてご覧ください。

相談先3:公的機関

各都道府県に設置されている事業承継・引継ぎ支援センターは、公的機関のため相談は無料です。中立的な立場で、親族内承継から第三者承継まで幅広く扱います。

費用をかけずに全体像をつかむには適していますが、実行フェーズでの伴走の密度は民間より薄くなる傾向があります。使い方は事業承継・引継ぎ支援センターの使い方にまとめました。

相談先4:M&A仲介会社・FA

第三者への譲渡を考えるなら、相手探しから最終契約までを担う専門会社が必要になります。ここには2つの立場があります。

  • 仲介:売り手と買い手の間に立ち、双方から報酬を受け取る
  • FA(フィナンシャル・アドバイザー):どちらか一方につき、その利益のために動く

それぞれに向き不向きがあります。違いはFAと仲介の違いで整理しています。

相談先5:業界に特化したコンサル

食品製造業の場合、営業許可の承継、HACCPに沿った衛生管理の体制、原料規格書や表示、取引先の工場監査といった論点が必ず出てきます。これらは業界を知らないと勘所がつかめません。

業界特化のコンサルは候補企業のネットワークが総合型より狭くなることがありますが、論点の落とし穴を先に潰せるのが強みです。比べ方は総合仲介と業界特化で扱っています。

相談の前に、自分で決めておくこと

手ぶらで相談しても構いませんが、次の3つを決めておくと、初回から具体的な話ができます。

  1. いつまでに手を離したいか:正確でなくて構いません。「70歳までに」で十分です。これがないと、どの選択肢が現実的かを判断できません。
  2. 何を残したいか:従業員の雇用、工場の稼働、屋号、取引先との関係。優先順位をつけてください。全部を守れる条件が出るとは限りません。
  3. 誰に知られたくないか:従業員、取引先、同業、家族。相談先を選ぶ基準になり、進め方も変わります。

あわせて、直近3期の決算書と、営業許可の内容が分かるものを手元に置いてください。この2つがあれば、どの相談先でも話が具体的になります。

最初の一歩は「全体像」から

おすすめの順番は、まず全体像を無料で相談できるところ(公的機関や、初回相談が無料の専門会社)で選択肢を並べ、方向が決まってから実行の担い手を選ぶ、という流れです。

いきなり1社に絞ると、その会社が得意な道に寄っていきます。複数の入口で話を聞くことをおすすめします。

複数の入口で聞く理由

1社に絞って相談すると、その会社が得意な道に話が寄っていきます。M&A仲介に相談すればM&Aの話になり、税理士に相談すれば税務の話になります。どちらも間違いではありませんが、選択肢を並べる段階では偏りが困ります

現実的な順序としては、次の形をおすすめします。

  1. 公的機関か顧問税理士で、全体像と選択肢を並べる
  2. 金融機関に、借入と個人保証の見通しを確認する
  3. 方向が決まってから、実行の担い手を選ぶ(このとき複数社と会う)

③で複数社と会うことには、費用の比較以上の意味があります。同じ会社を説明しても、返ってくる見立てが違うことがあります。その違いが、自社の何が評価されるのかを教えてくれます。

よくある質問

Q. 顧問税理士に相談すると、社内に伝わりませんか。 A. 税理士には守秘義務がありますが、心配であれば最初にその旨を伝えてください。事務所の担当者が複数関わる場合もあるため、情報の扱いを確認しておくと安心です。

Q. 金融機関に相談すると、融資に影響しますか。 A. 気にされる経営者は少なくありません。ただ、承継の見通しが立たないまま経営者が高齢化するほうが、金融機関にとっては懸念です。計画を共有している会社のほうが、支援の相談はしやすくなります。どう扱われるかを率直に聞いてみてください。

Q. 無料相談だけで進められますか。 A. 全体像の整理までは可能です。ただし、相手探しや契約の実行には専門家の関与が要ります。無料の範囲で選択肢を並べ、有料の範囲は実行段階からと考えると、費用の見通しが立ちます。

Q. 業界特化と総合型、どちらを選ぶべきですか。 A. 候補先の幅を取るなら総合型、論点の取りこぼしを避けるなら業界特化です。食品製造業では、営業許可の扱い、衛生管理の記録、工場監査、原料規格といった論点が必ず出ます。総合型を選ぶ場合は、担当者がこれらを論点として挙げられるかを確かめてください