「元気なうちは続ける」がいちばん危ない
食品製造業の経営者から最も多く聞くのが、「体が動くうちは現場に立つ」という言葉です。志としては立派ですが、承継の観点ではリスクの高い考え方です。体調を崩してから動き出すと、選べる手が一気に減るからです。
買い手や金融機関から見たとき、社長が突然抜けた会社は「配合も取引条件も社長の頭の中にある会社」に映ります。そう見られた時点で、評価は下がります。だからこそ、元気なうちに「いつまで」を決めることに意味があります。
軸1:後継者候補の年齢から決める
親族内や社内に候補がいる場合、その人が「経営を任されて力を発揮できる年齢」に到達するタイミングが、実質的な期限になります。現場を覚え、数字を読めるようになり、取引先と対等に話せるようになるまでには、どうしても年単位の時間がかかります。
候補者が30代半ばなら、任せきるまでに5〜10年を見込む。40代後半なら、逆に「あまり待たせすぎない」ことが課題になります。候補者を待たせすぎて外に出ていってしまう例は、決して珍しくありません。育て方の順序は後継者を育てる順序で整理しています。
軸2:設備の更新時期から決める
食品工場は設備産業です。冷凍機、ボイラー、充填機、包装ラインといった主要設備には更新の周期があり、大きな投資判断が数年おきに巡ってきます。
ここで悩ましいのが、引退の数年前に大型投資をすべきかどうかです。自分で回収できない投資をためらう気持ちは自然ですが、更新を先送りした工場は、そのまま「更新負担を抱えた会社」として評価されます。設備の寿命と引退時期の重ね方は設備の寿命から逆算するで扱っています。
軸3:借入の返済期間から決める
設備資金の返済が10年残っている状態で引退すると、後継者はその返済を引き継ぐことになります。個人保証が付いていれば、保証をどう外すかという話も同時に発生します。
返済が終わる時期、あるいは残高が十分に小さくなる時期は、承継の一つの節目です。金融機関との話は早いほど選択肢が広いので、個人保証を外すにはもあわせてご覧ください。
軸4:自分の生活資金から決める
最後に、引退後に必要なお金です。役員退職金として受け取るのか、株式を譲渡した対価で賄うのか、あるいはその両方か。必要額と受け取り方が決まると、「何歳で、いくら手にして辞めるか」という具体的な目標に変わります。
4つの軸を1枚に書き出す
4つの軸は、それぞれ別の時期を指します。多くの場合、いちばん早い時期が実質的な期限になります。紙に横軸で年を引き、後継者の年齢、設備の更新年、借入の完済年、自分の年齢を並べて書いてみてください。どこで動くべきかが、驚くほどはっきり見えてきます。
そのうえで、「70歳で代表を退く」「73歳で株も渡し終える」といった形にまで落とし込めれば、あとは逆算するだけです。順番は引退からの逆算経営 完全ガイドにまとめています。