なぜ食品工場に必要なのか

利益が出ていても資金が足りなくなることがあります。理由は次の構造です。

  • 原料を仕入れて代金を払う(先)
  • 製造して人件費を払う(先)
  • 納品する
  • 売掛金を回収する(後)

この時間差の分だけ、資金が必要になります。さらに季節性があると、繁忙期の前に大きな資金が要ります

作り方の基本

複雑な形式は不要です。月ごとに、次を並べるだけで機能します。

項目◯月◯月
前月繰越
収入:売掛金の回収
その他の収入
支出:原材料・包材の支払
人件費
光熱費・燃料費
物流費
その他の経費
借入返済
設備投資
税金・社会保険
翌月繰越

12か月先まで作るのが基本です。季節性のある会社では、1年分ないと意味がありません。

最初の1時間で、どこまで作るか

完成させようとすると着手できません。初回は次の順で、粗くて構いません。

  1. 過去12か月の実績を入れる:通帳と試算表から、月ごとの入金と出金を大きな費目で拾います。予測より先に実績です。ここに季節の波が出ます。
  2. 決まっている支出を入れる:借入返済、賞与、納税、社会保険の年度更新、リース料。日付が決まっているものから埋めます。
  3. 売上の見込みを置く:前年同月をそのまま置いて構いません。増減の見込みがあるものだけ手で直します。
  4. 回収と支払の時期をずらす:売上を計上した月ではなく、実際に入金される月に置きます。仕入も同様です。
  5. 繰越を計算する:これで、資金がいちばん薄くなる月が見えます。

ここまでで初回は十分です。精度は毎月直しながら上げていくもので、最初から合わせようとすると完成しません。翌月、実績と予測を並べて差を見る。この繰り返しで、3か月もすれば実用になります。

食品工場で織り込むべき項目

1. 回収サイトの違い

取引先によって、締め日と支払日が異なります。大手量販店は回収が早い、地域の小売は遅いなど、実態を反映してください。

「売上の翌々月末入金」と一律に置くと、実態からずれます。

2. 仕入の集中

農水産物を原料とする場合、収穫期・漁期にまとめて仕入れることがあります。この月だけ支出が跳ね上がります。

包材も、最低ロットの関係でまとめて発注することが多く、支出が集中します。

3. 繁忙期前の増産

年末年始、行楽シーズン、季節商品。需要期の1〜2か月前から在庫を積み増します。この期間、資金は出ていく一方です。

4. 賞与と決算

賞与月、決算月の納税、社会保険料の年度更新。毎年決まって出ていく大きな支出を忘れずに入れてください。

5. 光熱費の季節変動

冷凍・冷蔵設備を持つ工場では、夏場の電気代が跳ね上がります。加熱工程が多い工場では、冬場のガス代が増えます。

作った後に見るところ

1. 資金が最も薄くなる月

ここが勝負です。その月の繰越がいくらになるかを確認し、必要なら事前に手を打ちます。

「3か月後に資金が薄くなる」と分かっていれば、余裕をもって金融機関に相談できます。切迫してからでは条件も悪くなります。

2. 運転資金の水準

平常時に、月商の何か月分の資金が必要かを把握します。この水準が分かれば、「いくら手元にあれば安心か」が決まります。

3. 借入返済の負担

毎月の返済額が、利益とキャッシュフローに見合っているか。返済が重すぎると、設備投資ができなくなります設備資金の返済計画をご覧ください。

よくある失敗

売上の計上月に入金を置いてしまう

最も多い誤りです。回収サイトの分だけずらさないと、資金が薄くなる月が見えません。取引先ごとに締め日と支払日が違うため、主要な先だけでも実態を反映してください。

消費税を忘れる

納付の時期と金額は、資金繰りに大きく影響します。中間納付がある場合はその月も入れてください。

季節の在庫積み増しを入れていない

繁忙期の1〜2か月前から原料と包材の仕入れが増えます。この時期は出ていく一方です。前年の実績を見れば、どの月に増えているかが分かります。

楽観的な売上を置く

資金繰り表は、悲観側で作って構いません。予測が外れて資金が余るのは問題になりませんが、逆は問題になります。売上は控えめに、支出は多めに見るくらいでちょうどよい形です。

作って終わりにする

毎月更新しなければ意味がありません。月初に1時間、実績を入れて先12か月を引き直す。この習慣が資金繰り表の価値です。

資金を楽にする打ち手

在庫を減らす

最も直接的に効きます。滞留在庫、過剰な包材、余分な原料。在庫は資金そのものです。在庫回転を上げるを参照してください。

回収サイトを見直す

取引条件の交渉は簡単ではありませんが、新規の取引先については最初に条件を決められます

支払条件を整える

仕入先との支払条件も、交渉の余地があります。ただし、無理な引き延ばしは関係を損ないます

承継期に特に重要な理由

承継の場面では、通常より多くの資金が出ていきます。

  • 役員退職金
  • 少数株主からの株式買い取り
  • 専門家への報酬
  • 設備更新

これらを資金繰り表に入れて、会社が耐えられるかを確認してください。特に役員退職金は金額が大きく、支払時期の設計が重要です。役員退職金の税務上の注意をご覧ください。

金融機関に見せる

資金繰り表を作って提出している会社は、それだけで評価されます。「先を読んでいる会社」と見られるためです。

経営者保証の解除を目指す場合にも、情報開示の実績として効きます。経営者保証に関するガイドラインの使い方を参照してください。

よくある質問

Q. 何か月先まで作ればよいですか。 A. 12か月です。季節性のある会社では、1年ないと波が見えません。加えて、設備投資や承継に伴う支出を検討している場合は、その時期まで延ばしてください。

Q. 資金が薄くなる月が分かりました。何をすればよいですか。 A. 早めに金融機関へ相談してください。3か月前に相談するのと、資金が尽きる直前に相談するのとでは、条件が変わります。あわせて、在庫の圧縮と、支払・回収の時期の調整を検討します。

Q. 顧問税理士が作ってくれます。自分で作る必要はありますか。 A. 作ってもらうこと自体は問題ありませんが、数字の意味が分かっていないと使えません。どの月が薄いのか、なぜそうなるのか。この2つを説明できる状態にしておいてください。承継の場面では、後継者にこの説明ができることが求められます。

Q. 承継の準備として、どう使えますか。 A. 役員退職金、株式の買い取り、専門家への報酬、設備更新。承継に伴う支出を入れて、会社が耐えられるかを確認します。特に役員退職金は金額が大きいため、支払う時期を資金繰りから逆算して決めることになります。

※ 融資・保証の取扱いは金融機関や個別の事情によって異なります。実行にあたっては、取引金融機関および専門家にご確認ください。