順序は現場 → 数字 → 対外

この順序には理由があります。食品工場の経営判断は、ほぼすべてが現場の実態に紐づいているからです。

「この商品の値上げを飲んでもらえるか」を判断するには、その商品の作りにくさと原価構造が分かっていなければなりません。「この設備投資をすべきか」を判断するには、今のラインのどこが詰まっているかが見えていなければなりません。現場を知らずに数字を見ても、数字の意味が読めないのです。

段階1:現場 — どこまでやれば次に進めるか

目安は、全工程を一人で回せることではなく、全工程で何が起きているかを説明できることです。

次の質問に自分の言葉で答えられれば、この段階は合格です。

  • いちばんロスが出ている工程はどこで、なぜか
  • いちばん人手がかかっている工程はどこか
  • 段取り替えに何分かかり、何が律速になっているか
  • 止まると生産が完全に停止する設備はどれか
  • 誰が抜けると作れなくなる商品があるか

最後の質問に答えられると、そのまま次の課題(属人化の解消)につながります。多能工化とスキルマップを参照してください。

段階2:数字 — 何を任せるか

数字の段階では、見せるだけでなく作らせることが重要です。渡された資料を読むのと、自分で集計するのとでは、身につき方がまったく違います。

任せる順番としては、次が有効です。

  1. 品目別の原価計算を作る(または更新する)
  2. 月次の実績を、前年・予算と比べて説明する
  3. 資金繰り表を作る
  4. 価格改定の交渉資料を作る

4番目まで来ると、いよいよ経営に近づきます。原価の根拠を持って価格交渉の資料を作れる後継者は、次の段階でも通用します。価格改定の交渉をご覧ください。

段階3:対外 — 立場を移していく

対外の段階では、いきなり単独で行かせません。次の3ステップで立場を移します。

  1. 先代が話し、後継者は同席する
  2. 後継者が話し、先代が補う
  3. 後継者が単独で行く

この移行に1〜2年かけると、取引先も金融機関も自然に受け入れます。ステップ2を飛ばして3に行くと、相手は「話が違う人になった」と感じます

各段階で先代がやってはいけないこと

段階やってはいけないこと
現場特別扱いする/短期間で切り上げる
数字都合の悪い数字を見せない/資料を作ってあげる
対外同席の場で後継者の意見を否定する

特に最後が致命的です。取引先の前で後継者を否定すると、相手はその後も先代としか話さなくなります。意見が違っても、その場では引き取り、後で二人で話してください。

期間の目安と、短縮したいとき

3段階を丁寧にやると、合計で5〜10年です。「そんなに待てない」という場合は、段階を飛ばすのではなく並行させるのが現実的です。現場に立ちながら原価計算を作る、数字を見ながら取引先に同行する、という形にします。

それでも3年程度は必要です。時間がどうしても足りない場合は、後継者の弱い部分を補う体制(工場長を強くする、外部の顧問を置く)を同時に用意してください。工場長を育てるもあわせてご覧ください。