なぜ文書にするのか

「常識の範囲で」「様子を見ながら」という合意は、必ずずれます。先代は心配だから来る、後継者は決められないと感じる。どちらも悪意はないのに、関係が悪化していきます。

文書にする目的は、縛ることではありません。お互いが後で確認できる基準を作ることです。「話が違う」を防ぐための道具だと考えてください。

決めること1:出社の頻度と時間帯

最も実務的に効く項目です。曜日と時間帯まで決めます。

  • 「週2日(火・木)、9時〜15時」
  • 「繁忙期は別途協議する」
  • 「それ以外の日は、必要に応じて後継者から連絡する」

毎日出社する形にすると、どうしても現場に口を出します。日数を絞ることが、いちばん確実な予防策です。

決めること2:担当する仕事

「やること」と「やらないこと」を両方書きます。やらないことを明記するのが重要です。

担当する担当しない
主要取引先への同行訪問製造現場への直接の指示
金融機関との関係の橋渡し価格・取引条件の決定
技術的な相談への助言(求められたとき)人事に関する判断
業界団体・地域との付き合い従業員からの相談を直接受けること

最後の行が特に重要です。従業員が後継者を飛ばして先代に相談する構図ができると、後継者は組織を動かせなくなります。「相談されたら、社長に話すよう促す」と明記してください。

決めること3:意思決定への関与

原則は「助言はする、決定はしない」です。そのうえで、例外を決めます。

  • 金額◯円以上の投資については、事前に意見を求める
  • 主要取引先との取引終了については、事前に意見を求める
  • それ以外は後継者が決定し、事後に共有する

ここで株式をどれだけ持っているかが効いてきます。先代が過半数を持ったままだと、形式的には何でも覆せる状態になります。株式の移転時期を含めて設計してください。事業承継計画書の作り方で扱っています。

決めること4:期間と報酬

期限のないルールは形骸化します。「2年間」と決めて、期限が来たら改めて協議する形にします。

報酬は、実際の役割に見合った額にします。現役時代と同水準のまま残ると、会社の収益を圧迫し、従業員から見ても納得感がありません。生活資金は退職金や譲渡対価で確保するのが本筋です。引退後の生活資金をどう作るかを参照してください。

決めたら、従業員に伝える

ここを飛ばすと、ルールの効果が半減します。全体朝礼などの場で、次を明示してください。

  • 先代は週◯日、顧問(または会長)として関わること
  • 業務上の指示・判断は新社長が行うこと
  • 相談は新社長または各リーダーへ

現場が迷わなくなるだけでなく、先代自身にとっても線引きの助けになります

それでもずれたとき

ルールを作っても、ずれることはあります。そのときに感情的な対立にしないため、定期的に二人で話す場をあらかじめ決めておいてください。月1回30分で構いません。

「あのとき言い過ぎた」「あれは言ってほしかった」を、その場で出す。溜めないことが、いちばんの予防になります。承継直後の注意点は承継直後にやってはいけないことにまとめました。